7. 20:駅

「よ、ロイ。久しぶり」
「…………」
 列車を降りると目の前に上司兼後見人がいたのに、ロイは無言だった。
 いつもならば挨拶はきちんとするのだが、自分がトレインジャックの解決に使われたのは分かっているので少々不機嫌なのかもしれない。
 最もそれを望まれていると分かっての列車内での行動だったので、それほど気にもしていないのだが。
 単に、ロイ自身は拗ねてみたかったのかも知れない。
 
 
「それにしても………手際がいいわね」
「そうですか?」
「ええ」
 一応形式的に挨拶をしなおして、そんな風にホークアイ中尉はロイに言った。
 その目は列車の中から連れ出されるテロリストに向けられていて、その殆どがロイが縛り上げた状態のまま降りてくる。
 ホークアイが言ったのは、そのロイがテロリストたちを縛り上げた方法。
 軍で専門的に学んだとしか思えないような鮮やかな縛り方だからだ。
 そのことに疑問を覚えながらも、ホークアイは何も言わずエドワードの指示に従う。
 ここはイーストシティの駅。
 東方司令部に最も近いため、そこの実質司令官が処理する。
 そのため、エドワードがいるのだが………その司令官であるエドワードはロイとばかり話をしている。
 まあ、一番列車の中であったことを分かっている当事者なので当たり前と言えば当たり前なのだが………内容がまったく違うことなのには頭が痛いエドワードの直属の部下たちである。
 いい加減、本題に入って欲しいと言おうとした時、列車の方からうめき声がした。
 見れば、そこには拘束を解いたバルドと、そのために傷を負った軍人が二人。
 拘束を解いた方法は、バルドの機械鎧に仕込まれたナイフだった。
 
 
「あー、最悪だな。仕込みナイフだなんて」
 
 
 それを見たエドワードは、一見のんきな声を出した。
「中佐、お下がり下さい」
 その言葉の間にホークアイは銃を構え、エドワードに下がるよう言った。
 そして、今にも飛び掛らんばかりの様子のバルドからエドワードと、ロイを守ろうと前に出ようとした。
「いや、いいよ」
 それを制して、エドワードはそのままでいた。
 その後ろで、少しロイが動く。
 だが、それには誰も―――エドワード以外は気づかない。
 その間に、バルドはこの場で一番地位の高いと思ったエドワードに向かって突進してきた。
 
 
 ――――――パチン
 
 
 エドワードが口元だけで笑ったとき、その背後から澄んだ音がした。
 
 
「ぐはっ!!!!」
 
 
 そして次の瞬間、バルドはロイの焔に包まれていた。
 
 
「おいおい、ロイ。……あんまりでかいのはいらねえんだけど」
「……これでも抑えてあるのですが」
「あー、ならいいや」
 周りの人間はこの会話に、ロイの言ったことはどう考えても嘘だろう、と思いながら黒焦げになったバルドを見る。
 明らかにここから自力で歩いていけそうもない状況を見て、ロイの焔の威力にぞっとした。
 そしてこの威力を大きくないと言外に言い、それを納得した、中央の某人の言うところの「デタラメ人間」二人の敵ではなかったことに感謝した。
 
 
 
 
 
 
「それで、なんかいいもんはあったか?」
 東方司令部に戻り、自身の執務机に向かってロイに渡された報告書をめくりながらエドワードは聞いた。
「いいえ……いつもと変わりありません」
「ふ~ん…………」
 ロイの言葉にそんな気のない声を出して、エドワードはロイの報告書に目を通す。
 
(いつ見ても完璧なんだよな………)
 
 最初の報告書から直すところのなかったロイの報告書の完璧さに今回もまたエドワードはため息をつきたくなる。
 それだけではなく、そのほかのことに関してもロイはまだ十代半ばだと思えないほどに何でも完璧にこなしてしまう。
 年相応であるところを探すならば、唯一物知らずなところくらいだろうか。
 それでもその年代で知っているはずのことを知らないという、ここもまた年相応でないところではあるが。
 
 
「それで、今回はどれくらいここにいるつもりだ?」
 報告書の内容をすべて頭の中に入れると、エドワードはソファでホークアイ中尉に出された紅茶を飲みながら答える。
「決めてはいません。………何か図書館などに新しい資料が入っているのであればそちらへ行こうと思ってはいるのですが……」
「あ~、それは聞いてねえな……。ここの資料室にも新しい資料が入ってはないし……」
「……そうですか」
「どっか行く予定とかなねえのか?」
「いえ、今回は決めていません。………ですから、どうしようかと思って」
 困った、と言うようにロイはエドワードに言う。
 それにどう言ったらいいのか分からずに、エドワードは頬をかく。
 そして、一つだけ思いついた――――――というか、思い出したことがあった。
 それを言うかどうか迷いつつ―――本当はかかわらせたくはなかったが、そうも言っていられなくなっている今の状況に、エドワードは仕方なく頼みごとをした。
 
 
「あ~、それじゃあさ、ちょっと協力して欲しいことがあるんだけど」
 
 
 その言葉にロイは顔を上げ、エドワードを見た。
 そして首をかしげる。
「なんですか?」
「あ~、ちょっと………」
 
 
 
 テロリストの掃討作戦を…………な。

– CONTINUE –

2019年4月14日

Posted by 五嶋藤子