初めてのクリスマス
「………何をやっているんですか、中佐………」
「ああ、久しぶり」
司令部を訪れたロイの第一声を無視して、司令官はそんな風にロイを迎えた。
「お久しぶりです、エルリック中佐。………それで、この状態は一体なんなのですか?」
「何って、クリスマスだから」
「…………」
「何、ロイ。クリスマスを知らないのか?」
「知っています」
呆れるより、驚いたと言う表情をして、しかしそれはどこか笑いを含んでいて。
そんなエドワードの言葉にロイは即否定した。
さすがにそこまで世間知らずとは思われたくはない。
それに、分かっているよと表情で返したエドワードに向かってロイはしかし疑問を投げかける。
「だからと言って、この部屋の状態はなんなのですか?」
「何って………変か?」
「はい」
これまた即答で。
ロイの言った言葉に司令官の部下(ロイの部下でもあるが、それはロイや司令部の人間の意識にはまったくない)がガックリと肩を落とし、変だと言われた当の司令官は未だ納得の行かない顔をしている。
「………どこが?」
首を傾げつつ司令官―――エドワード・エルリック中佐がそう問えば、ロイは真っ直ぐエドワードを見て言った。
「しいて言うならば全部です。なぜ東方司令部司令官の部屋が………仕事部屋が飾り立てられているのですか?」
ここは軍であって、イベント広場ではないでしょう?
呆れた声で言ったロイに、うんうんと周りでハボック少尉を始めとしたエドワードの部下が首を縦に振った。
「そりゃあそうだけどさ。いいだろ?たまにはこういうのも」
それを完全に無視してエドワードは言い返す。
「それにさ、ここでしかクリスマスを味わえないような人間がここにはごろごろいるんだ。可愛そうだろ、それなりにイベントがあるんだと示してやらねえと」
部下のロイへの同意の仕返しか、エドワードはそんなことを言ってニヤリと部下たちに向かって笑った。
その表情を見たハボックたちは再びガックリと肩を落とした。
どう見ても、エドワードたちの表情はいたずらが成功した子供と、いたずらに引っかかった子供の表情だ。
特にエドワードは大人気ない。
そんなやり取りを見ていて、ロイが呆れていると、今までどこかに行っていて部屋にいなかったホークアイ中尉が戻ってきた。
「あら、ロイちゃん。いらっしゃい」
「お久しぶりです、ホークアイ中尉………」
やっと話の通じる人が来てくれた。
そう思ったロイの気持ちが通じたのか、ホークアイは不思議そうな顔をしてロイに聞いてきた。
「どうかしたの、ロイちゃん?なにか中佐たちからされたの?」
そう言いながら中尉の右手は愛用の銃へ伸ばされる。
それを目に入れたエドワードたちは慌てた。
それはもう、思いっきり……。
ホークアイがロイを気に入っていることは周知の事実だ。
ロイに何かあればホークアイが黙っていないことを、エドワード以下、この司令室の人間は皆知っていた。
「な、何もしてねえよ、中尉!!」
だから、必死になって否定する。
しなければ、額に風穴が開くのは必至だ。
上司のその言葉に、ホークアイはロイへと視線を向ける。
さすがにロイもホークアイが本気で撃つとは考えてはいなかったが、エドワードたちの慌てようとホークアイの視線の強さにただこっくりと頷いた。
「そうですか」
そう言って、ホークアイは右手を銃から離した。
それにあからさまにロイ以外の人間はほっとして、肩をおとす。
何はともあれ、自分の額に風穴が開かなくてよかった、と……。
「それで、どうしたの?ロイちゃん」
抱えていた大量の書類の束をエドワードの机の上に置いたホークアイは、改めてロイに尋ねた。
それにうんざりとしたエドワードを無視して、ロイは解決していない疑問を投げかける。
「なぜ司令部がクリスマスの飾りでいっぱいなのかと思って……」
「ああ、そのことね」
ロイの言葉ににっこりと笑って、ホークアイは答えた。
「たまにはこういうのもいいでしょう?これを見ながら仕事をすれば、はかどるかと思って」
クリスマスの予定を忘れなくていいでしょう?
「はあ………」
ある意味エドワードよりも棘がある言い方をしたホークアイが最強だと思いながら、ロイは返事をした。
「ですから、仕事は早く終わらせましょうね」
にこりと笑って、ホークアイはエドワードを始めとしたロイ以外の司令室にいる人間に言った。
それは女神のような女王のような……とにかく迫力があった………早く終わらせろと言う圧力が。
「「「「「Yes,Mam!!」」」」」
それに全員が返事をして、脱兎のごとく机についた。
それを呆れながら見ていたロイは、忘れないうちに、と報告書をエドワードへと渡す。
「中佐、今回の報告書です」
「ああ、ご苦労さん」
それをエドワードが受け取ったのを確認すると、ロイはそのまま司令室を出て行こうとする。
「ああ、ロイ」
そんなロイを、エドワードは書類から目を上げずに引き止めた。
「はい……」
ロイが振り返っても目を上げず、エドワードは言った。
「今日はもう書庫に行くだけだろ?オレの仕事が終わったら、一緒に食事に行こう」
その誘いの言葉に、ロイは少し考えた後
「中佐のおごりですか?」
「もちろん」
「……分かりました。時間になったらまたここへ来ます」
「ああ」
「失礼します」
そう言うと、何事もなかったかのようにロイは司令室を出て行った。
そして部屋に残された人間は。
「少しは進展したのかね」
「…………」
「どうだろうな………あの様子じゃ、それはない気がするけどな」
「まだのようですな」
「でも、以前よりは良いんじゃないですか?」
「そりゃ、前よりはな」
「……………………おまえら」
いい加減にしろ!!!!
そうエドワードに叫ばれ、さすがにそれ以上話をせずにハボックたちは仕事に集中した。
予定がないんだからいいじゃないかと思いながら………。
そんなやり取りをしていたため、五人はホークアイの表情に気が付かなかった。
女性だからこそ気付く、女性の気持ちを分かった表情に。
そして、ロイと言えば………。
書庫で文献に目を落としてはいるものの、内容はまったく頭に入らずに時間いっぱいを過ごした。
ただ本人はなぜそうなったのか、理由は分かってはいなかったけれど。
– END –