1. 甘いもの
部屋に入った途端に漂ってきた甘ったるい匂いに眉をしかめた。
甘いものは嫌いではないけれど、だからと言って、甘いと言うより甘ったるいこの匂いはどうかと思う。
そう思ったから、その匂い元はどこだろうと探した。
……………………
「なに、やってんの」
大佐。
にこにこしながら匂いの元を見ている大佐に声をかけた。
「見て分からないかね?」
「いや………分かるけど………」
「ならば、なぜ聞く?」
「…………」
オレが答えないでいると、大佐は首を一度かしげ、またケーキに目を落として食べ始めた。
そう、ケーキだ。
この甘い匂いの正体は。
ただ、それだけならオレも最初に眉をしかめることなんてない。
どちらかと言うと、オレだって甘いものは好きだ。
限度があるだけで。
で、その限度を超えた量のケーキが実は目の前にある。
何でこんなにここにあるんだとか、誰が持って来たんだと考える前に、この量を大佐一人で食べるのかと思ってしまう。
いくら大佐が自他共に認める甘いもの好きだからって、限度ってもんがあるだろう。
そして、目の前にあるこの甘いものの量ははるかにその限度を超えてると思うんだけど………。
…………
でもまあ、そんなことは今、些末ごとにすぎないのかもしれない。
なんてったって、今の大佐の表情ときたら………
「大佐………どう見たって女にしか見えねえぞ、今……」
「ゲホッ!!」
オレの言った言葉に詰まって、大佐はむせた。
「あ~。何やってんだよ………」
呆れた声でそんなことを言いながら、オレは大佐の背中をさすった。
その背中は男の軍人にしては華奢だ………。
まあ、大佐は男じゃねえケド。
「な、な、な………」
やっと落ち着いた大佐は、目を白黒させながら言葉に詰まっていた。
その表情はやっぱり女の人だなあ。
そんなことを思って苦笑した。
「せっかくここまで隠し通せてんのに、ここでばれたらどうすんだよ」
ここにいるがオレだけだから良いけどさ。
そう言って近づくと、大佐は顔を赤くして言った。
「悪かったな………」
仕方ないだろう?好きなものがあるんだから………。
そんな大佐の頭を抱きこんだ。
「え、エド!?」
「かわいいなあ~」
顔が緩みそうだ。
そのことに気付かれないように、大佐の頭を撫でる。
そうすれば、大佐はいつも俯いてしまうから。
「そんなに女の顔になっていたか?」
ぽつりと聞いてきた大佐にオレはびっくりして目を落とした。
その声が不安そうだったからだ。
「大佐?」
どうしたんだよ。
大佐の顔を覗き込めば、なんともいえない表情をしていた。
「………いや、なんでもない」
そんなオレを見上げてなんでもなかったように言う。
…………
「エドもケーキ食べるかい?」
黙ったオレににっこり笑顔を向けて言った。
「…………ああ、貰うよ」
聞きたいことはあったけれど、聞いたって決して答えてはくれないだろう。
それは今の大佐とオレのそれぞれの立場によるものだろう。
悔しいけれど、今のオレにはどうしようもない。
だから、今は見逃してやるけど見てろよ。
絶対黙ってやり過ごせないところに立ってやる。
そんなことをオレが思っているなんて考えも付かないだろう大佐は無理して笑顔を見せながらケーキを差し出した。
そして、一緒にケーキを食べながら、久しぶりに大佐との休憩を取った。
– END –