見え隠れするもの
「やれやれ……」
チャスカ・ザラとの通信を切ったギルバート・デュランダルは真っ黒になった画面を苦笑しながら見ていた。
通信の切れた画面は何もうつさないが、それでも先ほどまでつながっていた先で、その相手であったチャスカが幼馴染みたちに説明を求められている姿が見える気がした。そして、その回答はさらにわかりにくいものなのだろう。
思えば、ギルバートが最高評議会議長としてチャスカに会った時も、考えが透けて見えそうで見えなかった。アスランに再会した時はアスランが何を欲しているのかがすぐにわかったというのに、チャスカの考えは表面上はわかっても、深い部分まではわからなかった。
その時に“変わった”と思ったものだ。幼いころから知っているチャスカは変わったと。
以前にレノアに連れられていた時の姿を思い浮かべた。
その時にアスランもいたが、再会した時のアスランの姿はあの時のままだったように感じた。軍人としての経験。父と袂を分かち、ザフト離反と言う罪を犯しながらもプラントのために行動した経験。オーブへと亡命させられた経験。オーブでの亡命者としての経験。それが影響は与えていたものの、根本は変わっていないようだった。
けれどその妹のチャスカは違った。
本当は何を考えているのかが見えなかった。
彼らの経歴を振り返れば、辛く厳しい経験をしたのはアスランのほうであると誰もが思うだろう。
アカデミーの成績はアスランがトップ。チャスカはその幼さと幼馴染みたちの優秀さからトップ10には入って赤服を着ていたものの、成績は彼らとは比べ物にならない。
そしてザフトでの戦績。アスランがクルーゼ隊に配属され、最前線で戦っていたためどうしてもアスランのほうが戦場の経験は豊富だ。たまたまチャスカのほうが先に功績をあげたためにフェイスに任命されるのは早かったが、そのあとすぐにアスランも任命されている。戦績の大きさでいえば、アスランのほうが勝っているだろう。チャスカよりもアスランのほうが先に“あの”功績をあげていたら、チャスカのネビュラ勲章およびフェイス任命はなかったのかもしれない。
そんな微妙なタイミングと、アスランの妹であるということ。
他諸々を鑑みて、ああなることは予測できなかった。
確かに前大戦後、チャスカ自身もパトリック・ザラの子と言う目で見られ、厳しい立場に立たされた。
けれど彼女がいたのはザフト、しかも幼馴染みが隊長を務めるナイチンゲールの臨時護衛のような立場。そしてその艦は、全大戦終盤からずっと彼女と行動を共にしていた。一時チャスカはそこから離れたものの、戻っていった。――――それまでの間に、隊長であり艦長であるエリザベス・ライトナーが手を打たなかったはずがない。
チャスカを受け入れはすれ、拒否する人間は理由を付けて移動させられていたはずだ。
そんなぬるま湯のような環境が前大戦後から今までの彼女の場所だったはず。
それを考えれば、あの性質はどこで得たのだろうか――――。
と、そこまで考えていたところで、ギルバートは部屋に静かに入ってきた赤服を視界の隅にとらえた。
元最高評議会議長の監視人、としては少々実力が足りないのではないかとギルバートが思った人物。けれどこのタイミングで入ってくるところを考えると、そうではないのかもしれない。
そもそも、監視人のスケジュールはザフトが握っている。――――そしてそれを知る立場に、チャスカはいるのだろう。本人は過去、ギルバートとかかわりがあったために監視人にはなれないが、ギルバートが議長だったころに比べればその立ち位置は上がっているはずだ。知れたとしても不思議ではない。
そう、今回のたくらみを知らせていい人物かどうかの判断は、楽だろう。
「これから、外に連絡を取ってもらいます」
「……わかっているよ」
「手短にお願いします。さすがに長時間ではごまかしがききませんので」
「ああ、そうだね――――」
てきぱきと準備を始めるその姿。慣れたその姿から、ああ、この赤服もそれだけの経験をしてきたのだと思った。
そうでなければ元最高評議会議長である戦犯の監視人などやってはいけない。
そして何も言わずともやってきたということは、チャスカが話を通したのだろう。
チャスカは出来ることしか相手に要求しない。
そして今回のこと、チャスカは彼にならできると判断した、そしてそれを他人に漏らさないと判断した。
優秀であって当然だった。
「ああ、突然悪いね、マーク。……驚かせてすまないね。ひとつ、頼まれてほしいことがあるんだが。…………その点は大丈夫。保証はするよ。実はね――――――」
– END –