8. 45:構築式
「それじゃあ、全員準備に取り掛かってくれ」
迅速に、な――――――。
そう言って直属の部下へ指令を出すと、エドワードは自身もテロリスト摘発のための準備を始めた。
ロイがイーストシティへ来てから数日後。
やっと列車ジャック事件の事後処理が終わり、エドワードたちは以前から計画していた作戦へと移ることが出来るようになっていた。
その時になってようやくエドワードは宿に待機していたロイに連絡を取り、指令部へと呼び出したのだ。
そのロイが司令部――――――エドワードの執務室に顔を出せば、すぐに引っ張り込まれ、今回の作戦の説明に入ったわけだ。
このとき初めてロイは今回の作戦の大きさ―――ひいてはテロリスト集団の巨大さを知ることになった。
――――――はっきり言って、なぜここまで集団が大きくなるまで軍部が放っておいたのか、ロイは疑問に思ったが。
それを上司の執務室に二人っきりになり、すぐに聞けば苦笑が返ってきた。
「……どこぞの馬鹿が邪魔ばっかりしてたからなあ―――――――――」
ほかの書類に関しても、テロリスト集団への諸々に関しても。
「…………………」
つまり、取り締まるべき側である人間が、武器の横流しやら書類の偽装などによって隠していたわけだ……取り締まるべき対象を。
それを理解したロイは呆れて物が言えなくなった。
それが軍人のすることか――――――特に地位のある人間のすることか、と。
ロイの思ったことが分かったのか、エドワードはさらに苦笑した。
「確かに取り締まる側がすることじゃねえなあ………。だけどま、それだけじゃなく、いろいろな面でやばいことはやってるからな――――――特に地位の上に行けば行くほど」
その言葉にロイはさらに厳しい雰囲気を出す。
「中佐もそうなんですか……?」
「―――さあ、どうだろうな?」
「…………」
ロイは、この世界に入って数年が経ち、旅の途中でいろいろな司令部、支部に行くこともあり、この年齢にしては軍の暗い部分を知っているし、それが必要な部分もあることを知っている。
が、理解するのと受け入れるのとはまた違う。
そして、ロイはかなりのところで潔癖だった。
理解してはいるが、受け入れられない。
それが自分の上司ならばなおさら。
何もないとは思ってはいなかったが、だからと言ってそれを示唆されればいい気はしない。
そのことをエドワードも理解していた。
「まあ、ロイが考えるほどやばいことじゃねえよ、オレはな。――――――オレよりほかの上官の方がやばいことたっくさんしてる」
ま、これは数の問題でもねえけど。
「………分かりました」
ひとまず、ロイはその言葉で納得することにした。
――――――いやいやではあったかもしれないが、エドワードの部下であるために、納得しておくしかなかった。
「それで………中佐は何をされているんですか?」
自分の机に着いて、紙にペンで何か書き出したエドワードに向かってロイは尋ねた。
「うん?これ」
そう言うとエドワードはロイに一枚書き終わったばかりの紙を差し出した。
それをロイが受け取ると、また別の紙にエドワードは同じようなものを書き出す。
それを横目に受け取った紙を見れば、そこには
「………練成陣」
なぜ、また……。
「あー、もしものときにわざわざ練成陣描いてたら時間の無駄だろ?事前に描いて持っていたほうが時間の無駄にならないし、もしものことを避けることが出来る」
「まあ、そうですけど………」
「ま、そんなことにならないようにすれば何の問題もないんだけどな」
ロイももしものときのために焔以外を練成することがあるかもしれないから、こういうのは持っておいたほうがいいぞ。
そう言うと、また休めていた手をエドワードは動かし始めた。
「そう………ですね」
あいまいな言葉で返すと、ロイはエドワードに練成陣を書いた紙を返して「準備をしてきます」と言って執務室から出て行った。
それを手を振って送ると、エドワードは一人になった執務室でぽつりと呟いた。
「オレ、変なこと言ったっけ?」
「あ、ロイさん。着替えたんですね」
再び時間になってエドワードの執務室の前まで来ると、ちょうどその場に鉢合わせたフュリーにロイは声をかけられた。
「ええ………この方が目立たないと思って」
そう言ったロイの格好は、青い上着に青いズボン――――――軍服を着ていた。
「そうかな?普段の格好も目立たないと思うけど……」
首をかしげて不思議がるフュリーに、ロイは首を横に振った。
「いえ、軍服の中に一人あの服装では目立ちますし、何かあっては困りますから」
――――――私にとっても、軍の方にとっても。
暗に、味方に攻撃されるかもしれない可能性があると言った。
「あ~、そうだね」
そんな考えを持っていなかったフュリーは内心冷や汗をかいた。
そ、それは困る……!!!!
ロイにもしものことがあれば、上司がどんなことをするか分かったものじゃない。
そのことにロイは気付いてはいないようだったけれど、それでもそんな考えを自分で持っていることに感謝した。
ロイとしては、単純に命の危険にさらされたときの人間の判断能力を信じなかっただけなのだが。
そんな会話を交わしながらエドワードの執務室に入ると、そこにはエドワードの直属の部下全員が集まっていた。
ただ、その部屋の主だけがいなかった。
エドワード自身が準備に追われているのだろう、時間までにはまだ若干の余裕があった。
しかしそれでも状況が状況であるため、いつもよりぴりぴりとした空気が流れていた。
そんな中、ロイたちが入ってきて、さらに部屋の空気が緊張を帯びたものになった。
それはロイ自身は理解してはいなかったが、理由はロイにある。
ロイが軍服を着ている。
ただ、それだけの理由ではあったが、まだ十代の―――国家錬金術師とはいえ―――少女に軍服を着てもらわなければいけない状況に巻き込んだというもの。
ロイは気にしてもいないだろうが、しかし、周りの『大人』である―――年齢的にも、身体的にも―――軍人たちは無力感を味わいながら、作戦終了時にロイは無事でいさせなければという決意をさせた。
その、緊張感だ。
「全員そろっているな」
そんな、エドワードの部下たちが決意したとき、エドワードが執務室に入ってきた。
その言葉に、その時執務室にいた全員がエドワードの執務机の前にきっちりと整列をする。
エドワードは、部屋に入ってすぐに室内の雰囲気には気付いていたが、そんなことはおくびにも出さずに淡々としている。
ただ、部下の様子を確認し、全員の顔を見渡し、時間を確認した後エドワードははっきりと言う。
普段のエドワードとは比べ物にならない声音で。
「――――――作戦開始だ」
全員、気を抜くことのないように。
– CONTINUE –