Pride 9

「ま、待って!!」
 
 法廷を出ようとした私に、キラ・ヤマトが叫び……私に近づこうと走り出す。けれど当然警備のザフト兵に止められる。それでももがいていたけれど、あわてて駆け寄ったクライン派の人間に何かを言われて動きを止める。
 それでも納得していないのは確実だ。目がそう言っている。
 案の定――――
 
「アスランは! どうしてアスランは!!」
 
 馬鹿な質問だ。意味のない質問だ。そう思う。
 そう思いながら歩こうとするけれど、それを止めるようにさらに叫んできた。
「ねえ、待ってよ!! 答えてよ!!」
 答える気も、義務もない。
 そもそもここは法廷で、私は被告。
 勝手は許されるものではないし、私はすぐにも独房に戻らなければならない。
 そう思うのと、左右にいる軍人が促すのも手伝って、私は一言も口を利かずに法廷を後にした。
 その後ろから悲鳴にも似た叫び声が追ってくるけれど……どうでもいい。
 ああ、でも、法廷にはたくさんのメディア――プラントだけでなく、地球のメディアも来ていたから、キラ・ヤマトが閉廷後に被告に向かって馬鹿なことを叫んでいたことは流れるわけだ……。
 それはそれでいい。
 あの核を動力とした“フリーダム”のパイロットが、あんなわけのわからないことを口にする“子供”だと、世界中に知られればいい。
 
 それでラクス・クラインだけでなく、キラ・ヤマトも落とせるのなら、一石二鳥だ。

◇◆◇

 予定されていた裁判が延長されたと、翌日伝えに来たのはディアッカだった。
「よく来れたね」
「うーん?」
「三隻同盟に参加していて、よく無事でいられたね」
「ああ、そのことか。まー、今問題になっているのは二年前の“アスラン・ザラ”の“暗殺”であって、今回の戦争でのクライン派の行動じゃないからな」
「そう」
「ま、おかげで今議会もザフトも混乱してるぜ。ザフトだってクライン派は多いからな……真実はどうなんだって、ラクス・クラインに聞きたがっているが――――」
「拘束でもされた?」
「ああ。あの後すぐに声紋鑑定が行われて――――“本物”だと認められた」
「そ。なら良かった」
「よくねーよ。今、世界中で大騒ぎだぜ。これじゃあプラントの自治さえどうなるか――――――」
「それはカナーバ様が対処なさるでしょう? あの方なら出来ると思っているんだけど」
「そりゃあ、まあ……」
「プラント市民は今もカナーバ様を支持しているんでしょう? “あれ”の犯人は知らなかったし、アスランが調べたクラインの犯罪に、関わってもいない」
「あー……まあ、それも確認済みだが……って言うか、わかってたのか? カナーバ様なら大丈夫だって」
「私だってプラントがこれ以上混乱するのは避けたいし、連合の思い通りになんてさせない。カナーバ様なら身辺はきれいだからそうひどいことにはならない。――――まあ、すべて終わった後に“退陣”の可能性は考えているけど……」
「おいおい……」
「それでも、すべてを明らかにすれば“あんな”クライン派を議長にすえようとは思わないでしょう? “それ以外の”クライン派だっているんだし」
「まあ、な……。カナーバ様も理解している風におっしゃってたから、いいんだけどよ」
 そういいつつ頭をかくディアッカは、本当に困ったと言っている。
 けれど、だからと言って私が何か出来るわけじゃない。
「……お前にばっかり、頼るわけにもいかないしな」
「頼ったことなんてないでしょう?」
「ぐ……そう言うなよ……。少なくとも、この状況はお前がすべてを用意したんだろうが。この状況すべてはさすがに俺は歓迎はしないが、だからと言ってなかったことになんかできねえよ」
「用意したのは別の人……希望は出したけど」
「お前が望まなきゃ、“あれ”は闇の中だよ。――――俺は“アスラン・ザラ”に会ったことも会話したこともねえけど、だからと言って怒りがわかないわけじゃない」
「…………」
「イザークだって同じだ。――――すっげー怒ってる。見たことないくらいにな」
「そう…………」
 何故かその言葉がうれしかった。
 ディアッカはもとより、イザークだって“アスラン”に会ったことがないはずなのに……それでも、その死に怒りを覚えてくれるくらい、ひどいのだと……シーゲル・クラインたちのしたことは許されないと思ってくれている。たとえどんな理由であろうとも。
 それだけでもういいと、一瞬思ってしまうくらいだった。
 けれど、それだけでは許せないと、そんな感情が中からわきあがってくるんだけれど。
 
 まだ、足りない。
 
 あの悲しみを、怒りを昇華させるには、まだ……。
 
 そんなことを思っている私をじっと見つめていたディアッカが、ふっと疲れたように口にする。
 
「それから……キラもな」
「…………」
 ぴくりと、肩が揺れてしまった。それでも表情の変化はなかったと思う。
「“フリーダム”で、ラクス・クラインを支えた“英雄”って言う、位置づけだったんだけどな……法廷でのあの行動で、ひどくバッシングされてな……特に地球のメディアに」
「そりゃあ……“フリーダム”は核を動力としているからね……」
 バッシングのネタにはちょうどいい。
 そんなことを口にすればディアッカが「そうなんだよな……」と呟く。
「『あんなパイロットに“核”を与えたのか』って、ラクス・クラインも批判されてる」
「餓鬼だものね」
「…………まあ、そんなわけで、ラクス・クラインとキラ・ヤマトの評判は時間がたつほどに下がってる」
 それにジェネシスを壊したわけじゃないしな、“フリーダム”は……。
「破壊したのは“ジャスティス”……。それなら、イザークとディアッカが“英雄”って言われてるんじゃないの?」
「…………」
 答えないところを見ると、図星のようだ。
 それを指摘すれば「勘弁してくれよ……」と返ってきた。
「もう、メディアがうるせーのなんのって……よくお前、あんなのに追い回されて平気な顔してたな……」
「追い回されてたのはほとんど“アスラン”だしね」
 肘をつき、手の甲にあごを乗せて私は言った。
「私が“アスラン・ザラ”になったのは、血のバレンタイン以降だからね。ほとんどアカデミーとザフトで追い回すことは出来なかったから」
「ああー、そう言えば、そうだな…………」
 その言葉に、ディアッカはマズイ、と言う表情を見せた。
 ――――別に、気にしないけど。
 それを伝えると、まじめな顔をして言われた。
「そう言うわけにはいかないだろう。知らなかったとは言え、俺たちは……」
「? 別に、ディアッカたちは関わってないし――」
「そう言うことじゃなくて!! ああ、くそ、鈍いのは“アスラン”じゃなくてお前かよ……」
「アスランは鈍かったけど……私は別に……」
「いーや、鈍いね。これだけははっきり言える!!」
「…………そんなに力いっぱい言わなくても……」
「言わなきゃわかんないだろうが!!」
「…………なんでそんなに怒って――――」
「あー、もういい!!」
 なんだか自己完結をしてしまったディアッカに、私は戸惑うばかり。
 まったく、何が言いたいのか……。
 そんなことを思っていた私に、ディアッカはびしっと指を突きつけて言う。
 
「とにかく! 今はまだどこもかしこも混乱しているから裁判は延期!! その間に何とかするから、お前も――――」
 
「何とかするって……別に私はどうなってもいいのよ?」
 
 そう口にすればディアッカは一瞬のうちに今までの勢いをどこへやったのかと疑問に思うほどに……
「え?」
「別に私ははじめから銃殺刑になると思っているし、そのつもりで法廷に立ったし」
「ちょ、わかってて……!!」
「わかってるよ。……私はザフトの軍人で、しかも赤服。たくさんの地球軍の兵士を撃った。そして、最大戦犯と言われるパトリック・ザラの子――――」
「親父さんのことは関係ないだろうが!」
「それでも、ナチュラルの感情を落ち着かせるには一番の人材でしょう?」
「っ……。それでも! お前はザフトを離反しちゃいないじゃないか!!」
「でも、ディアッカやイザークみたいな“功績”はない。ナチュラルの気持ちを静める、“地球をジェネシスの砲火から守った”と言う功績はない」
 
 だから、無理だよ。
 
 そう言った時のディアッカは、悲しそうな表情だった。
 変なの。
 あの時、オーブで私はディアッカにひどいことを言ったのに――――そんな私に、そんな表情をする必要ないじゃないか。

– CONTINUE –

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子