真実 1
その人を見たのは偶然だった。
たまたま、イーストシティに―――東方司令部の大佐のところに報告書を出しに行く途中。
ふと見た喫茶店の窓際の席に座っていたのが目に飛び込んできた。
その人は真っ黒な長い髪を結ぶことはせずに、背中に流していて。
すらりとした体つきで。
一人座ってカップから―――何か飲み物を飲んでいた。
すごく美人なのが遠くからでも分かる。
通りを行きかうヤツ皆が、気付けば目を奪われていた。
……その例に漏れずオレもなんだけれど。
まさかオレがこんな風になるなんて思ってもみなかった。
絶対……目的を果たすまでこんな風な状況に陥ることなんてないと思っていた。
それなのに…………。
なぜか目を奪われてしまう。
アメストリスでは珍しいはずの真っ黒な髪。
――――――身近な人間に黒髪がいるからそうは思わないけれど、よくよく考えて見れば黒髪なんてそういるはずはないんだ。
なんせ、この国で一番多いのは白人なんだし。
…………にしてはオレの周りで黒髪率は多いけれど。
師匠にシグさん、大佐にフュリー曹長………大総統もだ。
……………………。
……まあ、それは一部で、殆どは別の色だ。
オレやアル、ウィンリィ、ホークアイ中尉、ハボック少尉、ブレタ少尉………。
明らかに黒髪は珍しい部類に入る。
それなのにそんな中、白人でもいないような黒髪美人が独りでいるなんて、目立って仕方がない。
………こりゃあ、ほっとくやつはいないだろうな。
そんなことまで考えてしまう。
…………
なんだ?
今何か違和感があった。
変な感じが。
「兄さん、そろそろ行かないと遅くなっちゃうよ?」
心の中でその違和感に首を傾げたオレに、アルがそう言ってきた。
「あ、ああ……」
それに促されて、オレたちはその場を後にした。
その後姿を、オレが目を奪われた黒髪の女が、髪と同じ漆黒の瞳で見ていたのには気付かなかった。
◇◆◇
「は?非番!?」
東方司令部の大佐の超俗の部下のいる大部屋。
そこにオレのすっとんきょんな声が響いた。
「そうなのよ………」
オレの目の前には大佐の右腕のホークアイ中尉。
ここについて挨拶をした途端に告げられた言葉に、オレは固まってしまった。
「最近仕事が立て込んでいたのだけれど、やっと昨日終わってね。大佐が一番休んでいなかったから、今日休みを取ってもらったの」
エドワード君たちが来るとは思っていなかったから………。
…………
何気に来る前日に連絡を入れなかったことを責められてはいないだろうか?
………気のせい、気のせい。
そう頭の中で唱えながら言う。
「じゃあ、また明日来るよ」
アル、行こう。
「うん。仕方がないね」
そう言って、司令部を後にしようとしたら、ホークアイ中尉が止めた。
不思議に思って振り返れば、思いついた、と言うような表情をして提案してきた。
それは、あまりオレにとって良い提案ではなかったけど。
「今日はもう急ぎの用事がないのであれば、大佐の家に直接もって行くといいわ。大佐、自宅にいらっしゃるはずだから」
– CONTINUE –