Pride 1
アスランは走った。
一緒に目的地に向かうラスティとともに。
けれど、そのラスティは殺されてしまった――――ナチュラルの手によって。
「ラスティ!!」
叫ぶと同時にラスティを殺したナチュラルを、同じように撃ち殺すアスラン。
ラスティが殺され、反射的に同じことをしていた。
他に何も考えてはいない。
“敵討ち”は、後に今のことを思い返して思ったこと。
けれど今はそんなことを考えている暇はなく、流れるように近くにいた女性兵士も撃つ。
しかし――――
(弾づまり!?)
こんなときに、と内心で舌打ちをしながらアスランはナイフを手に取る。
いくら自分と同じように訓練した兵士であっても相手はナチュラル、しかも肩に怪我をした女性であれば倒すことは簡単だ。
そう、自分は訓練されたコーディネイターの兵士だから。
そんなことを思いながら地球軍の兵士に向かって走るアスランの視界に、その女性兵士に駆け寄る少年の姿。
一瞬のうちに頭にその名前が浮かんだ。
そして意識せずにその名を呼んでいた。
「キラ?」
(……キラ・ヤマト?)
自身の声が耳に入ってきたことが引き金になったのか、アスランの動きを止めることが可能なほどの情報が頭の中で駆け巡る。
(何故こんなところにっ……!!)
一瞬の躊躇。
それが目の前の少年へ時間を与えてしまったことに、その声を……“アスラン・ザラ”の名前を耳にして悟った。
「…………アスラン?」
(っ……)
バイザーごしでも顔は判別できる。
そうして呼ばれた名前に、アスランは動くことが出来なくなった。
その思考の中で、ぐるぐるとこの状況をどうするべきか……が、めぐっていた。
“アスラン・ザラ”ならここはどうするか。
その判断がすぐには出来ない“アスラン”だった。
目の前の少年・キラへ視線を向けながら、その表情を動かさないまま、アスランは手に持ったナイフに力をこめた。
「ちっ……」
そんな中で、今の今までその存在を忘れていた地球軍の女性兵士が自分に向かって銃口を向けるのを目にしたアスランは、その場を飛びのいた。
体勢を立て直したアスランの目に映ったのは、キラが女性兵士にモビルスーツに押し込まれる姿だった。
「…………」
すぐにもビルスーツが起動したことを見て取ったアスランは、その傍らにある別のモビルスーツに駆け寄った。
既にこの場には自分と、キラと女性兵士しかいないことをアスランは知っていた。
他は全て死んだ。
アスランと同じように、モビルスーツ強奪の命を受けたラスティも。
ならば今アスランがすべきことは一体でも多くモビルスーツを奪うことだ。
アスランはキラの存在を気にしつつも、己のやるべきことを正確に実行に移していた。
アスランが飛び乗った機体――――イージスを起動させる。
(何このOS!!)
しかしそのあまりにお粗末なOSに一瞬目を見張ってしまう。
(これで戦争に参加しようって!?)
地球軍のあまりの技術力に呆れながらもアスランは持って来ていたザフトで使用されているOSをインストールして飛び立つ。
その後ろからキラの乗った機体――――フリーダムも飛び立つのが見えた。
(…………何を、しているの!?)
キラが民間人であることだけは分かった。
けれどキラ・ヤマトとアスラン・ザラが別れたのは三年前。
アスランがキラの行方を追っても見つからないくらいには時間がたっている。
(何もこんなところで出会わなくてもいいじゃない!)
とんだ“再会”だ、とアスランは内心で舌打ちをしながらも、ラスティの任務失敗をミゲルに伝えた。
◇◆◇
「ニコル!!!!」
アスランの目の前でニコルの乗ったブリッツが四散した。
(そんな…………そんなそんなっ――――)
「ニコル―――――!」
ただ叫ぶしかない。
目の前の光景は、ただそれだけをアスランにもたらした。
他には何もない。
悲しいとか、悔しいとか、そんなもの、今のアスランにはなかった。
ただニコルの――――“仲間”の死に今まで感じたことのない衝撃を受けていた。
――――キラ・ヤマトがニコルを殺した。
それだけの事実をかみ締めながら、アスランは離脱していくストライクとアークエンジェルを睨んでいた。
「はっきり言えばいいだろう! ニコルが死んだのは、俺を助けようとしたからだって――――俺のせいだって言えばいいじゃないか!!」
そう言って責めればいいじゃないか!
自分がこれほど感情をあらわに叫ぶことが出来るとは、アスラン自身思ってはいなかった。
本人が知らなかったのだから、イザークたちは考えてもいなかっただろう。
視線をはずしたイザークに、アスランは別のほうへと視線を移す。その先にはニコルのロッカーがあって……。
「アイツは俺が落とす!」
そう言ってパイロットロッカーからイザークが……そしてその後を追うようにディアッカが出て行った。
三人とも同じほうを向いていたのだ。
(…………ニコル)
ニコルの制服に触れ、アスランの瞳からは涙がこぼれた。
そしてそのロッカーにしまわれていて、アスランが制服に触れたことにより散らばった楽譜を見てさらに――――
「俺が……ニコルを――――」
(“私”のせいだっ……!!)
「本当は俺が撃たれるはずだった……」
(あれを受けるのは私だったはずなのに……)
「俺の甘さが……おまえを殺した……!!」
(私が“キラ・ヤマト”を撃てなかったから――――“アスラン”の幼馴染……親友だと言うだけの理由でっ!!)
――――ニコルは“私”の仲間だったのにっ……!!
最も激しい感情は、決して叫ばれることはなかった。
けれどその瞳には、今までにない色が浮かんでいた。
それは――――アスラン・ザラなら決して浮かべないであろう色。
仲間(ニコル)を殺された者の色。
「キラを撃つ――――」
仲間(ニコル)を撃った――――敵(キラ)を撃つ。
(キラ・ヤマトは私の親友じゃない)
同様に、ニコルはアスラン・ザラの仲間ではない。
こんな単純なことが、何故今まで考え付かなかったのだろうとアスランは自身を嘲るように嗤った。
それさえ考えていれば、こんなことには――――ニコルが死ぬことにはならなかった。
何より、既にストライクを落とせていたはずだった。アスランの力であれば。そして何よりアスランを親友だと――決して自分は撃たれないと思っているキラ・ヤマトが相手であれば。
しかし実際にはストライクは落ちず、ニコルは死んだ。
それは全て自身のせいだとアスランは知っている。
自分が“アスラン・ザラ”であろうとしたからだ。
“アスラン・ザラ”のとるであろう行動をなぞっていったから……。
けれど、もうそれは必要ない。
ここにいるのは“アスラン・ザラ”と名乗る、“アスラン・ザラ”ではない人間なのだから。
(ここにいるのは私よ)
アスラン・ザラじゃない!
そして、今抱いた感情を持つのも私だと、アスランは目的を定めた瞳で前を向いた。
その手にしっかりと、二度と着られることのないニコルの制服を握り締めて。
– CONTINUE –