鳥籠姫 25

 蟲寄市の中心。既に何度か来たことのある野原に私は蔵馬と海藤君、ぼたんさんに桑原君と来ていた。
 私だけ来たことがあるから、案内しなきゃいけないかと思ったんだけど……まあ、蔵馬も一緒だったから。蔵馬は別に案内するまでもなく異常なこの場所に行き着いてしまった。
 けれどここには何もない。
 何にもないところに、本当に魔界の穴の中心なのか疑問に思ってしまうだろうけれど……。

「人為的に空間に歪みをつくるときは必ず円型になり、その中心には強力な術者がいる。場所はここ以外に考えられない」

 蔵馬の言葉から導き出されることはひとつ。

 ――――術者は“地下”にいるということ。

「一度、幽助達と合流しよう」
 蔵馬の言葉にみんな頷く。
 私ももちろん同意したんだけれど――――――

(うん……?)

 どこからか視線を感じて、みんなに気付かれない程度に首をかしげた。
「――――――喜雨?」
 小さく、隣の私にしか聞こえないくらいの声で蔵馬が名前を呼んだ。
「気付いた?」
「え……」
 はっとして蔵馬を見れば、表情を変えずに続ける。ただ、目を見れば蔵馬も感じていることは分かる。
「見張られている……敵だ」
「……いいの? 放っておいて」
 心配しながら聞く私に、蔵馬は淡々と言う。
「罠かもしれないからね。今は気付いていない風を装っておこう」
「――――分かった」
 見張りが離れて行ったとき、逆につけたほうが良いんじゃないかとも一瞬思ったけれど、無闇に動くのは確かに良くない。だからこそ集団でここへ来たのだから。ここで個人で動いてしまっては、何のために二手に分かれたのか……ってことになってしまう。更に別れて行動するのは、確かに良くない。

 そこまで考えて、私もまだまだだなと思いながら蔵馬たちの後に続いて戻った。



「幽助たちは大丈夫かねえ……まあ、師範がいるから大丈夫だとは思うけど」
 幽助君のうちへ行く途中、ぼたんさんがぽつりと呟いた。
「つっぱしってんじゃねーの」
「さすがにそれは……師範がいるわけだし……」
 桑原君が言った言葉を、さすがに私は否定する。
「それに……街の状態を見れば、さすがに幽助君でも自重すると思うんだけど……」
「――――――喜雨、君の方が何気に酷いこと言ってるよ」
「そう?」
 緊張感のない会話をしていた私の目に、少し驚いた表情を見せる海藤君が映った。
「海藤君?」

 どうかした?

 そう問えば、少し考えた後に
「――――――南野と藤堂さんって仲が良かったっけ?」
 そんな問いに、そう言えば学校ではそんな様子を見せていなかったなあと今更ながらに思う。
 それに実際のところ、ここまで話す様になったのは新学期になってからだった。――――そう、暗黒武術会の終わりからだ。
「……そうでもなかったよね?」
「そうだね」
 少し考えて言った私に蔵馬も同意する。
 すると今度はぼたんさんと桑原君が驚いた表情をする。
「そうなのかい!?」
「そんな風には見えなかったけどな」
「――――――そうなのか、南野」
 そんなぼたんさんたちの言葉を不思議に思ったような海藤君が蔵馬に聞く。
「――――まあ、こんなに話すのは確かに春からだけどね」
 私に少し、目を向けながら蔵馬は言った。
 それに三人は三様の表情を見せるけれど、ぼたんさんと桑原君は分かったような表情をする。
「もしかして……武術会からかい?」
「そうですよ」
 その言葉に二人は納得したようだったけれど、今度は海藤君が聞く。

「藤堂さんも武術会に行ってたのか?」

「…………言ってなかったのか?」
 海藤君の言葉に、蔵馬まで私に疑問をぶつける。
 けれど、私は海藤君の言葉にびっくりしてしまった。
「あれ? 言ってなかったっけ?」

 武術会で幻海師範たちに出会ったって。

 目を丸くしながら言えば、海藤君は呆れたように首を横に振る。
「言ってないよ。……そう言えば、どうして南野のことを知っているのかは聞いていなかったな」
「そう、だっけ…………?」
 そんな風に言えば、四人とも呆れた表情をする。
 そんな中、海藤君がぽつりと呟いた。


「藤堂さんって意外と抜けてるんだな」


 それに憮然とする私をよそに、残りの三人は同時に頷いていた。



 結局、幽助君たちと合流する間に私が蔵馬たちのことを知った理由を説明することになった。
 ただ――――私の父親がB・B・Cのメンバー……つまり魔界の穴を開こうとしていた左京と同じ側の人間だったと言うことは言えなかった。
 その辺りを、言葉のスペシャリストである海藤君に誤魔化すのは大変だったけれど……蔵馬が誤魔化してくれた。
 それでもさすがに『気になるところがある』と捕らえられたようだったけれど。
 聞いてはいけないことだと、海藤君は判断してくれたみたいだった。
 そこはありがたかった。さすがに気が回るなあ、と思ってしまう。その辺りは蔵馬と同じ。

 私の周りにいる頭のいい人は、こういう人が多い。





「付けられていたこと以外に他に何か変わったことはなかったかい」
 一時間遅れで師範たちと合流して――――その時にごたごたしたけれど――――それから今日のところは解散となった。
 私はひとりで行動しないようにみんなで確認した手前、方向が同じだった師範と共に帰ることになった。
 とは言うものの、一人暮らしの私はどうしても最後は一人になってしまう。行動はしないけど。
 もちろんそれは師範も一緒なのだけれど……師範は私と違って強いから――――――。
「なかったですよ。穴の中心も、前に行った時と変わらず静かでしたし……」
「そうかい」

 それならいいんだけどね。

「向こうが接触してきたからね。この先、今回のようなことがないとも限らない」
「そうですね…………」
 師範の言葉に私は神妙な表情を浮かべる。

 そう、今日みたいに一般の人たちが巻き込まれないとも限らない。
 私達だけならまだ何とかなる。
 けど……一般人を盾に取られたら……それを考えると……。

「喜雨」

「はい」

 考えに浸っていると、師範に呼ばれた。
「お前はよく気をつけるんだよ。……今はまだ、力を上手くコントロールできないんだからね」
「…………分かっていますよ」
 私は未だ力をコントロールできない。
 それは修行を始めて時が経っていないかもしれない。
 それでも――――一番の理由は私の力……妖気が何に向いているのかがわからないからだ。


 そして、師範が何度も言うのは――――――そんな力を未だに暴走させてしまうから。


 そうなってしまったら最後、周囲への影響は計り知れない。

– CONTINUE –

Posted by 五嶋藤子