2. 祈り
「やっぱり僕じゃダメなんですね」
生徒会室の窓から雨の降る中庭を見下ろしていた天蓬は、そう寂しそうに呟いた。
その表情を見るのは辛い。
自分ではどうすることも出来ないからなおさらだ。
何か言おうとしても、思いつくのはありきたりな言葉ばかりだ。
「お前にはお前の出来ることがあるだろう?」
椅子を引き、身体ごと天蓬へ向きながら言えば、天蓬は悲しそうな表情を隠そうとして失敗した表情を見せる。そんな表情で俺を見ていた。
「金蝉は優しいですね」
そう一言呟くとまた中庭へと視線を落とす。
天蓬の視線の先には天蓬の弟である八戒。
そして俺の弟である三蔵。
初めは妙な組み合わせだと思ったものだ。
隠してはいるが若干不良の部類に入る三蔵と、真面目な八戒。
そんな二人がどうしてか出会い、仲良くなり、その上八戒は三蔵に心を開くまでになっている。
――――あの組み合わせは不思議だけれど……綺麗ね。
それを言ったのは誰だったろうか。
そのことを知った初めの頃はそうは思わなかったけれど、だんだん二人の様子を見ているうちに同じように思い始めた。
自分の弟ながら、驚かされる。
そんなことがあって、八戒をずっと心配し、見守っていた天蓬もほっとした頃。
今日のような天気の日に八戒が起こす行動に、自分ではどうすることも出来ないと天蓬は落ち込むようになってしまった。
側で見ている自分からすれば、そんなことは決してない。
天蓬は天蓬で、三蔵には決して出来ない位置で八戒を支えている。
それでも天蓬は『どんな時でも』八戒の支えになることを願っている。
――――――三蔵と同じように。
「天蓬」
「はい?」
名前を呼べばすぐに返事が返ってくる。
俺はチラッと中庭を見て、天蓬に告げる。
「そろそろ三蔵たちが来るだろう。……タオルを用意していた方がいいんじゃないか」
「そうですね」
濡れ鼠になっている八戒を、三蔵は保健室へは連れて行かずに必ず生徒会室に連れて来る。
本当の理由は分からない。
けれど、ここには天蓬がいる。
――――――八戒を心配し、八戒が信頼する天蓬が。
雨の日はこの部屋も雨の匂いに満たされる。
それは嫌なものではなく……けれど少し、悲しい。
沢山の想いが満ちていく。
願わくば、それが喜びになるように――――
– END –
お題配布元:創作者さんに50未満のお題