17. 4:等価交換
ロイは話し終わると、ひとつため息をついた。
その表情は少し疲れたようで、そう言えばここまでロイが一人でしゃべったところをオレは見たことがない。
どうもロイ自身、こういうことはなかったようだ。
「そうか……それでロイは旅をしていたのか」
「――――――はい」
そう言ったロイは、俯き加減にオレを見てくる。
「??……どうした?」
「いえ、あの……」
嫌じゃありませんか?後見人で、上司である中佐に内緒でそんなことをしていたなんて。
「…………」
うーん。
恐る恐る、といった風に聞くロイに、オレは少し考えて答えた。
「まあ、嫌じゃないと言えば嘘になるけどなぁ……」
そこまで言ったとき、ロイはびくっと肩を揺らし、俯いた。
「それでも仕方がないだろう……大総統の命なんだからな。大総統命なら、オレに秘密にしていてもオレが怒るようなことじゃない……。むしろ、秘密にしておかなければいけないことなんじゃないか?」
と、そこまで言ったとき、ふと不思議に思ったことがあった。
「そう言えばロイ……オレに言ってよかったのか?」
大総統から命を受けていることを。
少し慌てつつ、あんまり分からないんだろうな、ロイ以外は、と思いながら聞く。
するとそんなオレを見ても、ロイは慌てなかった。
妙に落ち着いたまま言う。
「はい……大総統から許可を頂いていますから」
『エルリック少佐には話してもいい』
と。
そう言ったロイに、オレは「…………」と無言を返した。
ロイにはないかもしれないが、長い間現大総統の下で軍人なんてやっていると勘繰ってしまう。
まあ、その辺りはロイに話すことでもないだろう。
オレの無言の言葉をどう取ったのか、ロイは不思議そうな表情をして座っていた。
それに少し笑って誤魔化す。
そうすれば、ロイはそれ以上は何も言わない。
「なあ、ロイ」
「……はい」
少しの間のあと、ロイは返事をした。
「――――これまでのことは分かった。だから――」
そこまで言うとロイは少し身構えた。
まあ、それはそうだろう。こんなことになったんだけら。
今までのことを盾に、何を言われるのか不安なんだろう。
けど、オレの考えていることはそんなに怖がることでもないんだけどなあ……。
「これから調べたことは、オレにも報告してくれ」
「…………」
オレの言ったことに、ロイは目を丸くした。
まあ、それはそうだろうけど……そこまで驚かなくても。
「でも、そんなこと……」
「別に、それを使ってどうこうしようとは思っていないさ。ただ、ロイがどんなことを調べ上げたか知りたいだけだ」
どれだけの危険をロイが犯したかを知りたかった。
今まで、ロイがどんな危険な目にあってきたか……何度か聞くことはあったけれど、それでも本当にそれだけが全てではないだろう。
そこまで甘いものでもなかっただろうし。
「それに、知っておいたほうが何かあったときにオレも対処できるだろう?」
だから調査中に何か困ったことがあったら遠慮なく頼ってくれ。
そう言えば、ロイは少し困った表情をした。
大総統に言っていいといわれていても、やっぱりそれはどうかと考えているのだろう。
それにう~んとオレは唸った。
その時あまり使いたくないことが思い浮かんだ。
でも、それしか思いつかないんだよなあ……。
仕方なく、オレはそのことを提案した。
「大総統にはオレの方から言っておく。だから心配しなくていい。
あとは、そうだな、……等価交換」
「え?」
「協力するから、等価交換ってことにでもしておいてくれ」
かなりむちゃくちゃなことだとは思うけれど……、そう言いえばロイは少し考えた後、ふっと肩の力を抜いた。
それから少しの間のあと、ロイは
「……分かりました」
と、苦笑をしながら言った。
ここでようやく、ロイが今日ここに来たときはぴりぴりしていた空気がなくなったように思う。
まあ、その原因はオレ自身なのだから、オレの気持ちが落ち着いたってことなんだろう。
ようやくいつもの空気になった。
それによって、ロイの緊張もほぐれたようだ。
それにほっとしつつ、振り返ってみれば大人気ないことをしてしまったな、と思わずにはいられない。
まあ、それから後は普通の会話が戻ってきたから、そこまで気にすることはないのかもしれない。
多分、だけれど。
「そう言えば……資料見ると、結構な軍人がスカウトに行ってたんだな」
今更なようなことを言えば、ロイは「はい」とあまり興味なさそうに言う。
「……オレより地位が上のやつらもいるんだけど……そっちの方が良かったんじゃないのか?」
そのほうが動き安いと思うんだけど……。
そう聞けば、ロイは首を横に振った。
「だからと言って、大総統から頼まれた用事がこなせるとは限りませんから……」
「…………まあ、そうだけれど」
それはそうだが、結構オレより要領のいい上官連中ばっかりだから、文献見るのも楽に出来そうだけどな、オレに頼むより。
そんなことを報告書を見ながら思った。
まあ、この羅列された名前を見る限り、この誰かの下についたらついたでロイは苦労しただろうな。
ある一部を除いて。
「あ、ロイ」
「はい」
「この中だったら……アームストロング少佐なら別に構わなかったんじゃないか?」
一番まともでロイの自由にさせてくれそうだけど……。
ここに書かれた上官連中が聞いたらどんなことになるのか、目に見えている。
けどまあ、ここで聞かれてはまずい人間もいないし。
そう思って言えば、ロイはふっとため息をついた。
「まあ、その中では……」
そうですけど……。
そう言ったロイの顔は少し困った様で、どう言えばいいのかわからないのかもしれない。
まあ、これだけスカウトが来た中でオレを選んだんだから、決めた理由なんてなんとなくなんだろう。
そう思うことにした。
「アームストロング少佐はエルリック中佐が来られるまでは一番まともで、良い方だとは思うんですが……」
それ以上はやっぱり分からなかったようで、
「どうしてでしょうね。なんとなく、ダメだと思ったんです」
そう言ってロイは困ったように笑った。
◇◆◇
エドワードの執務室を出た後、ロイは一人廊下を歩いていた。
今日、思ってもみなかったことで呼び出されたが、それでも一度も考えたことがなかった理由ではない。
エドワードの――と言うよりエドワードの親しい軍人の情報収集力をロイは知っていた。
知っていて、それを放っておいたのはロイだ。
大総統には止めることも出来ると言われたが、それは遠慮した。
いずれ、知られることになるのは分かっていたし、ここまで来て隠したいわけでもない。
そこまで考えて、ロイはため息をひとつ。
その後に続いた言葉は、誰も聞いてはいなかった。
「まだ、大丈夫」
– CONTINUE –