18. 月の下

「ああ……もう真っ暗」

 陽が沈むのがだいぶ早くなったとはいえ、それでも普段よりは遅い時間に校舎を出た喜雨は空を――――明るい月を見上げながら呟いた。
 同じように月を見上げた男に視線を移し、喜雨は苦笑する。
「先に帰っていれば良かったのに、寒凪」
 今日は委員会とは関係ない仕事だったのよ?
 そう後輩の、同じ委員会に所属する幼馴染の寒凪を見上げる喜雨に、当の寒凪は首を振る。
「小母さんに頼まれていたからな」
「だからって、ねえ……」
 ため息をつく喜雨。だからといってこんな時間まで待っている必要はない。
「最近はこのあたりも物騒になったからな」
「…………それを私に言う?」
 以前、このあたりで札付きの悪に囲まれた(本人談)際、たった一人で全員を気絶させたことを暗に持ち出す喜雨に、寒凪は言う。
「ああ言う奴等ばかりじゃないだろう。……どこに凶悪犯が潜んでいるとも限らないからな」
「まあ、そうだけど……」
 その場合、寒凪がいようがいまいが関係ないのでは?
 そう思ったものの、喜雨は言葉には出さずに、無言でグラウンドを横切る。
 既にいつも最後まで練習している野球部員の姿もない。
 校舎も今は職員室に明かりがついているだけで静かなものだ。
 そんな中を喜雨と寒凪の二人、歩いているのだが……確かに、女子高生一人で歩くには――というより一人で歩くには物騒かもしれない。
 この学園は中等部と高等部が同じ敷地内にある。
 その為に広い敷地が必要になり、結果、街中から少し離れた場所にある。
 そして二人の家はここから距離がそれなりにあるわけで……一人で帰すには不安があるのだろう。
 実際に、仕事を頼んだ当の教師にも心配されたが、寒凪が待っていると伝えるとほっとした表情をしたのだった。

「心配性……」

 それでもそう呟いてしまう喜雨に、寒凪は仕方ないだろうという表情をする。
 それくらい物騒なのだと。

– END –

Posted by 五嶋藤子