2. 悪夢
「くら……ま……」
みんなが復活しかけた冥界との戦いから無事に帰って来た。
その様子から、戦いが激しいものだったことが分かる。
それでも無事に帰って来てくれた――――。
けど蔵馬を見た瞬間、私は言葉に詰まってしまった。
「ただいま、喜雨」
にっこり笑った蔵馬はいつもと同じように快活に言ったけど――――――その姿はぼろぼろだった。
「何でこんなになるの!?」
「何でって……激しい戦いだったんだから仕方がないでしょう」
何を今更と言う風に言う蔵馬を私はじとっと見る。
みんな、服はところどころ破れたり、完璧になくなってるところがあったり。けれどそれには文句はない。
すすとか埃で汚れているのもまあ仕方がない。
だけど、
「何でこんなに傷だらけなの!!!」
もちろんこれもみんな同じかもしれない。
でも、
蔵馬ほど切り傷が多い人はいない!!!
しかも、その傷が深い!!
手当ては軽くしてあるから、大分塞がりかけているけれど……それでも跡は残っているからその酷さがわかる。
別に蔵馬の傷を他のみんなにも、なんて言わない。
けど、いつもいつも蔵馬はどうしてこんなに血が出る傷を作ってくるのか。
私が言いたいことがわかっているのか、みんな困ったような顔をして私と蔵馬を遠巻きに見ている。
「仕方ないでしょう? 敵がそう言う武器を持っていたんだから」
「でも!!!」
無茶なことを言っているのは分かっている。
蔵馬も怪我をしたくて戦っているわけではないんだし。
でも、私が彼の戦いを初めて見た武術会から毎回のように蔵馬は血を流して戦う……。
それが、すごく辛い。
「蔵馬がこんなひどい怪我をするのを見るのは嫌……戦わないでとは言わないけれど――――――」
本当に言ってることがむちゃくちゃだ。
戦いに、怪我は付き物なのに。
でも私はそれを納得できないでいる。
――――――理解出来ないでいる。
蔵馬も、そんな私の言葉に困ったような顔をする。
困らせたいわけじゃないんだけれど…………。
私はそんな蔵馬を見たくなくて俯く。膝の上に置いた両手をぎゅっと握ると、その手の上に蔵馬の手が置かれる。
――――――――――――
沈黙が周りを支配する。
私と蔵馬に気を使ったのか、幽助君たちは部屋から静かに出て行った。
多少、気になっていたようだけど……それでも私たちを二人っきりにしてくれた。
そんな中私は涙がこぼれそうになってきて、でもこぼれないようにこらえる。
……そう簡単に、出来るものでもないけれど。
「……っ」
「ごめん」
そっと私を抱きしめてから、蔵馬はそう言った。
胸に押し付けられている格好だから蔵馬の表情はまったく分からない。
でも、気配から辛そうにしているのが分かる。
それでも――――――
「同じことがあったら、また同じことするんでしょう?」
「…………」
「だったら……謝らないでよ」
反省してないんだから。
そうぽつりと言えば、蔵馬の私を抱きしめる腕の力を強くした。
少し苦しいけれど、私も蔵馬の背中に腕を回す。
そのまま私たちは何も会話をせずに、ただお互いを抱きしめ続けた。
「きっと、また同じことをするよ」
ぽつりと、蔵馬は言う。
「…………」
「どんなに喜雨が嫌がっても、関係なく……」
それを聞きながら、私はただ黙っていた。
「一歩間違えば死んでしまうような怪我をするかもしれない」
それでも、と蔵馬は言う。
私の気持ちが分かっていて。
「必ず、生きて喜雨のところに帰ってくるから」
それで許して。
「――――――ずるい」
「うん?」
「蔵馬はずるい。私が、蔵馬に強く言えるわけないじゃない」
「…………」
ぎゅっと、黙って蔵馬は力を強くする。
さすがにそれには我慢できない。
「蔵馬……苦しいよ」
「……ごめん」
そうは言うものの、蔵馬は力を緩めてくれない。
――――――でも、諦めた。
嫌じゃないし。
「さっき言ったことは……ホント?」
「うん?」
「必ず、帰って来てくれるって――――――」
「約束する。絶対に――――」
生きて帰ってくるから。
「じゃあ、許してあげる。約束破ったら……」
絶対に許さないから。
霊界まで行ってでも、文句言うからね。
そう言えば、蔵馬は静かに頷いた。
– END –