26. 68:父
これは何だと思う。
どうしてこんなことになっているのかと……不思議に思ってしまう。
そして、ああ、仕組まれたんだなと……私だけに言うわけがないんだ。私を怨んでいるようだから、私を陥れるにはこの方法が一番『当たり』だろうと、私自身ですら思う。
「ロイ……」
相手は東方司令部にいることは向こうから知らせてきたから、報告書を持っていくという理由を付けて来ていた。
けれど――――あの相手を見つけるより先に中佐に捕まった。ずるずると中佐の執務室に連れて行かれ……鍵まで掛けられて。
そして数枚の書類と――――書庫の隅のほうに置いたはずのあの事件の報告書を見せられた。
「…………」
「どういうことか説明してくれるな、ロイ」
その表情は真剣で――――今まで見たことがないほど厳しかった。
少なくとも、私の前ではこんな表情はしたことがない。
それをぼんやりと見上げながら、どうしてこんなことになってしまったんだと考えてしまう。
中佐にだけは知られたくなかった。他の人たち……少なくとも、ホークアイ中尉やハボック少尉たちならこの書類を見たとしても、完全に理解は出来なかっただろう。そうであればいくらでもごまかしが効く。
けれど……絶対に中佐には効かない。
それは国家錬金術師だからと言うこともあるけれど――――
「ロイ」
いらだった様子で、それでも平静を装って私の名前を呼ぶ。
そう、中佐にはごまかしが効かないんだから、言うしかないから――――――
「それで……中佐はこれを見てどう思ったんですか?」
言いたくない私は最後のあがきとばかりに中佐に尋ねる。もちろんそれを中佐は予測していたようで、よどみなく……考える様子もなくすらすらと口にしていった…………。
「どうだ? 間違えているところがあったら言ってくれ」
むしろ間違えててくれと言外に告げる中佐。そんな中佐の様子に私は苦笑した。
そこまで考えることが出来ていて、それでもなおそれを否定したがっている。どうしてそんな風に思ってしまうのだろうか。私がそのことで罰せられれば、間違いなく後見人である中佐もただじゃすまない。地位も名誉も剥奪される。それを分かっているのだろうか。
中佐が全てを処理すれば、少なくとも中佐だけは軍にいられるだろうに――――。
そんな疑問はあるけれど、口にすることなく答え合わせをする。
「大方のところで間違いはありません――――――」
私の答えに、中佐は傷付いた表情を見せる。
どうしてそんな表情をするのかが分からないけれど、いつものカンの良さはどこに行ってしまったのだろうか。
「大体はあってます。けれど――――――私が火事を起こした状況は、間違ってますよ。他にもいくつか言いたいことはありますが」
「…………どういうことだ」
「中佐は私が父の行為を隠すために火を放ったと考えているのでしょう?」
「ああ、だがさっきも言ったようにそれだと疑問が残る。いくら父親が禁忌を犯したとしても、それが発覚したとき、ロイが責任を取らされることなんてありえない……」
「だからする必要がない……と?」
「そうだ」
きっぱりと言い切る中佐。
そこまでは考え付くことが出来たんだと思う。
確かに、それ以上のことを思いつけとはさすがに言えないだろうな。あれだけの資料からじゃ。まだ、情報が足りない。
「確かにそうですね。でも、それは元々間違った考え方なんですよ」
「…………」
無言で私を見る中佐。口を挟まないから、思った通りに言えと、そう言っているようだった。
だから中佐に構わず、私は続ける。
「火を放ったのは……確かに私です。それは意識したものではなく、無意識のことでしたが」
説明をしながら、あの日のことがよみがえってくる。
元々、何もなかったあの頃。
それでも何とか繋いでいたものが全て消えてしまったあの日。
あの時、私は得たものより失ったものの方がはるかに多かった。
あの日、私は父に書斎に呼ばれました。 書斎といっても、同時に研究をするところでしたから、そのての器具も多数そろっている部屋でした。
そこへ行くと、父と……そして体調が悪くて臥せっていたはずの母もいました。
二人は私に側に来るように言い……私もそれに従いました。
けど、両親のその時の表情はいつもと違っていて……気味が悪かった。どうすることも出来ませんでしたけどね。
そして私が父の前に行くと――――――父は練成陣を発動させた。
それに気付いて下を向いたとき、足元に小さな躯がありました。
本当に、小さな……小さな。
――――――一月ほど前、死産だった私の弟。
それを理解したときには、私は何もないところにいました。
禁忌を犯したものが行く場所。
恐らくそこでしょう。
私自身は禁忌を犯したつもりはなかったけれど……その場にいたのだから変わらないと判断されたんでしょう。
そして代価を取られるときに私は反射的に炎を放っていました。
「それが結局、屋敷を燃やした原因になったんだと思います」
「…………」
「炎が部屋にあったものに燃え移って……気化した薬品で爆発を起こしたのでしょう、それに巻き込まれて私は屋敷の外に飛ばされた。……その辺りのことは記憶にありません。その時既に気を失っていましたから」
そこまで言ったとき、中佐はなぜか傷付いたような表情をしていた。
私はそれに首を傾げる。
どうして関係のない中佐がそんな表情をするのだろう……。
「中佐?」
「なんで……」
「はい?」
「なんでロイの父親はそんなことをしたんだ?」
その表情のまま、中佐はそう聞く。
「ああ、それは――――――」
私は考えもせず、さらりと言った。
両親は、男の子供が欲しかったんですよ。
– CONTINUE –