5. 30:背中
「それじゃ、オレはこれで戻るけど………何か問題は起こさないでくれよ」
事後処理が面倒だから。
そう言ったエドワードの後ろでホークアイ中尉がため息をついた。
ロイはと言えば、なんと答えればいいのか分からなかったのか、何も言わなかった。
今ロイたちがいるのはイーストシティの駅。
これからロイは旅に出ようとしていた。
最初、ロイは一人で駅に行ってさっさと旅に出るつもりだった。
しかし、それに待ったをかけたのはなんとホークアイ中尉を始めとしたエドワードの部下たちで。
ロイは遠慮したが、彼らの意見を聞いたエドワードは、ホークアイ公認で仕事がサボれると内心喜んで、ロイを引っ張って駅まで来たのだ。
しかし、やはり嫌味な上司は時を選ばないため急遽仕事が入ってしまい、ロイの乗った列車を見送ることが出来ないのだった。
もちろんそれを聞いてエドワードが肩を落としたのは言うまでもない。
それを見たホークアイが、さらに上司の心配をしたのも仕方がないことだろう………。
「そう言えば、ロイはこれからどこに行くつもりだ?」
そろそろロイも時間。
その時になってようやくどこへ行くか聞き忘れていたエドワードだった。
そしてロイも言い忘れていた。
もしかしたら、ロイの場合は聞かれなかったから答えなかっただけかもしれないが………。
「一旦、自宅へ帰ろうと思います。色々準備をして………それから行くところは決めます」
「ああ、そうだな。…………旅に出るなら色々片付けておかないといけないしな」
「はい」
そのロイの家へ行くための列車の時間が迫ってきていた。
なんだかんだで時間ギリギリまでエドワードたちはいたことになる。
しかしロイのほうが時間が迫っていたようで、改めてエドワードたちに挨拶をした。
「それでは私は行きます」
「ああ、気をつけてな」
「はい」
「報告書は忘れないこと」
「分かっています」
「何かあったらすぐに連絡するんだぞ」
「はい」
「何ヶ月も連絡なしはするなよ」
「…――――――」
「中佐、もういい加減にしないとロイちゃんが列車に乗れません」
「………………」
ホークアイの言葉にようやくエドワードは口を閉じた。
その様子に、ロイはエドワードとホークアイの力関係を見た気がした。
「………それでは」
「ああ、じゃオレらも行くな」
「はい」
ロイの言葉を聞くとエドワードはロイに背を向けて歩き出した。
「それじゃあ、気をつけてね」
「はい」
ホークアイも一言ロイに声をかけてすぐにエドワードの後を追った。
――――――――――――
その背をロイは見ていた。
考えれば、エドワードには色々不思議なところがあるとロイは改めて思った。
…………自分ほどではないにしても。
きっと、エドワードもロイに疑問を持っているかもしれない。表には出していないけれど。
その点が一つ。
もう一つ………。
そこまで考えたとき、ふと時計を見れば列車が出発するまで本当に時間がない。
それを確認すると、今まで考えていたことをひとまず隅に置いて、ロイは歩き出した。
気持ち、急ぎ気味で。
ロイがエドワードたちが行った方に背を向けると、今度はエドワードが振り返った。
「中佐?」
急に歩を止めた上司に不思議そうにホークアイは声をかけた。
「いや………」
「???」
首をかしげながらエドワードが見ているほうを見ると、小さくロイの背中が見えた。
それほどロイは背が高くない。
同年代の少女たちと比べるとそうでもないかもしれないが、いかんせん上司もその部下たちもそれなりに背が高い………フュリー曹長は別にして。
そんな人間しかロイと身長を比較できなかったため、ホークアイはロイは小さいとどうしても思ってしまう。
そして、そんな小さなロイが遠くにいるために、さらに小さく見えてしまう。
遠くても分かるのはロイのアメストリスでは珍しいその黒髪のためだろう。
黒髪の人間を見たことがないわけではないが、あれほど綺麗な黒髪をホークアイは見たことがない。
「中佐」
「うーん?」
「ロイちゃんが心配なのは分かりますが、我々にも時間はありません」
「うん………」
「…………はあ」
とうとうホークアイはため息を声に出してしまった。
いい加減にして欲しいが、司令部にいるならまだしもここはイーストティの駅。
市民の前で愛銃を上官に突きつけるわけにはいかない。
こうなってしまえば、上官から動いてもらうしかない。
司令部に戻ったら覚えていてください、とエドワードを始め、同僚たちが聞けば震え上がりそうなことを考えていた。
――――――
そしてようやくエドワードが振り返ったのはロイが改札を抜けて見えなくなってから、ではなく。ロイの乗った列車が発車した後だった。
さすがに仕方がないで済ませることが出来ない時間。
しかし、そんなホークアイにはお構いなくエドワードは「じゃ、帰るか」と言って歩き出す。
さくさく自分のペースにしてしまう上官に頭が痛くなるが、これからもっと頭が痛くなることが増えそうな予感にホークアイはさらに頭を痛めながら付いて行くしかなかった。
もちろん司令部に着けば少なくとも今の状況がどうにでもなることをホークアイ自身知っていたので、今は上官に付き合うことにした。
司令部に付いた途端、東方の実質的な司令官の悲鳴が響いたのは言うまでもない。
– CONTINUE –