プロローグ
その人を初めて見たとき、言葉が出てこなかった。
話は聞いていた。
この国のどの国民よりも美しく、気高いと。
何度も何度も言い聞かせれていた。
そのはずなのに、見た瞬間、頭の中が真っ白になった。
漆黒の髪と瞳。
オレを見下ろすその姿。
それに見惚れていた。
ただ、その反応をするにはあまりにも相手が悪かった。
相手は一国の女王。
頭を下げずにいるオレは即周りを固めていた兵士に不敬として押さえつけられてしまった。
その時になってやっと気付いたけれど、その時には後の祭り。
オレみたいな身分が相当低いヤツには当たり前の周りの兵士たちの行動。
自分の非が分かっていたから、オレはなされるがまま、床を向いていた。
「その者を放しなさい」
これから牢にでも連れて行くよう、女王陛下は命令するんだろう、そう思っていたオレが聞いたのは、凛とした、まったく反対のことを言った声だった。
その声に、オレを押さえつけていた兵士はおろか、周りの大臣たちや他諸々まで息を呑んだ。
そして、すぐに女王陛下の側近たちからそれを咎める声が聞こえたけれど、それを陛下は
「緊張しているだけでしょうから」
の一言で済ませてしまった。
そしてその言葉に逆らえるやつなんていはしなくて、オレを押さえ込んでいたやつらはすぐにオレを解放した。
そんな一連の流れにあっけに取られていたオレは、にっこりと陛下が笑ったのを見て慌てて頭を深く下げた。
顔は赤くなっていた。
あまりにも綺麗に微笑まれたから。
こんなにも綺麗な微笑を、オレは今まで十数年生きてきた中で初めて見た。
「そなたには、予定通り近衛軍に入っていただきます」
しっかりとその職を全うするように。
その言葉に周りも驚いているようだったけれど、オレ自身、またしても固まってしまった。
その言葉に自分の耳を疑った。
オレの都合の言いように聞こえてるんじゃないのかって。
大体、なんで不敬を働いたヤツを予定していたとは言え、そのまま近衛軍に置くんだ。
オレ自身が言うことでもないのかもしれないけれど、そう思ったって仕方がないだろう?
だけど、陛下はそんなオレの感情なんかまったく気にせずに、
「エドワード・エルリック?」
ただ、そうオレの名を呼んで聞いてくる。
返事はどうしたのか、と。
それにオレは慌てて答えるしかなかった。
「喜んでその職、お受けさせていただきます」
それがオレと女王陛下が初めて交わした言葉だった。
– CONTINUE –