鳥籠姫 11
南野君の最初の相手は画魔という妖怪だった。
始まってからすぐに画魔は自分の体に模様を書いて……妖気が上がった。
本人は『化粧』と言っているけれど…・・・。
――――化粧には本来魔力が宿っている。
唇を読むとそう言っていた。よく分からないけれど……実際にそれを利用している妖怪を見れば信じるしかない。
――――ここに来てから分からないことが多すぎる。
そんなことを考えているうちに、南野君が反撃をする暇を与えない様に画魔が攻撃を繰り出す。
それでも当たってはいないけど――――
「……??」
けれど気付いたときには南野君の片足に変な模様が描かれていた。
その状態で攻撃をかわそうとする南野君は、その模様が描かれたほうの足が重そうだ。
(……重い?)
『なんと画魔選手、敵にも呪いの化粧をほどこすことができるようです。それに加えてあのスピードと攻撃力!! 蔵馬選手大ピンチ』
そして南野君はさらに模様――化粧を施されてしまった。
「っ……」
身を乗り出して、見ている私の視線の先には南野君に攻撃を仕掛ける画魔――――
「えっ……?」
けれどその攻撃が届くことはなかった。
その前に画魔は体を切られていた――――――南野君の髪にまきついた鞭に。
「ほう……」
感心したように、父親は声を上げた。
私もまさかそんな風に反撃するとは思わなかったから、目を丸くして見る。
このまま南野君の勝利だと、そう思っていた。
――――思っていたんだけれど……。
いや、南野君が勝ったことは勝った。
ただ相手もここまで勝ち進んできたんだから、実力があってもおかしくなかったわけで。
南野君は勝ったけれど、その代わりに妖気を封じられてしまった。
しかも相手は死んでいるのにその呪いが解ける様子はない。
それだけの実力を相手は持っていたんだろう。
それが良く分かる。
――――南野君の妖気をまったく感じることが出来ないんだから。
そして次の試合。
勝ち抜き戦だから、南野君はリングに上がったまま。
相手は凍矢という妖怪――――さっきの画魔よりも強そうだった。
何より仲間意識が強そうで……意外だったけれど、そう言う妖怪もいるんだとなぜかほっとしてしまった。
状況的には南野君に不利なのにもかかわらず。
本当に、妖気を使えないのは不利にしかならない。
それをこの試合で嫌と言うほど知らされる。
凍矢の攻撃は何のためらいもなく南野君を傷付けていく。
南野君の赤い血が沢山流れた。
それに声を上げそうになるたびに、私は唇をかんで我慢するしかない。
ここまで来ても、父親にそんなところを見られたくないという思いがまず先に来る。
そんな私の状態を、父親に知られていると分かっていても――――――。
「……っ!!」
南野君が凍矢の攻撃を受けてダウンしてしまう。
それに私はとうとう立ち上がって身を乗り出した。
『ダウン!!』
審判の言葉が聞こえる。
けれど、それでも南野君は立ち上がる……。
どうして、ここまで出来るんだろう。
どうして、ここまでするんだろう。
ゲストチームが負けてしまえばどうなるか位分かっている。
けれど、だからと言って――――――。
「面白いなあ、喜雨。あの男、まだ何か考えているぞ」
「え……?」
父親を振り返ると、意味深な表情で私を見ている。
「まだ、あの状況で諦めてはいないということだ」
「…………」
視線をリングに戻すと、父親の言った通り南野君は諦めた目をしてはいない。それどころか、きちんと意思を持った目をしていて……。
でも、どうしてだろう。
その決めたことをやって欲しくないと思うのは――――――。
そう思っている間に、凍矢は最後だと言わんばかりに氷の剣を南野君に向ける。
動きを制限されている南野君に、避ける手段は――――――
ザシュ!!
その体を突き抜ける音が聞こえたとき、私は諦めた。
南野君は、もう……。
でも、諦めたはずなのに私は意外にも冷静で。
それが自分自身で信じられなかった。
けれど……
「ほう……」
「――――――――――――っ!!!」
父親の感嘆の声ではっとなって、ようやく目の前で起こっていることが理解できた。
理解すると同時に目を見張る。
「なんて……無茶を……」
私の言ったことは間違っていないと思う。
南野君の腕からは――――植物が生えていたんだから。
最初の六遊界チームの呂屠との試合を一瞬思い出した。
けれどその時とは明らかに状況が違う。
何より南野君の腕から生えた植物は、凍矢の体を貫いていたから――――――。
『逆転ダウーン!! カウントをとります!!』
審判のカウントの間、凍矢は立ち上がる様子を見せなかった。
(南野君の……勝ち?)
もう凍矢は立ち上がれそうにないから、そう判断してもいいんだろう。
けれど動けないのは南野君も同じ。これ以上戦うことなんて出来そうもない。
(じゃあ――――――)
選手交替。
そう思った私の耳に、信じられない言葉が聞こえてきた。
「交替はないだろうな……」
「え?」
今、なんて?
そう言おうと父親を見た私に対し、当の父親はいつもと変わらない表情でさらりと言う。
「あの状態でも交替は許さないだろうからな。奴は次の試合で」
死ぬ。
「どうして!!!??」
父親が最後まで言うのを待たずに私はそう叫んでいた。
私の考えを知られないように、なんてことはもう頭にない。ただどうしてそんなことになるのか、知りたかっただけで……。
「ゲストだからな」
何度も何度も彼らの不利の原因に私自身が考えたことを言われても、今回ばかりは納得できない。出来るわけがない。
それでも現実は無常にも流れていくもので、審判が交替を認めたにもかかわらず本部がそれを許可しなかった。
――――父親の言う通り。
そして、次の相手は南野君を――――――
「っ!!!!!!」
その光景を見た私は、立ち上がってガラスに両手をつけて身を乗り出していた。
大きな音が部屋に響いたし、両手のひらが痛かったけれどまったく気にならなかった。
南野君が殴られダウン。カウントを取ろうとした審判。それを無視して南野君を起こす妖怪。そしてそいつがさらに南野君を殴ろうと――――
「やめっ……」
やめてと、そう叫ぼうとして両手に力を入れた時、南野君を殴ろうとした妖怪がぴたりと動きを止めた。
私の声が聞こえたわけではないだろうから、なぜ殴るのをやめたのか分からなかった。
けれど、それはすぐに分かった。
妖怪は自分のチームのメンバーとしゃべって、そして浦飯チーム側を見る。
そこには――――――攻撃の構えをした浦飯幽助と言う子。
その子が止めたんだと分かった。
表情が、本気だった。
「……はっ」
南野君がカウント負けして、ようやく私は脱力して椅子に座る。
浦飯幽助の様子から、南野君は大丈夫だと言うことが分かったから。
「よかった……」
そう呟いた私。
父親は、何も言わなかった。
後で考えると、何故言わなかったのか不思議で仕方がなかったけれど。
結局、あの妖怪は浦飯幽助によってぼこぼこにされた。
あれで南野君が殴られたことの代わりにはならない気がするけど……それでも勝ったからいい。
その後の陣と言う妖怪との試合。
てこずったようだけれど、それでも何とか……。
最終試合は運営側――――というより豚尻のせいで浦飯幽助が出られなくなった。
その時点でまたどうなるのかはらはらしたけれど、唯一残っていた桑原和真と言う子が試合に出た。
――――重症だったはずだけど……途中で何か良いことがあったのか、最後にはあっけなく勝ってしまった。
結果、この試合は浦飯チームの勝利で終わった。
浦飯チーム側は、誰も死ぬことはなく。
– CONTINUE –