真実 3
(はへ~)
家の中に導かれ、オレは内心ため息をついた。
確かに大佐はその年齢に似合わず高い地位を持っている。
しかも国家錬金術師だ。
金はかなり入っていることは言われなくても知っていた。
けど………
広すぎだろ、これは。
そんなことに驚きながら、大佐の後に付いていく。
大佐はオレの様子に気付いているだろうけど、なんでもないようにどんどん進んで行く。
そして扉のひとつを開けてオレを中へと促した……。
……………
で、やっぱりそこも広い。
ただ、思っていたほど散らかってはいない。
まあ普段生活をしていく上でこれくらいなら普通だろう。
どうかすると綺麗にしているほうかもしれない。
「ソファーに座って少し待っていなさい」
紅茶でよかったか?
「あ、ああ………」
オレの答えを聞くとすぐに大佐は部屋から出て行った。
その背を見送って、オレは改めて部屋を見渡した。
………なんか、シンプルだよな。
決してものがないわけじゃない。
むしろ忙しい立場の大佐にしては結構物がおいてある。
物が置いてあるということは、それだけそうする暇があるということだ。
そして、片付ける暇も。
………仕事をサボって遅くまで司令部に残っているイメージがある大佐にそんな暇があるなんて意外だ。
そうやって珍しいものでも見るかのようにきょろきょろしていると、大佐が紅茶のカップを持って戻ってきた。
「待たせたね」
そう言ってオレの前のテーブルにカップを置いて、オレの向かいに座った。
「あ、じゃあ報告書」
「ああ」
その大佐に報告書を渡して、オレは大佐が入れてくれた紅茶を口にした。
(…………うまい)
悔しいから言わないけれど、結構うまかった。
………大佐の家ではこんなのが飲めるのに、どうして司令部ではあのまずい茶なんだろう?
大佐が良いもん使ってるのか、司令部がまずいもん使ってるのか。
……………どっちもありそうだ。
ふと、大佐を見ると真剣な表情で報告書を見ている。
普段大佐はサボっているところが目に付きやすいけど、やるべきこととなるとちゃんとするんだよな。
オレの報告書もちゃんと全部目を通すし。
よくよく考えると、よくやるよな………。
オレの報告書なんて、多分大佐がすべき仕事の中でもそうそう重要なことではないだろうし。
そんな風に思っていると、なぜか大佐の髪に目が行った。
正確にはその色に、かな………?
なんでだろう………
「黒い………」
「なんだい?」
オレの小さな声なんて聞こえていないと思っていたけれど、大佐はオレが何を言ったかまでは分からなかったようだけれど、何か言ったのは聞こえたみたいだ。
………結構大佐って、耳いいのな。
「別に……」
「別にって………『黒い』と聞こえたんだが?」
…………………
「聞こえてんなら聞くなよ」
ぶすっとしたそんなオレを見て、大佐は苦笑した。
「急にどうしたんだね……?」
「いや……なんとなくさ………急に大佐の髪に目が行ったもんだから…………」
「髪?」
私の髪なんか見たって面白くないだろうに。
そう首をかしげて言った大佐に、オレはふと頭によぎったことを言った。
「そういえば今日司令部による前にさ、大佐みたいな………うん?違うか。まあいいや………」
そこで言うのを止めたオレに、大佐はずるっと肩を落として言った。
「そこまで言って止めるんじゃないよ」
「うーん。大したことじゃないんだけどさ」
司令部行く道でさ、真っ黒な長い髪の女の人を見たんだよ。
すっごい美人の………あ、大佐会ってみたいと思った?
呆れたような、感心したような、まあとにかくよく分からない表情をしてそう言ったオレを大佐は見ていた。
「どうかしたのか、大佐?」
「いや………鋼のからまさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったからな」
「そんな言葉?」
「『すっごい美人』」
頬をかきながら大佐はそう言った。
「?………別に思ったことを言っただけなんだけど………まあ、オレもそう思ったことが意外なんだけどね」
「まあ、鋼のも年頃になったということだろうね」
だからと言って、私の髪を見てそれを思い出すのはどうかと思うが?
そう言って、大佐はからかうような表情をした。
それを見てムッとなってしまったけれど、大佐の言う通りだ。
「仕方ねえじゃん。大佐もその女の人も髪の毛真っ黒だったんだから」
あ、でも違うんだよな。
女の人の髪は大佐のよりもっと真っ直ぐで、光ってた。
そう言うと、大佐は変な顔をした。
「…………それは艶があったと言うんじゃないのかね?」
「うんにゃ、てかてかしてた」
大佐の言った言葉をスパッと否定して、紅茶を飲んだ。
………ちょっと冷めてる。
「………良く分からないね、君の言うことは………」
「………なんであんなに光ってたんだろな………」
「聞きたまえよ………」
はあ、っと大佐はため息をついて、オレに報告書を差し出した。
「異性に興味を持つのはいいが、自分のやるべきことはちゃんとすることだ」
「………やってんじゃん」
差し出された報告書を睨みながら言った。
「………そう言うことは誤字脱字をなくしてから言うんだな」
「……………ちぇ」
また再提出かよ………。
そんなオレに大佐はいつもの笑いを見せた。
「明日出すのなら司令部に来たまえ。明日は司令部にいるから」
「わーってるよ。んじゃ!」
「ああ………」
そう挨拶を交わし、オレは大佐の家を出てアルが取った宿に向かって歩き出した。
すぐに扉を閉めたと思っていた大佐が、まだオレを見ているのも知らずに。
– CONTINUE –