14. 56:報告書

 コンコン
 
 
 オレだけがいる執務室に、ノックの音が響いた。
 さっき、ホークアイ中尉は大量のオレが採決すべき書類を置いていったため、彼女ではない。
 他の部下も、違うだろう。
 ハボック少尉と、ブレタ少尉は外に出ているし、ファルマン准尉とフュリー曹長はおのおの、下士官から用事を頼まれていた。
 だから、誰だろうと思ったけれど、会えば分かると思って返事をした。
「どうぞ」
「よう!!エド!!」
 
 
 ガン!!
 
 
 扉が開いたと同時にかけられた声に、オレは撃沈した。
 それでも何とか顔を上げ、少し痛む額をさすりながら声の主を見る。
「ヒューズ中佐……あんた、何しに来た」
 そこにいたのは中央司令部勤務のマース・ヒューズ中佐で。
 東方司令部にいるのはおかしい人物だ。
 そして、たまにではあるが、軍の回線で電話をかけてきて、長い時間仕事を停滞させてくれる人物。
 しかも、その内容が…………。
 
 
「まあ、そう言うなよ。ほら、エリシアちゃんの写真、これ見て癒されろ」
「あ~、遠慮する!!」
「そんなこと言わずに~」
 そう言って、写真を見せてくるのだ……毎回、会えば。
 電話であれば、それはないが……その代わり、言葉を挟めないほどにしゃべり続ける。
 これさえなければいい同僚なのだが……。
 
 
「そ、それだけのために今日来たのか!?」
 そう、半分叫ぶように言えば、ヒューズ中佐はぴたり、と黙った。
 それに不思議に思っていると、中佐は真面目な表情をしていた。
「??……中佐?」
 そう、中佐を呼べば、真面目な表情のまま少し膨れた封筒を差し出してきた。
「?????????」
「それは、お前が頼んできたやつの、報告書だよ」
「!!!!!!」
 そう言われて、オレは慌てて中を確認しようとした。
「ちょっと待て」
 しかし、それを中佐に止められた。
 胡乱な表情で中佐を見ると、真剣な表情で言う。
「それを見て、お前がどう思うか分からないが……」
 いつもとは違う、歯切れの悪い言葉で前置きをしながら、中佐は続けた。
「俺は、お前がこれを見るのは薦めない」
「…………」
「それでも見るなら、止めないけどな」
「それは……ロイの過去に何かあったからか?」
「…………」
 そう、オレが中佐に頼んだのはロイのコト。
 何かしら引っかかることが多くあるロイを調べて欲しいと、ロイが国家錬金術師になって少し経った頃、オレがヒューズ中佐に個人的に頼んだのだ。
 それが、数年後、ようやく結果が出たという。
 ヒューズ中佐の情報収集力を持ってしても、それだけかかったということは……それほど、ロイの過去は隠されていたということだろう。
 しかも、かなり強い力によって。
 オレは、そう考えた。
 しかし、調べた本人のヒューズ中佐は微妙な表情をしている。
「俺は、これ以上言えない……」
 そう言うと、オレの前を離れ、ソファーにどっかりと座った。
 何が書かれているのか、一体どうして中佐はこれ以上言えないなどと言うのか。
 疑問が頭の中を駆け巡ったけれど、それでもロイのことを知りたくて、ロイについて引っかかっていることが何か知りたくて、オレは封筒から綴じられた報告書を取り出した。
 
 
 
 
 
 
 その後は、ただオレが紙をめくる音だけが部屋に響いていた。

◇◆◇

「嘘…………だろう?」
 報告書を読み終わった後、オレの第一声はそれだった。
 それをヒューズ中佐はただ黙って見ていた。
 けれど、オレはそんなこと気にすることも出来ずに、ただ、書かれていたことを頭の中で反芻する。
「本当、なのか……?」
「ああ……」
 独り言のように呟いたオレの言葉に、中佐はそう答えた。
「でも……」
 それでも信じられないオレに、中佐はため息をつきながら言った。
「信じられないのは分かる」
 
 
 けどな……
 
 
「一番初めに、ロイのところにスカウトに行ったのが大総統ならば…………今まで何人もの軍人がその後に行ったとしても、隠して、エド、お前が「軍で初めてロイのスカウトに行った」と思い込んでも、不思議じゃない」
 
 
「…………」
 中佐の言葉は、オレに重くのしかかる。
「エド……そんなにショックだったかのか?」
 
 
 ロイのところに、大総統自らスカウトに行っていたというのが……。
 
 
 オレの気持ちを知っているヒューズ中佐は心配そうに言うけれど、オレはそれに首を横に振った。
「そうじゃない……。別にそれは不思議でもなんでもないことだよ。ロイの実力なら、大総統の直属の部下でも、不思議じゃない」
「っ……」
 オレの言葉に、中佐は詰まった。
 そう言えば、ロイの実力を、中佐には話していなかったかもしれない。
 オレがロイのことで嘘を言うことはないのは知っているから、驚いたんだろう。
 でも、それをオレは無視して続けた。
 
 
「オレがショックを受けたのは、なぜ、ロイのところへスカウトが何人も行ったことを、隠していたのかということだ」
 
 
 あいつ、最初の報告書には「男」ってなってたんだぞ。なぜ、そんなことまでする必要があるんだ?
 
 
 そう、そのことに一番驚いた。
 なぜ、隠す必要があったんだ?
 そして、それはロイの元へ行った軍人にも徹底されている。
 ロイをスカウトに行った軍人の中に、オレに昔からよくしてくれている、アームストロング少佐もいたからだ。
 少佐なら、オレがロイのスカウトに行ったことを知れば、自分も行ったことがあると知らせてくれるはずだ。
 それがなかったということは……。
 
 
「大総統の力か……でも、なぜ……」
 
 
 考え始めたオレに、中佐は、
「そこまではさすがに分からなかった……。大総統が係ってるとなると、さすがに手を出しづらい」
 
 
 いくら、お前の大好きなロイのこととは言え。
 
 
「中佐……」
 さっきまで真面目な表情をしていたのに、ころっと表情を変え、にたにたしだす。
 そうすると、もう、ぴんと張った雰囲気などどこかに行ってしまった。
 それをオレは睨むけれど、地位はオレの方が上でも、年齢は中佐の方が上で、経験とか諸々、オレの方が足りないから、こういうとき、いつもまったくオレの行動は効かない。
「まあ、いいじゃねえか。ようやくお前にも大切な人間が出来たって、喜んでんだぜ?」
 オレとか、ホークアイ中尉を始めとするお前さんの部下がな。
「…………」
 その言葉に、じとっと目を向ける。
 けれど、やっぱりこういうところは敵わないから、それ以上はやっても意味がない。
 
 
 
 
 
「それで、どうするんだ?」
 この結果……。
 散々目線で冷やかされた後、中佐はそんなことを言い出した。
 それをオレは報告書をぱらぱらしながら答えた。
「とりあえず、ロイに聞いてみて、様子を見るよ」
 さすがに、何もなかったことには出来ない。
 こんなところは、科学者の嫌なところだ。
「そうか……」
 オレの言葉にそう中佐は言って、肩をぽんと叩きながら、
「ま、がんばんな」
 と、そう言って、笑った。

– CONTINUE –

2019年4月14日

Posted by 五嶋藤子