10. こねこ

「アルフォンス……?」
 ロイが渡り廊下を歩いていると、中庭の隅に人影を見つけ、よくよく見るとそれは幼馴染の一人で……。
(この雨の中……何をしているんだ?)
 そう思うと残りの昼休みの時間を確認し、急いで中庭へと降りていった。
 
 
 
 
 
「アルフォンス」
「え? ……うわあ!!」
 アルフォンスにとっては急に声をかけられたことになるのだろう、振り向いてロイがいたことが意外だったのか、驚いただけか。アルフォンスにしては珍しく驚きと同時に慌てた様子も見せる。
「…………何、やってるんだ?」
「あ……ロイちゃん」
 ようやく後ろにいるのが誰だか理解したアルフォンス。
 しかしロイはというと、アルフォンスの手元をじっと見ている。
 その間も、雨にぬれないように軒下で、建物側に寄るのを忘れない。
「…………アルフォンス」
「な、何??」
 ロイの視線の先がようやく分かったようで、アルフォンスは手元のものを自身に引き寄せる。
 もちろんそれで誤魔化せるわけがない。
 それはアルフォンスも十分理解しているから、じっと見ていたロイにとうとう諦めて手元にいるものを見せる。
 
 
 にゃあ
 
 
「…………アルフォンス」
 はあ。
 ため息をつくロイ。
 どうせこんなことだろうということは分かっていた。
 分かっていたけれど、ここまで予想通りだとは…………。
「どうしたんだ、この子」
「…………」
 無言のアルフォンスの手元には小さな子猫。
「アルフォンス?」
 ロイはアルフォンスの前に回りこみ、同じようにしゃがみこむと子猫はロイを見上げてまた鳴く。
 その声に誘われるようにロイは子猫の頭を撫でる。
 
「――――――この子、学校の隅でひとりで雨にぬれてたんだよ」
 
「今日?」
 
「ううん。数日前」
 
 でもうち、動物飼えないから……。
 仕方ないよね、というような表情で言うアルフォンスに、ロイは小さくため息をつく。
「だからここで?」
「いけないことは分かってたんだけどね……」
 アルフォンスの言葉に、少し考えながらロイは言う。
「まあ、でも学校で見つけたんなら…………」
「でもここの生徒会長って動物苦手じゃないの?」
 そこでふと思い返す。
「ここ、高等部の敷地か……」
 今更のように思い出したロイに、アルフォンスは頷く。
「でも……苦手だったか? というよりそんなこと生徒会長がどうにかできるものなのか?」
 何度か見たことのある高等部の生徒会長の顔を思い出しながら……ロイは言う。
「さあ……でも、何か苦手そうなイメージが……」
 
 
 ……………………
 
 
「ま、まあ…………そうかもしれないが」
 確かにアルフォンスの言葉の通りなのであまり否定は出来ない。
 ――――しかし、それもどうかと思う。
「でも……このままというわけにも」
「そうなんだよね……ロイちゃんのうちもダメでしょう?」
「ああ……無理だな」
「ウィンリィも無理だし……」
 うんうん頭を抱えながら唸っているアルフォンスに、足元の子猫は見上げて不思議そうな表情をしている。
 それをほほえましく思ったいたロイ。
 
 しかし、そのために背後にいた人物に気付かず……。
 
 
「何をしているのかね?」
 
 
「「うわあ!!!」」
 
 
 今度は二人で驚いたため、叫び声も二重。
 それに子猫も驚いていたけれど……逃げ出すことはしなかった。
「こ、校長先生……」
「やあ」
 ロイが何とか相手を呼ぶと、にっこりと笑みを見せながら校長――キング・ブラッドレイは片手を挙げて挨拶をする。
 ちなみにアルフォンスはロイの後ろで胸を押さえている。
「おや、猫かね」
「あ……」
 そう言われてロイは慌てる。
 当の猫はロイの足元にいた。
「え、えっと……これは……」
 ロイに加え、アルフォンスもわたわたしながらどう説明したものか悩む。
 しかしまあ、良い言い訳など出るはずもなく。
 
「拾ってきたのかね?」
「い、いえ。数日前に学校の敷地の隅にいたんです」
「ほう、そうだったのか」
「「…………」」
 
 そんな会話をしながらも、ロイもアルフォンスも内心で焦っていた。
 子猫のことを知った校長は、一体この子をどうするのだろうと…………。
 
 
「まあ、そう言うことなら仕方がないね」
 
 
「は、い……?」
 何がそう言うことなのかとか、色々聞きたいことは山ほどあるのだが、校長の表情はいつものにこにこした、つかみどころのないもので困ってしまう。
「君たちは中等部の生徒だからね。中等部のほうで飼い主を探すことになるかな」
「「えっ!!!???」」
「……おや、不満かね」
「「い、いいえ!!!」」
 思ってもみなかった校長の言葉に、ロイもアルフォンスも驚いたけれど、理解した瞬間に嬉しそうな表情を浮かべた。
 その二人の反応に、何度か頷いた校長は、さて、と声をかける。
「こういうことはいいことだと思うがね。授業をサボってはいけないよ」
「「あっ!!」」
 時間を見るともうすぐ授業が始まる時間で。
 慌てて教室へ向かおうとする。
「この子は一旦私が見ているよ。放課後に校長室によりなさい」
「「はい!!!」」
 そう返事をすると、二人は教室へ向けて走り出した。
 
 
 その後ろ姿を見送りながら、校長はにこにこと見送る。
「ふむ……君も運が良いね」
 足元で見上げてくる子猫に向かってそう言うと、その子猫を抱え上げ、校長もまた校長室へと戻って行った。

– END –

お題配布元:創作者さんに50未満のお題

2020年10月25日

Posted by 五嶋藤子