また、会いましょう
「やっぱりここにいたんだね」
青い空と、離陸の順番を待っている彰子の背後から、以前に聞いたことのある声がかけられた。
「“やっぱり”?」
「さっき手塚を見送る時、君を見た気がしたからね」
制服を着ているから余計にわかったよ。
笑顔でそう言った不二が指したのは彰子の着ている聖華中等部のセーラー服だ。
そんな不二の後ろには、数日前に顔を合わせた青学男子テニス部のレギュラーたち。
その表情は、先ほど彰子が目にしたときとは違い、複雑な……申し訳なさそうな表情をしていた。
◇◆◇
手塚の乗った飛行機の時間はあと少し。
だからまだ、飛行機は停まったままだろう。
それがわかっているから彰子は視線を滑走路とは反対側――――青学男子テニス部レギュラーのほうへ向ける。
「話さなくて良かったの?」
穏やかな表情で聞いてくるのは不二だ。
この中では一番“自分のような人間”に慣れているのだろうな、と、彰子は不二が声をかけてきた理由を考えた。
彰子は自分が聖華の制服を着ているとき、どういう風に見られるのかを知っている。
テニス部のユニフォームを着ている時とまったく違う印象を与えることもまた、麻里香に指摘されて理解している。
以前彼らと会ったときは試合直後で、自身はそのユニフォーム姿だった。
けれど今は制服――――いわゆる“イメージ上の”お嬢様そのものを現したかのような姿に、他のメンバーは声がかけづらかったのだろう。
「話は、昨日したから」
だから大丈夫だと言う彰子。しかし、内心はそうでないことは表情に表れている。そしてそれを見逃すような不二ではない。
「大丈夫な様には見えないけれど……。隠れていないで、出て来ればよかったのに」
「…………」
「君と、手塚の関係は聞いているし、そんな君たちの邪魔はしないよ?」
いくら僕たちが仲間でもね。
その言葉に彰子は首を振る。
「国光の一番は、テニスだから。テニスで全国優勝。それが一番大切なものだから。――――テニスが一番なのは私も同じ。だから、いいのよ」
とてもよさそうには見えないが、それでも彰子もまた同じだと言ってしまってはそれ以上、そのことは口に出来ない。
ほんの数日前に会った時――とは言え言葉を交わしたわけではないが――、一緒にいた麻里香の制服から二人がどこの中学かを知った。
聖華のテニス部といえば現在全国大会二連覇中……団体、ダブルス、個人全てにおいて。
その部長である近衛彰子が全てに関わっているとなれば、“彰子の一番”も自ずとわかってくる。
それでもその表情を見てしまえば、これでよかったのかわからなくなる。
昨日話したとは言っても、電話での会話だけで直接会ってはいないかもしれない。けれど、今それを問うことが出来る人間はいなかった。
そんな彼らの葛藤がわかったのか、彰子は困ったような表情で……少し、笑みを浮かべようとした表情で言う。
「気にすることはないよ。貴方たちだって、大切でしょう?」
国光のことが。
「仲間なんだから、一緒に全国を目指す仲間なんだから遠慮する必要はないのよ」
私だって――――これでも遠慮してはいないんだよ。今日は貴方たちに譲ってもいいと思うくらいには……話し合ってるし。
そう言った彰子は再び視線を滑走路へと向けて――そして手塚が乗っているであろう飛行機が飛び立つのをただ黙って待っていた。
– END –