Pride 4

 アカデミー歴代トップの名が廃るほどに、思い通りに行かない。
 私与えられた使命が、ことごとく邪魔されてしまう。
 それは向かった先の状況であったり、味方であるはずの人物による提案。
 
 そして最終的には――――トップの任務の変更。
 
 まあ、最後は仕方がないかと思う。
 ここまで手こずっていれば父が私の力を見放しても仕方がない。
 そう思わなければ、こんな状況にはなっていない。
 
 目の前には地球連邦軍。
 ここは宇宙。
 私の背後にはヤキン・ドゥーエ。そしてジェネシス。
 父が何をしたいかなんてすぐにわかった。
 それほどまでに母を――――と思うけれど、同時に悲しみもまた、襲ってくる。
 
 本当に、この人は母しか見ていない。
 
 子供のことなんて――――“私”のことなんてどうでもいいんだと、ようやく理解した。
 すとんと落ちてきた考えに、ふっと笑みが漏れる。
 
 私が落とすはずだった“フリーダム”は、クルーゼ隊長の“プロヴィデンス”が相手をしているのがわかった。
(……こういうとき、兄弟機は便利だよね)
 難なく見つけることが出来るようにデータの入っていたそれで確認する。
 ただし戦場は混乱しているので、はっきりと確認できないが……まあ、良くて相打ちだろう。
「ふう…………」
 結局、私は何がしたかったのだろうと、そんなことを思ってしまう。
 Nジャマーキャンセラーを搭載した“ジャスティス”に乗りながら、やっていることと言えばヤキン・ドゥーエの護衛。
 これが今の私の実力か、と思う。
 けれど、それでもかまわないと思うのもまた事実で……プラントさえ、守れればいい。
 そう思いながらも父がどんな行動――命令をするかわからないので、司令室のやり取りに耳を済ませる。
 勝手につなげていることもあり、少しばかり後ろめたい。
 けれどこうでもしなければ、父は何も言わないだろう。
 そう思いながら、それでももう少しきちんと聞こえないかと通信機をいじっていると、ようやくクリアに聞こえてきた声は―――ー叫び声だった。
 
『撃て!! 今度こそナチュラルを滅ぼすのだ!!』
『お待ちください!! まだジェネシスの射線上にはザフトの艦が――――』
 
 パン!
 
「!!!!!!」
 聞こえてきた声は、どちらもよく知っている声。
 父と、レイ・ユウキ教官の声。
 そして……銃声。
 けれど、それよりも何よりユウキ教官の口にした言葉にショックを受けた。
(うそ……射線上にまだ味方がいるのに撃とうと……している……?)
 そんな馬鹿な、と思っている間に再び銃声が――――
 
『アスラン!!』
 
「……イザーク……?」
『おい、どうした!!』
 たった一言、名前を呼んだだけなのにそんなことを聞いてくるイザークに、どうしてと一瞬思うが、次の瞬間には叫んでいた。
「ち、父が! ジェネシスを……まだ、ザフトの艦が……」
『何だと……?』
『つーか、ええ!!??』
「ディアッカ……?」
 何故、イザークと通信しているはずなのにディアッカの声まで聞こえるんだ?
 ……いや、そんなことよりも――――
『あ、おい!!!』
『何をしている!!』
 どんどん進んでいく時間。
 さっきの叫びと銃声。
 それが導くのは――――そう考えて私はヤキン・ドゥーエの司令室、その宇宙に面した強化ガラスのそこから中を覗き込む、と。
 
「とう……さま?」
 
 そこには低重力下で浮かんでいる父の姿。
『アスラン?』
『キサマ……』
「い、いやーーーーーー!!!!!!」
 私は、聞かれていることも構わずに叫んでいた。

◇◆◇

 それから先のことは正直あまり覚えていない。
 後で聞いた話によると、どこで連絡を取ったのか、ディアッカが三隻同盟の一人から情報をもらい、ヤキン・ドゥーエが自爆すると同時にジェネシスが撃たれることを知ったそうだ。
 けれど、撃たせるわけにはいかない。
 だが、すでに自爆を止めることは出来なかった。
 それでは、どうすればいいのか。
 残るはジェネシスを破壊するしかない。
 そして――――ジェネシスを破壊するだけの威力を持ったもの。それは、私の乗っていたジャスティス以外にはなかった。
 
 なかったからこそ、ディアッカもイザークも、混乱した私から機体を奪い、それをジェネシス内部で自爆させた。
 
 ヤキン・ドゥーエの司令室の前で私から機体を奪い、ディアッカが乗り、私は気を失わされてイザークの乗るデュエルに乗せられた。
 そしてそのまま二機でジェネシス内部へ向かい、ディアッカがジェネシスの自爆スイッチを押し、自爆するまでの間にデュエルへ飛び移りそのまま脱出。
 ヤキン・ドゥーエはジェネシスと共に沈んだと言う。
 
 
 それを私はプラントへ戻る戦艦の中で聞かされた。
 父の死も――――その遺体が既にないことも。
 
「アスラン――――――」
 私が乗せられた艦は、イザークが隊長を務める艦だった。その、独房。
「…………」
 私の名前を呼ぶイザークの声は、明らかに戸惑っていた。
 それはそうだろう。私の姿を見れば、当然だ。
 私は今、なじんだ赤の軍服を着ている。
 別にそれは問題はない。問題なのは意識を失ったままの私が、検査を受けたことだ。
 そこで出た結果を、軍医は隊長であるイザークに知らせないわけにはいかなかったのだ。
 自分の認識と、検査結果の違いに。
 
 ――――私が、女だと言うことに。
 
「もうすぐプラントにつく」
「そう……意外と早かったね」
「…………」
「私は、裁かれるんでしょう?」
「お前は……」
「私の姿はどうあれ、やったことには違いはないし、何より私はパトリック・ザラの子供であることには変わりはない」
「だが――――」
「イザークとディアッカはジェネシスを止めた英雄。これで少しはディアッカのザフト離反も何とかなるんでしょう? 何せラクス・クラインと共闘したんだから」
「…………」
 言葉遣いは、すでに本来のものに戻している。
 今更だった。
「そしてラクス・クラインも英雄としてプラントに凱旋――――ああ、そう言えば“フリーダム”のパイロットも、そうなるのかな。プラントではなく地球に、だろうけど」
 あいつはプラントの市民ではないから……まあ、オーブも微妙なところだけれど……。
「いや……プラントだ。ラクス・クラインの希望で」
 けれどイザークは私の予想を簡単に否定してくる。
「ふん。――――何を考えているんだか」
 ばかばかしいとしか言いようがない。
 それを、プラント政府も認めたのか、とあきれるけれど、そう言えばあいつらが英雄になるためにはプラントの最高評議会がクライン派で占められなければならないことに気付いた。
「評議会は――――――?」
「アイリーン・カナーバ様が臨時の最高評議会議長に就任された」
「…………そう」
 まだ、マシなほうだ。
 他のクライン派がなるよりは、まだマシ――。
 それでも、元から平和な世の中ならまだしも、今の状況ではつらいんじゃないだろうか。
 戦時中と平和の中と、どちらをよりよく治めることが出来るか。明らかにカナーバ様は後者だ。父はきっと前者。
 シーゲル・クラインは……と思い浮かべて、すぐに考えるのをやめた。
 どちらがいいか考える前に、私の脳はシーゲル・クラインが最高評議会議長を務める姿を想像することに拒否反応を示している。
 どうせ既に死んでいる人間のそんな姿を思い浮かべようとしたところで無意味だが。
 
「アス――」
「好きにすればいい」
 私はイザークの言葉をさえぎる。
「好きにしなさいよ。評議会の命令に従って私を突き出せばいい。喜んで受け取ってもらえるよ……最大の戦犯としたいパトリック・ザラは死んだ。次に要求されるのはナンバー・ツーのエザリア・ジュール議員……あなたのお母様よ、イザーク」
「っ……」
「でも……私を突き出せば、その代わりになる」
 
 
 だからさっさと突き出しなさい。そうしたらお母様を助けられる。
 
 そんな私の言葉を聞いたイザークは、苦々しい表情をしたと思ったら私に背を向けて……そして戻って行った。
 
 
 光の満ちた場所へ。

– CONTINUE –

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子