11. 72:成長
「あら、今回は早いわね」
ロイが東方司令部についた途端、ホークアイ中尉に言われた。
「………嫌味ですか?」
いつもとは違うホークアイの雰囲気に、ロイは内心驚きながらも言い返す。
確かに前回ここを訪れたのは二週間ほど前。
大体一ヶ月か、それ以上の周期で東方司令部を訪れていたのだから、ホークアイの言葉は正しい。
しかし、ホークアイがこのような言葉を言うとは思っていなかったから、ロイは多少、ムッとした。
「いいえ」
そんなロイに苦笑しながらホークアイは言った。
そしてこっそりロイの反応にこっそり感心する。
今までであれば、決してそんな反応は見せなかった。
「はあ…」とか「そうですね」などと言われたことに対して興味のないことが分かる返事しかしてこなかったのだ。
それが今日はどういう風の吹き回しか、普通の反応を返してきた。
何かあったのか、それとも……と思うところはあるけれど、そのことには触れずにホークアイはロイの背中を押した。
「中佐も最近今までと違うし………どうしたのかしらね」
「はあ……?」
「すぐに分かるわ」
行きましょう。
ロイの言葉を軽く無視して、ホークアイはロイを促す。
そしてロイはホークアイに半ば引きずられるような感じでエドワードの執務室へと連れて行かれた。
「あ、早いな」
「…………では、今度は一年後にしましょう」
「それは止めてくれ」
部屋に入って第一声、エドワードにもホークアイと同じようなことを言われたロイは、嫌味で返した。
そうすると、さすがに嫌味だと分かったが、それだけではない事を悟ったエドワードは、慌てて止めた。
ロイならばやりかねないとでも思ったようだ。
そして、それは半分当たりだ。
「残念です。少しは列車の運賃が浮くんですが……」
「多額の研究費を貰ってる国家錬金術師が何を言う」
「中佐の手間も省けるでしょう?」
「…………まとめて報告書を出されると、それはそれで量が多いから困るんだけど………」
「――――――それもそうですね」
エドワードの言葉に納得すると、ロイは、はい、と報告書を出した。
「ああ……で、今回はどこ行ってたんだ?」
「西の方に……」
「ふ~ん」
いつもの会話を繰り返しながら、エドワードはロイの報告書に目を通していく。
相変わらず、不備のない報告書だ。
たわいない会話の中でも、エドワードは見るところは忘れない。
「それにしても――――ホークアイ中尉が、中佐が最近今までと違うと言われていましたが……」
どうかされたんですか?
何気なく、大して深く考えずにロイはエドワードに尋ねた。
しかし、エドワードはその言葉にピクリと肩を震わせる。
それに、ロイはそれに気付いて不思議に思ったが、すぐに何事もなかったかのように報告書をめくる。
「――――」
「……中尉の、勘違いじゃないか?」
オレは変わったつもりはねえけど……。
「そうですか?」
エドワードのさっきの反応にロイは目をつぶる。
「そう……。って、オレよりロイの方が変わった気がするけどな……」
報告書から顔を上げて、エドワードはにやりと笑った。
「……どこが、ですか?」
「今回は結構早かったな、と」
「そのほうが、中佐には楽なのでしょう?」
「まあ、な……。でも、あまり気にしなくていいぞ。今までも、それほど困るような長い期間、戻ってきていなかったわけではないしな」
ロイのあまりにもそっけない言葉に、エドワードは苦笑する。
けれど、ロイはふっと一瞬雰囲気を変え――しかし、エドワードは気付かず――しかしすぐに元に戻す。
そして、ロイには珍しいことを言った。
「中佐は、私が短い間に何度も来ては迷惑ですか……?」
――――――
「はあ?」
聞いたことないような声音で言ったロイに、エドワードはすっとんきょんな声を上げた。
…………
「変なこと言ってすみません……。気にしないで下さい」
そう言うと、ロイは背を向けて、執務室から出て行こうとした。
「あ、ロイ!!」
あまりの突然のことに、エドワードは固まっていて、しかし、それでも何とかロイの名を呼ぶことが出来た。
自分の名を呼ばれて、ロイは扉の前に、のぶを手にかけ振り返った。
「そんなことねえよ……。戻って来たい時に戻ってきていい。誰も――オレもだ――誰も、迷惑に思う人間は、東方司令部にはいねえよ」
そう、エドワードが言うと、ロイはコクリ、と頷いてそのまま部屋を出て行った。
残されたエドワードは、ロイの様子に疑問を感じつつ、結局そのままにしていた。
– CONTINUE –