10. 善を統べるもの、悪を統べるもの

 久しぶりに地上に上がってきた。
 もう、どれだけの時が経ったか分からない。
 私自身はちょっとの間だけだと思っていたが、予想外に長くこもっていたようで、地上は…人間たちは知らないものに成り果てていた。
 
 
 
「で、何が言いたいんだ?」
「そのままの意味だろう?」
 もう更年期障害になったのか?
 などと、ついさっき知った言葉を使えば、人間の言う『神』―――エドワードは苦虫を噛み潰した表情をした。
「別に、どうだっていいだろ。あいつらが勝手に壊してるんだ。オレには関係ないね」
 別にオレらはここがどうなろうと構わないだろ。
 そう言って、綺麗な黄金の髪を風になびかせる。
 
 
「………まったく、とんだカミサマだ」
 
 
 そうぼやけばエドワードは笑いながら言う。
「人間が勝手にそう呼んでいるだけだろ?」
「……確かにそうだがね………」
 ふっと笑ってエドワードの言葉に同意する。
 
 
 そう、エドが『天国の王』で私が『地獄の王』………それだけでエドワードが善を統べ、私が悪を統べていると勝手に言っているのだ。
 私たちの実際の性格、性質など、関係なく。
 私に睨まれれば、死後地獄に落ちるなどと言われているらしい。
 実際私が何かをしているわけではなく、人間が勝手に地獄へ落ちているだけなのに。
 
 勝手な人間が、勝手にそう思っているだけにもかかわらず。
 
 
 そしてそれを、私はそれを見ているだけ。
 
 
「それが嫌いなんだよ、オレは」
 勝手にオレらの………ロイのことを決め付けて、悪者であるように伝えているのが。
 ぶすっとした表情で言ったエドワードに私は笑った。
 睨んでくるけれど、私にとってはどうと言うことでもない。
 まあ、他の仲間が見れば怯えることは間違いないだろうけれど。
「笑い事じゃねえだろ」
 私の反応に、エドワードはむすっとなった。
「くくくく……」
「ロイ!!」
「す、すまない……」
 あまりのエドワードの表情に、笑い声が出てしまう。
 でも、いい加減にしないと、エドワードの機嫌が最悪になってしまうから、その辺の加減に気をつけなければならない。
 それで失敗して、困るのは私だ。
 まだ笑っててもいいとは思うのだが、そろそろ止めておいたほうがいいだろう。
「いいじゃないか……。別に、人間の言うことなど、気にしなくても」
 そうだとしても、私たちには何の困ったこともないよ。
「そりゃあな……」
 私の言葉に、エドワードはむすっとしたまま、そう言う。
 私の言うことはもっともだが、それでも嫌なものはいやだと……その表情は言っていた。
 相変わらずだと思う。
 その辺は、カミサマだ。
 私のみ、と言う注釈は付くけれど、それでも優しい、思いやりがあるのだから。
 
 
 本人は、否定するだろうけれど。
 
 
 
 
 
 
「そう言えば、ロイはいつまでいる予定なんだ?」
 
 
 思い出したように、ぽつりと言ったエドワードの表情は、長くいて欲しい、と言っていた。
「さあ、決めていないからな……」
「なら、久しぶりなんだし、好きなだけいろよ」
 そうしてくれるとオレも嬉しい。
 どうしようか、と言う私に、それならとエドワードはストレートな言葉を投げかける。
 そんなエドワードに笑ってしまう。
 他の仲間には決して見せないのに、なぜ私だとこうも素直なんだろう?
 表情もころころ変わる。
 嬉しいけれど、少し複雑だ。
 私だって、エドワードが嫌われているのは……。
「そうだな……まあ、戻らなければいけない理由もないし……」
 それもいいかもしれないな。
 ここは暖かいし……エドワードがいるしな。
 そう言ってにっこりと笑うと、エドワードはぱっと表情を明るくし、私を抱きしめてきた。
 
 
「え、エドワード……」
「ろ~い~」
「…………」
 
 
 久しぶりで忘れていたけれど、そう言えばエドワードは私に対してこんな風だったな……。
 ホント、なぜ仲間に対しては、あんな風なんだ……?
「じゃあ、ロイの大好きなうまいもん作ってやるよ!!」
 そう言うと、私が止めるのも聞かずに、ばたばたと駆け出していった。
「…………まだ時間はいいだろうに……」
 残された私は、そんなことを言う。
 誰も聞いてはいないけれど。
 …………。
 エドワードと二人っきりだと、振り回されてばかりだ。
 しかも、エドワードは暴走するし。
「はあ……」
 ここまで来ると、ため息しか出ない。
 でも
「まあ、いいか」
 久しぶりだし。
 何より、一時エドワードとは一緒にいるんだしな。
 そう思うと、こんなのもいいと思う。
 一緒にいれば、私がエドワードを振り回すことが出来るだろうし。
 
 
 
 
 とりあえず、手っ取り早くエドワードを振り回すことが出来るのは――――――。
 
 
 
 
「まだ、キスしてもらってないぞ、エドワード」
 
 
 
 
 そう言うと、どんな耳を持っているんだと思うくらい性能のいい耳で私の言葉を聞き取ったエドワードが、キッチンから走ってくる。
 
 
 
 
「ロイ!!!」
 
 
 
 
 姿を見せたと思ったら、気付いたときには抱きしめられている。
 それに笑っていると、エドワードは私の言葉通りの行動をしてくれるんだ。
 
 
 これがかなり嬉しい。

– END –

2020年10月25日

Posted by 五嶋藤子