27. 82:お母さん
「え……?」
私の言葉に、中佐は目を丸くして私を見た。
そんなに驚くことだっただろうかと思う。
けれど実際中佐は驚いているから……。
「両親は、元々子供は男の子が良かったんですよ。マスタング家を継がせるために――――女の子じゃ、だめだったようです。養子をとることも拒否した。元々親族が多かったわけでもないようで、私は血の繋がったマスタング家の親戚がどこにいるのかも知りません」
だから、血の繋がったわが子が欲しかった――――男の子の。
けれど、生まれた子は女の子だった。
「長女、次女の私と続いて……次こそはと思って――――――」
「ちょっと待て、ロイ。ロイに姉がいるのか?」
変なところで反応を見せる中佐。
「はい、いますよ。歳が離れているので何年も会っていませんが……それに姉はマスタング家が嫌になって飛び出して行ってしまったので……」
「そう、なのか……」
続けてくれと、中佐は促す。
「東の国では男の子が欲しいとき、二番目の女の子に男の子を表す文字を使うと次の子は男の子が生まれると言われているようですね。『男の子を表す文字』というものがここにはないので……男の子に使う名前を私につけたんです」
だから私の名前は『ロイ』なんですね。
「そのおかげか……次に母が身ごもったのは男の子だった。けれど、その子は死産で……母の年齢的にも、難しいといわれていました。そのことが原因で、母はもう子を産むことが出来なくなってしまった……」
「だから……」
「はい。だから禁忌に手を染めることを父は選んだ……弟の人体練成を――――私を」
代価として選んだ。
けれど結果として、私は代価となることを拒否した。
そのせいでしょうか、父は内臓をごっそり持っていかれて……母も死にました。死因は分かりません。弟は――――遺体と見られずに『肉の塊』とみなされた。
「結局、人体練成は失敗でした。両親は死に、私は生き残った。けど――――」
私に人体練成に関わった影響がまったくなかったわけではありません。
「なに……?」
中佐の驚いた表情に、私は微かに笑みを浮かべた。
こうなってしまっては、全てをぶちまけてしまいたくなっていた。
行ったところで何か変わるわけではないとは思うけれど……。それでも、もうどうでも良くなってきている。
「私には……錬金術を使うとき、練成陣は必要ないんですよ」
そう言うと私は一枚の紙を机の上に置いた。そして――――
パン!
「な……ん」
練成陣を書かずに、ただ手を合わせてその両手を紙の横に置く。
そしてそこに現れたのは折鶴。
そのものには意味はないけれど、この行動を、中佐は分かるだろう。
「どうして……」
「恐らく……代価を取られる際に『見たもの』が原因でしょう。正確には言えませんが……それを見たために練成陣が『必要なくなった』」
「…………代価は取られなかったんじゃないのか」
「それは分かりません。別に肉体の一部だけが代価というわけではないでしょうから。例えば――――」
本来生きるはずの年数のいくらか、とか。
「寿命?」
「分かりません。例えばの話ですし」
でも、取られなかったとは言えないでしょう。
「失敗したとはいえ、人体練成によって見てしまった本来見るはずのないもの――――そしてそれでもなお生きて戻って来てしまったから」
「…………」
「その点で言えば、確かに私は禁忌を犯していますね。私の意思でなかったとしても」
「…………ロイ」
資料を送ってきた人物の、私にあの言葉を言った人物の言葉は否定しない。
確かに、私は禁忌を犯したし、私があんなことしなければ、屋敷が燃えたりはしなかっただろう。父の命があったかどうかは別にして。
淡々と言う私に、中佐の表情は暗い。
それが気になったのだろうか。中佐は私に向かって言う。
「ロイ……どうしてそんなに平気な顔してそんなこと言えるんだよ」
その言葉に、私は首を傾げる。
「どうしてと言われても……」
「親に人体練成の代価とされて――――それはロイを殺そうとしていたってことになるんだぞ。それなのに……なんでそんな風に平気な表情で言えるんだ!?」
感情的な言葉に、ああ、中佐は両親に愛されて育ったんだなと思った。
分かったと同時に……羨ましくも思う。
「私は……両親に褒められた記憶がないんです」
「え?」
「何をやっても褒められることも……怒られることもなくて。興味がないといったほうが良いんでしょうか。いてもいなくても同じで。――――――両親は男の子が欲しかったから……男でなかった私は望まれてなかった…………愛されてなかった」
「!!!!!」
「それは昔から、弟が出来る前から分かっていました。だから殺されようとしたとしても、不思議に思いません」
そう言えば、中佐は俯いてしまう。
中佐の方が傷ついた顔をしていて……
「どうして中佐がそんな顔するんですか? ―――――――っ!!??」
不思議に思って覗き込むと、急に手を引かれて抱きしめられた。それにはもちろん慌ててしまう……。
「ち、中佐!?」
どうしたんですか、と聞くけれど、中佐は何も言わない。
ただ私を抱きしめているだけ――――――。
「――――――――――――私を処罰しないんですか?」
中佐の腕の中から抜け出すことはせずに、そのまま少し俯いて言う。そうすると中佐の胸に顔をつけることになるけれど……気にしなかった。
「ロイは別に自分の意思で禁忌を犯したわけじゃない――――――悪いのはロイの父親だ」
そう言っている途中にも中佐の私を抱きしめる力は強くなる。
「でもっ……」
「ロイはやっていない」
「…………」
そう言って……少し間があいた後、ぽつりと中佐は言った。
「ごめん」
――――と。
– CONTINUE –