たまにこんな風に……

「何してるの?」

「…………そっくりそのまま、その言葉返すよ」
「俺は練習試合の帰り」
 で、どうしてこんなところに? と続ける佐伯君。
 けれど私には答えられるだけの明確な理由はない。
「別に、何となく」
「何となくで来る様なところじゃないよ」
 呆れた様に言って、佐伯君は私の隣りに座る。
 物好きだと思う。
 有名女子中の制服を着た私の側にいるだけで目立って仕方がないのに。
 ま、そんな私は私で、外での行動に注意しなくちゃいけないんだけれど。

「気が向いたから」
「それが答え?」
「それ以外にどう言えと言うの?」
「……誰かに何か言われた?」
「――――――」
 大して付き合いも無いのに佐伯君はよく気付く。誰も……少なくとも、クラスメイトは気付かないことなのに。
「近衛さんのことじゃない?」
「…………何でそんな風に思うの?」
 言って、これは佐伯君の言葉を肯定している様だと思った。少なくとも私に近い大人は思うだろう。
 佐伯君がそう思うかは分からないけれど。
「だって、醍醐さんがこんな風になるのは、近い人達のことで何か言われた時だけだろうと思って。今日は平日だから、一番可能性が高いのは近衛さんかなと」

 ――本当に、よく頭が回る。

「私がいると彰子がダメになるの?」
「…………それが、言われたこと?」
 佐伯君の質問に、私は頷くことで答える。
「……俺はそうは思わないけど。近衛さんのあの性格は少なくとも醍醐さんが作ったわけじゃないでしょう?」
「でも、私が甘やかすから今の状況らしいよ」

 そう言われた。

 それでも私が顔見知り程度の佐伯君に話せるのは、そう言ったのが大して私にも彰子にも近くない人物だったからだ。
 これがテニス部の顧問の先生とかだったら、佐伯君どころか両親にも言えない。
 それまで口にすれば、佐伯君は笑った。
「それなら気にする必要は無いよ。近衛さんのことをよく知らない人が言っても説得力がない」
「言った本人はよく知っているつもりみたいだけど」
「“つもり”でしょう?」
 そう言って、また笑う。

 そんなもの、何の役にも立たない、と。

 私自身分かっていたことだ。
 けれど、言った本人は自分が正しいと思っていて、私の行動は間違っていると言い切った。
 普段なら気にすることのないそれに囚われたのは、今まで言われて来たこと以上にその言葉がきつかったからだ。
 今までの、優しさも、私を心配した様子もないそれ――――。
 私だけを悪者にした、ただ学校の期待を一身に集める彰子が唯一頼る私を邪魔者とした感情。
 そんなものを向けられて、平気でいられるほど私は出来ていない。

「気にする必要は無い。それは二人をよく知りもしない人が言えることじゃないし、知っている人は俺を含めて誰も言わない」
 だから落ち込む必要はないと言って、佐伯君は私の肩を叩いた。
 …………それに一つ溜め息をついて私は立ち上がった。
「…………分かってるけどね」
「それなら尚更落ち込む必要はないじゃないか」
「まあね。――――でもたまに、訳も分からないけど落ち込むの」
 そう言うと、佐伯君はふっと笑った。

「醍醐さんもやっぱり中学生だったんだね。いつも冷静だから、本当に同い年か疑問だったんだよね」

 そう言うと、急に私の手を引いて歩き出した。
「じゃ、今度は俺に付き合ってよ。醍醐さんに付き合ったんだからさ」
「はあっ!?」
 急なことに声を上げたけど、佐伯君は気にすることもなく私を引っ張って行った。
 私は付き合ってくれと頼んでない、と言おうとしたけれど、佐伯君のおかげで浮上したことも分かっているから何も言えず、結局佐伯君に付き合うことになってしまった。

– END –

2020年10月27日

Posted by 五嶋藤子