6. 64:列車
「中佐、トレインジャック犯から犯行声明文が届きました」
内容を言いますか?
「いや、いい。どうせ力の入った文だろ?」
「その通りです」
エドワードとホークアイはそんな会話をしながら騒がしい司令室へと入った。
「状況はどうだ」
「今、乗客名簿が上がりました――――――」
………………
「どうした?フュリー?」
言葉の途中で黙り込んだフュリーに、エドワードを始め、司令部にいる人間は首をかしげた。
「…………ハクロ少将が乗車されています………」
ご家族の名前もあるので………旅行ではないかと。
―――――――――
「犠牲になってもらおう」
………………………
「………中佐」
「冗談だ」
ぼそりと呟いたエドワードの言葉に、エドワードの部下たちは出来ることならそうしたいと思った。
しかし、そんなことが出来るわけがない。
そんなことをすれば、何よりエドワードの立場が最悪のものになってしまう。
そのことを遠回りにホークアイが言えば、即エドワードは反応した。
が、みな心の中で「それは嘘だ」と思ったとか………。
「大体なんでこの時期に………。東部の情勢が不安定なことくらい知ってるだろうに………」
フュリーから名簿を受け取り、上官の名前を確認する。
横からハボックがそれを覗き込んだ。
「あー、ホントに乗ってますね、ハクロのおっさん」
気を使う人間がいないからと、ハボックはそんな暴言を吐きつつ、しかし誰もそのことを咎めたりしない。
なにせ、みなそう思っているから。
「今日は徹夜っスかねー」
そんなハボックの言葉にみな脱力してしまう。
その様が、簡単に想像出来てしまうからだ。
「いや、そうでもないかもしれないぞ」
ぼそりと、未だ名簿を見ていたエドワードが言う。
「「「「は?」」」」
ホークアイ以外の人間全員が、そんな声を上げた。
それを見ずにエドワードは口元だけで笑った。
「焔の錬金術師が乗っている」
一方。
テロリストに乗っ取られた列車の中で、ロイは心の中でため息を付いていた。
東部でも田舎のほうにある町で用事を済ませ、久しぶりに東方司令部に報告書を出しに行くついでに顔見せもやっておいたほうがいいだろうと列車に乗ればこれだ。
ロイはテロリストが嫌いだ。
まあ、テロリスト本人などでない限り好きな人間などいないだろうが………。
それは置いておいて。
国を良くするなどと主張しながら結局民間人を巻き込み、犠牲を出すやり方に怒りしか湧いてこないからだ。
それなら他にいくらでもやりようはあるだろうに、それをせずになぜこんな方法に頼るのか、理解に苦しむ。
そして、そんなやつらの人質の一人として今いる自分の状況に、ロイ自身怒っていた……。
それでも今自分が動けば周りに害が及ぶかもしれない。
それはどうしても避けたかった。
ロイのいる車両には幼い子供も乗っているのが分かっていたし、どんな立場の人間であれ、民間人に―――テロリストに対し、何も抵抗する手段を持たない人に怪我をさせるなど考えられなかった。
だから、大人しく様子を伺っていたのだが…………。
突如、子供の泣き声が響いた。
どうやら向けられている銃に泣きたいのを我慢できなくなってしまったようだ。
が、当然そうなってしまった今、銃はその子供に完全に照準を合わせている。
母親が庇ってはいるが、テロリストの我慢などすぐにできなくなるだろう。
何より誰も傷付く姿など、ロイは見たくなかった。
「何だてめえ!!!」
銃を子供とその母親に向けていた男は、傍らに立っていたロイに向かって言った。
どう考えてもまだ子供の女の子であるロイがなぜ側にいるのか。
それが分からず、しかしそのロイの男を見る目になぜか怯え、それが分からないようにわめいた。
しかし――――――。
ドカッ!!!!
周りが気付いたときには男はロイに蹴りを入れられ気絶していた。
「てめえっ!!!!」
そう言って、同じ車両に乗っていたもう一人のテロリストは、銃を向けつつロイへと近付いてくる。
まだ少女であるロイに仲間がやられたのだ、それは慌てるだろう。
それを見た乗客たちは悲鳴や叫び声を上げた。
が、
テロリストにとって、相手が悪い。
乗客が見たときにはもう一人の男も床に伸びていた。
その様に、乗客たちは誰一人声を出すことが出来なかった。
それはそうだ。
華奢な少女が一人で大男二人を伸してしまったのだから。
ちなみにロイは錬金術を使っていない。
体術だけでやってのけたのだ。
(仕方がない………)
そう思うとロイは先頭車両へ向かって歩き出した。
幸いなことに、ここは最後尾の車両だ。
どうやっても挟み撃ちにあうことはない。
ここまで来れば、さっさと動いて解決してしまうに限る。
(中佐も、それを期待しているだろうし………)
どうせ自分がこの列車に乗っていることなど把握しているだろうから、そう理由付けしてロイは行動に移した。
ちなみに伸してしまったテロリストを練成した縄で縛っていくことも忘れない。
「なんだ、てめえ!!!!」
ドカッ!!!!
バキッ!!!!
(…………あっけない)
トン、と着地したロイはそう思った。
車両を進んで行く途中にいるテロリストはみな同じようなことを叫んでくるが、その見かけによらずあっという間にロイに伸されてしまっていった。
(これで、国を取ろうとしているんだよね………?)
はっきり言ってロイが強いだけなのだが、そんな風に思ってしまうほど、テロリストたちは時間がたたないうちにほぼ全員が縛られ、その辺に転がされていた。
そしてその時になってふとロイは、運転室もテロリストが現在いるだろうことに気が付いた。
………今まで通ってきたところは、他のテロリストに連絡されれる前に倒していたから、まだこちらのことには気付いていないだろう。
ならば………と考え、ロイは急遽方向を変え、列車の窓に手をかけた。
さらにもう一箇所。
エドワードたちが見捨てたいと思ったハクロ少将といえば。
「こんなことをしても、どの道イーストシティで捕まるぞ」
軍はそんなに甘く………
ドン!!
「ぐあっ…!!!」
大きな銃声と共に少将の耳たぶが一部欠けた。
少将の家族はそれで声を出せず、少将自身も痛みを耐えながら黙るしかなかった。
「バルド!後部車両のやつらから連絡がねえ」
「……あいつら、サボっているのか?」
「だが、全車両だぞ」
「………何があった」
「分からねえが………見てくるか?」
「そうだな………」
「遅い」
ガッシャーン!!!
「ぐわっ!!!」
窓のの割れる音と共に、バルトと話していたテロリストの一人が吹っ飛んだ。
ロイが飛び込んできたせいで……。
「何もん―――」
他のテロリストも、何か言う前にロイに沈められていく。
気付いたときには、意識を保っているテロリスト一味はバルト以外いなくなった。
「お前は……」
「あなたが今回の首謀者ですか?」
「そうだ」
そんなことを言い合いつつ、ロイもバルトも人質であるハクロ少将いる家族に意識を向けている。
バルトは人質が軍部で少将の地位にいることは知っている。
しかし、ロイはそれを知らない――――――と言うか、会ったことがないのだから他人に興味のないロイなら知っているはずもない。
だが、人質がいるという状況は行動を制限されてしまう。
そんな中で、先に動いたのはもちろんバルト。
「こっちには人質がいることを忘れるな――――――」
パチン
と、バルトが言い終わるか終わらないかのうちに澄んだ音がして、バルトの持っている銃口が溶けた。
「なっ!!!」
バルトが驚いてそれを目にした瞬間、いつの間にかロイがバルトの目の前に来ていた。
ドゴッ!!!!!
そして、バルト自身何が起こったか理解する前に気を失っていた。
– CONTINUE –