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西岐城の一角で、悠蒼は空を見上げていた。
離れたところ――この城の中核では日々これからのことが話し合われている。
一応仙人界――崑崙の中では中核をになう仙人だった悠蒼だが、ここではただの居候を決め込んでいる。
元々教主から手助けするように言われていたわけではない。それに仙人界代表の太公望や楊ゼンに手伝いを依頼されているわけでもない。頼まれたら関わるつもりでいたが、そうでないのなら無理に入り込む必要も感じない。
そう判断した悠蒼は、仙人界が文字通り『落ちて』からずっと、日々を西岐でぼんやりと過ごしていた。時々、城の中の仕事を手伝うことはしていたが。それでも道士の方がまだ人間も頼みやすいようで、どうしてものとき以外は話しかけられることもない。
それについて思うことはなにもない。
今まで西岐には正確な意味で仙人はいなかった。
楊ゼンは仙人だが……弟子を取っているわけではないし、何より自分で『道士』であると名乗っていたのだから。
そして、まれに来ていたらしい太乙真人なども、ここで暮らしていたわけではない。
それなのに急に押しかけてきた仙人。人間が途惑うのも仕方がないだろう。
そんな中で、悠蒼は――――――日々、封神台の方角を見上げて過ごした。
封神されてしまった玉鼎を思って。
そんな悠蒼に楊ゼンは気付いているだろう。崑崙の仙人の中で、楊ゼンは玉鼎の次に悠蒼を信頼している。そんな悠蒼の今の状態に、気付いていないわけはないだろう……特に玉鼎に関わることだから。
それでも楊ゼンは何も言わなかった。
それが楊ゼンの優しさなのか、それとも単にかける言葉が分からないからなのか。それは悠蒼にも判断はつかないが、それでも悠蒼にとってそれはありがたかった。
ただ玉鼎を思う日々に、それ以外のことは邪魔でしかない。
「玉鼎…………」
ただただ、悠蒼は玉鼎を思い続ける。
今まで心を占めていたものがなくなった悲しみから逃れるかのように。
– END –
お題配布元:追憶の苑