Pride 7
最初に私が映し出したのは、すべての始まりの映像。
プラントの某市の、有名な公園前の映像だった。
近くに港のあるそこは、緑あふれる場所で有名だった。
そして私“たち”はよくここで待ち合わせをしていた。
めったに会うことの出来ない私“たち”。ここからの移動なら、どちらにも負担をかけることなく、それでいて私たちが好きな場所も近くにそろっていた。
そう、この日までは確かに“いた”。
けれど――私はこの日からここへは行っていない。
だって、“会う”ことが目的だったから。“待ち合わせ”の場所だから。二度と会えない人と待ち合わせなんて出来ない。あそこへ行っても、会いたい人には会えない。だから、行かなくなった。
「この映像はC.E.70年2月14日――――血のバレンタインの当日の、セプテンベル市最大の公園前に取り付けられた防犯カメラの映像です」
セプテンベル市はアイリーン・カナーバ様の出身地だ。この事実も、カナーバ様が私たちのことを知っていた一因かもしれない。
そんなことを思いながらも映像は進み、ちょうどカメラの前に十代の髪の長い少女がやってくる。藍色の、少し癖のある長い――腰まで届く髪。映った顔には、緑の瞳がある。そう、当時十四歳の私だ。
周囲の人間が息をのんだことがわかった。
当然だ。“アスラン・ザラ”と同じ顔をしているのだから。
薄緑のワンピースを着た私は、小さなポシェットを肩から提げ、そして小さな紙袋を手にしている。
その中身を私は覚えている。
“渡せなかった”それは、今考えるととてもささやかなものだった。
それでも、当時も今も、受け取ってもらいたかったと……そう思っている。
「あ……」
映像の中の私は、誰かに呼ばれたかのようにぱっと顔を上げると、港のほうに顔を向け……そして右腕を大きく上げて手を振っている。
そしてその先には――――
「アスラン……」
静かな室内に、ぽつりとその声が響いた。
誰の声など考えるまでもない。
キラ・ヤマト。
アスランの“幼馴染”、“親友”だと公言する男。
けれど何も知らない。何も気付かなかった。
そんな男にアスランを幼馴染だと、親友だとは言ってほしくない。
何より“アスラン・ザラ”よりも友人を選んだ。絶対に認めはしない!
私に駆け寄ってくるアスラン。
そうして私の目の前まで来ると、一緒に手を出してぱちんと頭より上の位置であわせた。
これがいつもの私たちの挨拶だった。
もう、二度とすることのないそれ。
それを悲しく思いながらも映像は進む。
もう、そろそろだった。
私がそう思った時、映像の中の私たちがぱっと視線を同じほうへ向ける。――――その先には巨大モニターが置かれている。
映像の右下に示す時間は、全プラントにユニウスセブンが核により崩壊する様が流された時間だった。
私たち以外にも映っている通行人も立ち止まって同じほうを呆然と見ている。
けれどすぐに一番近くにいた通行人が、かばんを落としてそのモニターのほうへ駆け出していた。
当時の私は気にも留めなかったこの行動。いや、気にする余裕もなかった。けれど……アスランは気付いていた。
「映っている通行人の視線の先に、巨大モニターがあります。この時プラント全土にユニウスセブンが核の攻撃を受けた映像が流されていました。見ていただきたいのはこの後です」
私の言葉が終わったすぐ後、映像の中のアスランが――――私を突き飛ばした。
そして起こる爆発。
爆発は、アスランのすぐそばに落ちていたかばんからだった。
「――――――」
誰もが無言だった。
クリアな映像に映し出された色。
あかい、炎の色。
すぐにカメラは壊れたのか、何も映さなくなったけれど……映像は既に切れていたけれど、誰も、ピクリとも動かない。それだけの衝撃なのだろうけれど、あの場にいた私にはこの程度でショックを受けるのはまだ早い。
あの場の地獄絵図を、彼らはまだ知らない。
「この時、私は突き飛ばされたとはいえ爆発の近くにいたため……破片で体には無数の怪我を負っていました。深いものから浅いものまで……それでも、生命はあった。意識はありました。そんな私のそばに、転がってきたものがあったんです。それは――――」
アスラン・ザラの頭部。
「目を見開いて、血まみれになったアスラン・ザラの頭部が転がってきました。どうしてかはわかりませんが、アスランの頭部だけが残り……首から下は、見つかりませんでした。爆発に巻き込まれ、ばらばらになったのでしょう。燃えて灰になったのかもしれません。私もやけどをしていましたから――――」
誰も、何も言わない。
それだけ、目の前で人が確実に死んだとわかる映像を見れば――しかもこんなに鮮明であれば、ショックを受けるのかもしれない。
けれど……私が経験したのはそれだけではない。
「そして……私がアスランの頭部を抱えるのとほぼ同時に、近寄ってくる人がいました。その人は、破片と炎の中にでも問題のないような格好をしていて、私に駆け寄ると『よし、任務完了だ』と……私の腕の中の、アスランを見て、言いました。覚えていますよね? 自分の言ったことなのだから……ねえ、マーチン・ダコスタ!!!」
「っ!!!!!!」
傍聴席にいることは知っていた。
“歌姫”の手をとらなかった私、愚かな私の結末を見たくて来たのだろうけれど……私はただでは死なない。死ねない。アスランのためにも。
そんな思いで言った私の言葉に、室内の視線はマーチン・ダコスタへ向いている。
否定しないことが、肯定であると気付いているのだろうか?
まあ、どうでもいいことだ。
たとえ否定しても証拠は私が握っている。
それはとても否定できないしっかりしたものだ。
「そして、そのまま……“アスラン・ザラ”でない私をそのままに、去っていきました。かばんを置いて行ったのは彼ではありませんが、確かにこの爆発にかかわっていることを示す言葉を発しました。何人かがこの事件に関わっていることがわかると思います。そして、私は駆けつけた救助隊に救助され、病院へと連れて行かれました」
「で、では、何故“アスラン・ザラ”と名乗っているのです」
「犯人たちが、アスランを狙っていたからです。当時の私はこの時の記憶があいまいで、今お話したようなことを証言することが出来ませんでした。はっきりと思い出したのはアカデミーを卒業してからです。しかし、それ以前からアスランが殺されたことは理解していましたし、犯人を探し出したいと言う思いもありました。――――それは父も同じです。ですから、私が“アスラン・ザラ”の振りをすることで、再び犯人たちが“アスラン・ザラ”を狙うのではないか、そう考えました」
だからこそ、私は“男”としてアカデミーに入学した。
幸いに、顔には大きな怪我を負っていなかったから、入学前には顔の怪我は治っていた。
母の死亡にお悔やみを言いに来た人には、ショックで誰にも会いたくないと伝えることで誤魔化せた。
「そして“アスラン・ザラ”の代わりに“私”が死にました。書類上」
「…………」
「次のものは音声のみですが、これを誰が指示をしたかがわかります」
そう言って、私は一つの音声ファイルを再生させる。
– CONTINUE –