13. 36:昼寝
「中佐…………」
ロイがエドワードの執務室に入ると、ホークアイ中尉にはいると言われたにもかかわらず、部屋の主はいなかった。
だが、ホークアイは、エドワードは部屋から出ていないと言っていたから、必ずいるはずで。
いないなんてコトはさすがにないはずなのだが。
そんな考えの元、思いつくところと言えば部屋の隅にある扉の向こう。
――――仮眠室だ。
あまりそこをエドワードが使っているところを、ロイは見たことがなかったけれど、ここ最近仕事が立て込んでいたと聞くから、仮眠でもしているのだろう。
そう考えると、寝かせておくべきなのだろう。幸い、ホークアイは急ぎの仕事は今のところはないと言っていたし。
しかし、ロイもロイでエドワードに用事があるのだ。
それほど急ぐことでもないが、だからと言って待っているのも……と、考えてしまう。
寝ていたら一度起こしてみて、それでも起きなければ資料室で時間を潰そう、そう言う考えに達して、ロイはエドワード専用の仮眠室へと入った。
できるだけ、音を立てずに、静に。
そして、目に飛び込んできた光景に、ロイは先ほどの声を出したのだ。
部屋は日の光で眩しいほどだった。
恐らく、あまりにも疲れていたのだろう、カーテンを引かずにエドワードは眠ってしまっている。
しかも、その光がエドワード自身を照らしているにもかかわらず、眩しいだろうに、まったく起きる気配がない。
そして、ロイの目には、日の光を受けて輝く、エドワードの金色の髪が映っていた。
(綺麗だな……)
いままで、それほど思ったことのないことを、ロイは自然に感じた。
それに、はっとなって気づいて赤くなる。
(何、考えているんだろう……私)
幸い、その光景を誰も見ていなかったけれど、もし見たとすれば、初めての光景に目を見張るだろう。
それほど、ロイは顔を赤くすることなんてなかったのだ、今まで。
そんなロイは、ぶんぶんと首を振って、熱くなった顔を、冷まそうとしていた。
初めての経験で、それほど早く元に戻るわけはなかったが、それでも何とか落ち着けると、ロイはエドワードに声をかける。
そんなときでも金色の髪が目に入るが、もう、無視するしかない。
「中佐、起きてください」
そう、肩を叩きながら言うけれど、一向にに目を覚ます気配を見せず、ただ、むにゃむにゃと、寝言を言うだけだ。
「無理、だね……」
はあ、っとため息をついて、ロイは仕方がないとエドワードを起こすことは止めた。
これ以上やっても、起きてくれるとは限らない。
と言うよりも、起きない可能性のほうが非常に高いだろう、エドワードならば。
そして、それほど時間が切羽詰まっているわけでもないので、それほど深刻に考えなくてもいいというのが大きな理由だろう。
そう思って部屋を出ようとしたが、それにしても寝るにはあまりにも眩しすぎるのではないかと、心配になった。
これでは十分な時間を寝ても、疲れは取れないんじゃないだろうか。
そう考え、ロイは部屋のカーテンを閉め始めた。
とは言っても、仮眠室としての部屋なのだから、それほど窓があるわけでもない。
ただ、エドワード専用の仮眠室は一般下士官用の仮眠室より、窓が大きいと言うだけだ。
そして、その窓と言うのが――――エドワードを挟んでロイの向こう側にある。
しかもその窓の横幅は、エドワードが寝ているベッドの長さより、短い。
つまり、ベッドに乗らなければカーテンが閉められないわけで。
一瞬、考えたけれど、どう見てもエドワードが眩しそうだったので、ロイはエドワードを起こさないように気をつけながら、ベッドに乗った。
起こさないように、ベッドを揺らさないように気をつけながら、手を伸ばしてカーテンを引く。
ふらふらしながらも、何とかカーテンをきっちり閉めることが出来た。
「よいしょ……」
何とか閉めることが出来たカーテンの裾を放し、ロイは片手をベッドに着いて、そっと降りた。
しかし……
「中佐?」
急にその手を掴まれた。
もしかして起こしてしまったのかと心配になって、エドワードの顔を覗き込んだけれど、その目は寝ぼけているのが分かる。
よくよく見ると、起きたわけではなく、夢と現実の間を彷徨っているような状態のようだ。
それにほっとしつつ、どうしよう、と思ってしまう。
手はしっかりと掴まれていて、振りほどいたらすぐにでも起きてしまいそうだ。
さすがにここまでして、起きられるのもどうかと思う。
そう思ったロイは、何も出来ずにいた。
と、
「え!?」
ドサッ
急にエドワードに腕を引かれ、ロイはそのまま倒れた。
その時ロイは、エドワードを下敷きにした、と思ったけれど、感じるのは柔らかい感触で。
軍人の鍛えた体の上ではなく、ベッドの上に倒れたことを知った。
ただ、そこで安心できるわけでもないのだが……。
「ちゅ、中佐!!」
寝ぼけていると思っていたが、実は起きていたのだろうか。
そんなことを考え、そしてこの状況がかなりまずいのではないかとも、ロイは思い始めた。
一応、上司と部下とはいえ、エドワードは男で、ロイは女なのだから……。
「中佐……」
ぎゅっ!!!
「中佐?」
名前を呼ぶと、エドワードはロイをしっかりと抱きしめてきた。
(どうしよう……)
あまりにも唐突のことで、どうしていいか分からず、とりあえずエドワードの腕の中から抜け出そうともがくが、そうすればするほどロイを抱くエドワードの腕は強くなるばかりだ。
そのため、自力で抜け出すことを諦め、くいくいと、エドワードの服の裾を引っ張ってみる。
しかし、そんなことをしてもエドワードが放すわけもなく。
ロイはエドワードが起きるまで、抜け出せないことを悟ってしまう。
(いいのかな……?)
そんなことを思うけれど、エドワードの寝顔を見ると、最終手段である起こすと言う行動には移れない。
(でも……まあ、いいか)
今までに覚えのない、暖かなものに包まれて、そんな風に思う。
(あったかい……)
そう思うと、だんだん、だんだん、睡魔が襲ってくる。
暖かくて、安心できて、そんな感覚がロイを眠りへと誘っていった。
そのまま、ロイはエドワードの腕の中で眠った。
「えっ……?」
エドワードが目を覚ますと、その目の前の光景に絶句した。
「ロ、イ……?」
目の前にいる、と言うより、エドワードがしっかりと抱きしめているのは眠っているロイで。
なぜ、自分は彼女を抱きしめて眠っているのだろう、そのことがぐるぐると頭を巡ったけれど、その理由が分かるはずもない。
寝ぼけてやったことなど、エドワードは覚えていないのだ。
そして、覚えていないことに軽くパニックになりながらも、エドワードはロイを放そうとはしなかった。
誰も見ていないのをいいことに、抱きしめたまま、ロイの寝顔を見ている。
(やっぱ、美人だよなあ……)
以前から分かってはいたことだが、こうして改めて見ると、それがよく分かる。
白い肌に、長いまつげ。
小さな唇は赤くて、つやつやとしている。
それに、少々やばいことになりそうになって、慌ててエドワードは目をそらした。
(やばいやばい)
何かしてしまったら、ロイの上司でいられなくなる。
――――――いや、それよりも先に生きていられなくなる可能性のほうが高い。
ロイの側にいるためには、我慢をしなければならない。
健康的な成人男子としては困りものだが、それよりも優先したいものがある。
そのためには、これくらいは我慢できた。
それでも、
「まあ、これくらいは許してくれ」
そう言うと、エドワードはロイの額に、ちゅ、っと、触れるだけのキスをした。
そして、そのまま、またロイの寝顔を飽きずに見続けた。
エドワードがロイの寝顔から目を放すのは、ロイが目を覚ましたときか。
それとも、ホークアイ中尉に見つかるのが先か。
– CONTINUE –