あなたは綺麗なものだけを知っていればいい
似たもの同士だ、と、その光景を見ていた麻里香は思った。
だからこそ、彼らはああいう風に試合を進めるのだな、とも。
世の中に、汚いものなど無いと言う様な、そんな試合。
もちろん汚い試合があるといっているわけではない。
ただ、“綺麗”だと思っただけだ。
そう、綺麗なのだ、自分の幼馴染たちは。
そんな風に思って麻里香は小さく息を吐く。
それは誰にも気に留められず、皆コート上の試合に釘付けだ。
いいや、“試合”、というものではないと、皆は言うかもしれないと、頭の片隅で麻里香は考える。
少年と少女、二人がテニスをしている。その光景は、百歩譲って“練習”だろう。
――――本人たちは試合のつもりだろうが。
一体何度目だろうと思う。彼らがテニスをほぼ同時期に始めてから今まで、数えることも馬鹿らしくなっている。
そして、そんな試合の勝敗は、少女が全勝。
少なくとも麻里香は少女が勝った試合しか見ていない。
少年――国光の様子からも、彼は少女――彰子に勝ったことはないだろう。
だからといって、国光がくさることは無かったし、彰子は彰子で日々の練習を欠かさなかった。
曰く、
「もっと練習して絶対に彰子に勝つ」
曰く、
「もっと練習しないと国光とまともな試合が出来なくなるくらい、力の差が出てしまう」
どっちも頑固だ、と麻里香は思う。
一度決めたら……特にテニスのことと、お互いのことになるとてこでも動かない。彼らの一番は出会ってからこれまでずっとお互いとテニスだった。一度もぶれないその姿だけを、麻里香は見てきた。
一見、そんなまっすぐさはいいことだと思われるだろう。
けれどこれから先、成長していく上で、それでは困るとも思っている。
他にも目を向けなければならなくなる。
もちろん、世渡りはうまくなさそうだが頭はいいからそれなりにうまく生きていくのだろうし、加えて今のところ周囲に問題はなく、協力的――というか、彼らを可愛がりすぎる嫌いのある人物も大勢居るから、麻里香が不安に思うことも無いだろう。
自分のことを棚にあげている自覚はあるが、麻里香は本当にそう思っていた。
けれどまた、そのままであって欲しいとも思っている。
変わらずに、その純粋な思いを貫いて欲しいとも思う。
矛盾している。
そう思わずに入られなかったが、目の前の、二人の試合と二人の表情を目にすると、その矛盾した思いを抱き続けることになるのだろうと、麻里香は確信していた。
– END –
お題配布元:追憶の苑