約束
「玉鼎真人」
「――――燃燈」
名前を呼ばれ、振り返った先には十二仙のリーダーである燃燈道人がいた。
「どうかしたのか?」
その表情は余り目にしたことのない種類のもので、玉鼎は首をかしげた。
そんな玉鼎に、燃燈は何か言いたそうな、けれどどうしても言葉に出来ない様子だった。
それに何となく気付いた玉鼎は内心で溜め息をついて、燃燈を促して目立たない場所に移動した。燃燈が声を掛けた場所は仙道がよく通るためだ。
「それで、どうかしたのか?」
先ほどよりも静かな場所で向き合い、玉鼎は尋ねた。
けれどそれでも燃燈は口を開かない。
それが長くなると、いくら気の長い玉鼎でもイライラしてくる。
「――――燃燈」
いい加減にしろ、との言葉に込めて名を呼ぶ。
「……頼みがある」
「なんだ?」
滅多にない燃燈の言葉に驚きつつも続きを促した。
「…………これから起こることに、一切関知しないでくれ」
「――――それは構わないが……」
「理由は聞くな」
「……まあ、そう言うなら聞かないが」
大丈夫なのか?
燃燈の表情に感じるものがあったのだろう、玉鼎は首をかしげつつ聞く。
「…………ああ、大丈夫だ」
一瞬、何か言いそうだった燃燈だったが、何とか堪えていた。
「そうか……」
簡単に言う訳がないかと思う玉鼎。
そうでなければ個性の強い十二仙のリーダーなど勤められないだろう。
「何をするつもりなのかは聞かないが……竜吉に心配をかけるなよ」
難しいかもしれないが。
「――――分かっている」
分かっているが、そう簡単にはいかないのだと言うことがその言葉から知ることが出来る。
そして、これから燃燈が行おうとしていることがどれだけ危険なことなのかと言うことも。
何を行おうとしているのか。
思ったが、燃燈の頼みを聞いた手前聞くことも出来ない。
そのためにただ見送るだけだった。
その後、燃燈が言ったことが何をさすのかを知った。
他の十二仙は元始天尊に尋ねたそうにしていたが、玉鼎は約束していたためにそれは出来なかった。
竜吉に燃燈との会話を話す事も出来ずにいた。
そのことで逆に周囲を不審がらせてしまった。……けれどそれを何とか誤魔化し、長い年月がたった。
そして、全てが表に出た時には、もう二度と以前の様に暮らす事は出来なくなっていた。
– END –