鳥籠姫 9
「今日からここで観戦する」
父親に言われて連れて来られたのは、昨日とは別の個室。
昨日までは他の人間もいた別の部屋での観戦だったけれど、今日からは個室のVIP席というだけあって、広い部屋を私と父親の二人で使うことにしたようだ。
(お金の無駄使い……)
金持ちに言っても仕方がないことだとは思うけれど、思わずにはいられない。
ただこれからの試合――特に南野君が出場する試合で昨日のように平静でいられる自信はないし、戦いが激しくなる事が予想されるから、さらにその可能性は高くなるだろう。
それならば、周りに気付かれないためにもここで観戦することは適当なんだろうな。
そう思うことにして、私はクッションの効いた椅子に座った。
今日の試合の中に、人間が三人出てきた。
船の中で確認したら、M-1号、2号、3号と言う名前で登録され、Dr.イチガキチームメンバーだと言うことが分かっていた。
イチガキと言う名前も補欠で登録されていたから、きっとこのイチガキと言う名前の妖怪があの三人をあんな状態にしたんだと思う。
(ひどいことをするのね……)
妖怪が人間を食料とか傷つけるものとか、そう言う風にしか見ていないことは理解している。
けれど、だからと言ってそれが納得出来るものでもない。半分人間の私には。
イチガキが白衣を着、それほど妖気を感じないところから見て彼ら三人を実験に使っているとは予想できる。
何故こんなことになってしまったんだろう。
こんなこと考えるVIP席に座った人間なんていないだろう。
きっとこんなこと考えるまともな人間は、こんなところに来て観戦はしていない。
Dr.イチガキチームの勝利で、この試合は終わった。
その後にごたごたはあったけれど……結局、そんなことも観戦している人間を喜ばせるだけ。
そう思いながら、ふっと力を抜いて椅子の背もたれに体を預ける。
次の試合まで片付けやいろんなことがあって、時間が余ってしまった。もちろん少しだけど。
そんな時、少し遠くから感じなれた妖気を見つけた。
(南野君も……見てるんだ)
意外だったけれど、でも良く考えれば敵情視察と考えれば不思議じゃない。
それに南野君って結構抜かりなく行動している気もする。
何はともあれ彼が近くにいることに、そしてその近くに誰もいないことにほっとする。
そう簡単に彼が――蔵馬が私の高校のクラスメイトだと言うことはばれないだろうけれど……それでもここでは気にしないわけにはいかない。
試合だけでも大変だろうに、私と関わりがあるというだけで他の事にまで気にしなくちゃいけない、なんて状態に絶対させるわけにはいかない。
そう改めて決心したとき、今日最後の試合が始まる。
『さあ出ました!! 前回大会優勝の戸愚呂チーム登場です!!』
そこに出て来たのは、この島に来る船の上で会った男。
最初に見たのは垂金の別荘で、浦飯幽助及び桑原和真と戦っている映像。
船上で会った後、私は部屋に戻るとすぐに確認した。
今から目の前で行われる試合に出る『戸愚呂チーム』は、左京がオーナーを務める試合だと言うこと。
そこからあの垂金に雇われていたのは、狂言だったと言うことも――もしかしたら、二重に雇われていたのかもしれないけれど――予想出来た。
今の状況を見るに、結局のところ左京の手のひらの上で踊らされていたわけだ、垂金は。
(別に、私に関係ないけれど)
垂金がどうなろうが知ったことではない。
そんな中、目の前ではあっという間に戸愚呂チームの対戦相手全員が簡単に倒されていった。
垂金の別荘の時と今を考えると、あの時は力をかなり抑えていたようだ。
今とは比べ物にならないから……。
何のために? と思って、でもそれはばかばかしい問いだと気付く。
さっき私自身で左京の手のひらに踊らされていたと考えたくせに……。
外に出すわけにはいかないから、内心でため息を漏らす。
私も左京にかかれば簡単に操れるんだろうなと、そう思いながら――――――。
『よって、8チーム目は戸愚呂チームに決定です!!』
(強い……!!)
今日の最終試合を見ていた蔵馬は、そんな感想を抱いた。
明らかに全力どころか半分の力も出していない戸愚呂が、いとも簡単に相手チームの妖怪を一匹残らず倒してしまったのだ。
恐らく、いや、確実に勝ち進めば――勝ち進まなければいけないが――最後の相手になるはずだ。
今の浦飯チームの中で、果たして戸愚呂と互角に戦えるものなどいるだろうか。
いないだろうと蔵馬は思う。
幽助は昨日の試合で慣れていないのに霊丸を連射してしまったため、今は使えない状況。
桑原では無理だろうと、大会前に特訓に付き合っていた蔵馬になら分かる。
飛影も、炎殺黒龍波を右手を犠牲にして出した。
自分の現在の力は理解している。
そして、力の程は分からないが覆面も戸愚呂に勝てるだけの霊力を感じることが出来ない。
今のままでは無理だと、考えるまでもなく分かっている。
これからの試合で力をつけるしかない。
そこまで考えて、どこまで強くなれる? と蔵馬は思う。
だが、これから次第としか言いようがない状況。
どうすれば良いのか。
今は、そこまでしか考えられなかった。
そんな時、よく知る気配が動くのが蔵馬には感じられた。
どんよりとした気配の多い中、その澄んだ気配は嫌でも目立つ。
気配はVIP席のある辺りから感じられた。しかもそこから動き始める。
それが何を示すのか、はっきりとは分からない。
「藤堂さんが、この大会運営に直接関わっているとは考えられないけれど……」
だが、もしかしたら、と言うこともある。
直接聞き出すしか方法はないのだけれど、ここで簡単に会えたとしてその後がどうなるか……。
もし、大会の主催者に近いものであったら?
彼女自身が何かをするとは、彼女の持つ気からとても考えられない。
しかし、その周囲は分からない。
人間に負けるつもりはないが、ボディーガードとして雇われている妖怪はどうだろう。
そう強い奴がいるとも考えられないが……だからと言って、軽視するわけにもいかない。
何よりごたごたを起こすことによって、これから先の試合に影響が出ないとは言いきれない。
いや、きっと出るだろう。
そのために蔵馬は知りたくても直接喜雨に会って尋ねることが出来ないでいた。
– CONTINUE –