待ち受けているものは

「なあ、あんなにメイリンを脅す必要があったのか?」
 
 元ミネルバクルー全員が顔を青く――一部には白くしたまま出て行き、その後ジュール隊の隊員が出て行ったのを確認してから、ディアッカはイザークに尋ねた。
 チャスカと幼馴染の二人には、チャスカの性格はよく知っている――気に入らない人間にはそもそも関わらないし、自分の中に入れた人間は何が何でも守ろうとする。
「確かにチャスカはメイリンに厳しく当たるかもしれないけどさ――――それは単にメイリンに力つけてもらいたいだけじゃん。メイリンならチャスカの性格にすぐに気付くだろうし――あんな、何されても文句を言うなって脅しはあんまりなんじゃねえの……?」
 イザーク、自分の見た目が与える影響わかってんだろ?
「あれ、絶対悪い方に考えてるぜ」
 しかも元ミネルバクルー全員が。
 
「……それでいいんだそうだ」
 
「――――は?」
 イザークの言葉に、ディアッカは疑問符を浮かべる。
「チャスカから、メイリン・ホークを脅してからチャスカの下へよこせと言われた。内容は問わないとも言われたがな。チャスカに対し、恐怖心を持たせた状態で配属させろ――だと」
「なんでまたそんなこと」
「知らん」
 ため息をつきながらも、イザークの返事はそっけない。
「それを聞いた俺もエリザベスも、ニコルまでも無駄だと言った。そんなことをしてもいずれメイリン・ホークにはチャスカの性格は知られるだろうし、他のミネルバクルーにも――全員がバラバラのうちはないだろうが、時が来ればいずれ知られる。何よりチャスカと関わったことのある軍人は多い――そこからそのうちもれるだろう、と」
「そりゃそうだ」
「だが、別にそこまで引っ張るつもりもないそうだ」
「――――――」
 多少の呆れを含んだ声音でイザークは続けた。
「最初に与える仕事にその恐怖心があればいい、と――――」
「何、一回だけでいいの」
「らしいな」
 
「――――ずっげー力入れて、メイリンに何させる気なの、チャスカは」
 
「知らん」
 どう見ても無駄な労力をかけているとしか思えない状況に、一番年下の幼馴染にあきれるやら怖いやら。
「どうせ碌なことじゃないだろう。――――メイリン・ホークに今後必要だとしても、チャスカの考えることだ……突飛なことに変わりはない」
「あ~、チャスカだからなぁ――――」
 幼馴染の中で一番何を考えているかわからないのがチャスカだ。その思考回路が理解できない、と言う意味で。
 上官には持ちたくないタイプだよな~と思いながら、ディアッカは仕事に戻るイザークのあとについて部屋を出て行った。

2020年10月27日

Posted by 五嶋藤子