知られることのなかった真実
「お嬢様、ギルバート・デュランダル様よりお荷物が届いております」
「デュランダル様から?」
幼年学校から帰宅したチャスカを出迎えたザラ家本邸の執事が、部屋へ荷物を置きに行こうとしたチャスカを呼び止め、その“荷物”を差し出した。
チャスカの受け取ったそれは何の変哲もない箱。
大体文庫本四冊くらいの大きさかな? と思ったものの、一冊分軽く感じるのは気のせいだろうか?
そんなことを思いながら執事に礼を言い、チャスカは今度こそ部屋へと戻るために階段を上っていった。
荷物を置き、着替えを済ましたあとでチャスカは送られてきた荷物を解いた。
「????」
そこから現れたのは案の定文庫本が三冊――――と、それらとまったく同じ大きさの、けれどそれらよりずいぶん軽い箱。
添えられていた手紙には一言、
“Present for you, Miss Chasca."
とだけあった。
「プレゼント……?」
とは言え、“プレゼント”を贈られる理由をチャスカは持っていない。
誕生日はまだ少し先だ。むしろデュランダルの誕生日のほうが近いくらいだ。
文庫のタイトルを確認してみれば、チャスカの好きそうなものであった。けれど、すぐに欲しいとか、読みたいと思うものではない。“いつか読もう”で済ませられるものだ。
それならば、デュランダルの本来の目的は別のもの――――そう、わざわざ文庫サイズの箱に入れられたその中身だと言うことだ。
そしてようやく開かれた箱の中に入っていたもの。それは――――
「メモリー……?」
手に取ったのは何の変哲もない一枚のメモリー。
何故こんなものが贈られてきたのか。
そもそも何かデータを欲しいと口にしたことはない。
だから、デュランダルの意図がわからなかったチャスカは、とりあえずその中身を確認するためにパソコンに放り込んだ。
「な、に……? これ――――」
最初に開いたファイル。そしてモニターにずらずらと表示される文字列は専門家でないチャスカには意味のわからないものだったが、それがDNA配列であることだけはわかった。
わかったけれど、意味なんてまったくわからないのだからどうすることも出来ない。
そのため、理解することはあきらめて別のもうひとつのファイルを開いた。
そして出てきた情報に、チャスカは息を呑んだのだった。
「これは……お兄様と…………こっちは――――」
そこにあったのはチャスカの兄であるアスラン・ザラと、チャスカのよく知る人物と、“歌姫”の遺伝子検査の結果。それも証明する遺伝子配列つき。
それは、アスランとチャスカのよく知る人物が、“子”をなすのに最高の遺伝子配列を持っていると言うことを示していた。
そしてアスランと“歌姫”の組み合わせでは、彼らの足元にも及ばない結果。
「どうして、こんなものを……?」
チャスカはプラントで婚姻統制が行われる理由を理解し、受け入れている。
当然だ。
出生率低下に頭を悩ませている父親や、幼馴染たちの親を間近で見ているのだから。
そして、そのためのプロパガンダが必要であることも、それに自身を含めた最高評議会議員の子供が最高であることも知っている。
そのために今、ひっそりと最高評議会議員の子供たちと“あう”遺伝子を持つ者を探しているのだ。
出来れば最高評議会議員の子供たち同士で見つかればいい。
けれどそんなに簡単に、うまくいくはずもない。
そうだった。
けれど、ここには兄と彼女が最高の相性を示したデータが存在する。
これはとてもいいことだ。
プラントにとっても、彼らにとっても。
けれどチャスカはそれを喜ぶよりも先に、別のことを考えてしまう。
何故デュランダルはこのデータをチャスカに送ってきたのか。
そもそも何故デュランダルがこれを持っていたのかが気になるところだが、それよりも先に何故自分に、と言う思いのほうが強かった。
こんな大事なデータであれば、すぐにでも評議会に報告されるのではないだろうか。
これは彼らの望んだ結果であるのだ。
彼らなら喜んでこの事実を使い、婚姻統制を推し進めようとするはずだ。
さまざまな理由で批判もある婚姻統制。
その理由のひとつに、この法律を決めた議会が誰一人“それ”によって結婚していないことがあげられる。
第一世代の多い議会なのだから、子供が出来にくいと言うことはあまりない。
ないが、自分たちは好きな人と結婚し、第二世代以降にはそんなものを強制する。
自分たちは好きな人と結婚したくせに――――。
そんな批判があるのも事実。
けれど、その第二世代であるチャスカたちが婚姻統制に従えば、その批判も収まるはずだ。
きちんと自分たちもこの法律に従う準備がある、と。
各最高評議会議員が、自身の子供をとても大切に思っていることは知られている。
だからこそ批判を抑えるにはとても良いことなのだ。
しかし、それを知っているはずのデュランダルが、秘密裏にの大切なデータを送ってきた。
彼に何かしらの意図があることは明白だった。
そして兄アスランと彼女以外のデータ……“歌姫”のデータをつけてきたこともまた、意図してのこと。
国防委員長子息と最高評議会議長令嬢の組み合わせがベストであることは、言われなくともわかる。
わかるが、この結果であればそれを望むことは出来ない。
婚約し、結婚しても子供が出来ないのであればどうしようもない。
それならそれぞれで相性のいい、一般人と結婚したほうがマシだ。
もし相性のそれほど良くない人間同士で結婚した場合、子供が出来なければ研究所の威信が揺らぐ。当然議会も。
そんなことを議員たちが許すはずもない。
だからこそチャスカは、送られてきたデータすべてに意味のあることだと判断した。
そしてチャスカ宛であったことで、デュランダルはこれを表ざたにはしたくないのだと考えた。
実際にデュランダルはこのデータを見てはおらず、ただ友人の頼みを聞き、チャスカであればいずれ活用できるだろうと判断したに過ぎないのだが、それをチャスカは知らない。
知らないからこそチャスカはこのデータのことに口をつぐんだ。誰にも……両親にも兄にも言わなかった。
当然デュランダルもチャスカがそう判断することを見越していた。
見越していて、それでも訂正することはなく、ただ、“時期”を待った。
それだけだった。
そうして。
チャスカが、デュランダルが口をつぐんだことで出来た時間の間に、“彼”がその望みのまま、動き出した。
そうしてもたらされたものは、たくさんの喜びの声と、いくつかの涙。
– END –
本当はC.E.68の話ですが、ネタばれになるのでここに掲載。