Pride 5
プラントに到着すると、私はすぐに拘束された。
艦を降りる前にイザークが何かを言っていたけれど、私は聞かないようにしていた。
そして艦を降りてすぐ、視界の隅に入ってきた特徴的な戦艦――――エターナル。
その前にはピンクの髪をなびかせた“歌姫”と、オーブの軍服を着た人間――――。
ここはプラントで、ザフトの軍港であるにもかかわらずその姿を堂々とさらしていることに、当然のことながら違和感を覚える。
一体何を考えて――――いや、ザフトを何だと思っているのか。
尋ねてみたい気もしたけれど、そんなことが出来るはずもなく、私はまっすぐにザフト本部の取調室へと連れて行かれた。
そこで待っているのが何か、考えるまでもない。
死へ一歩一歩近づくためのものしか行われない。
そんな、わかりきったことが行われる。
◇◆◇
動揺が走っている。
そう私に言ってきたのは臨時最高評議会議長。
それに対して私は「だからどうしたと言うのです」と返した。
「そんなわかりきったことを私に伝えて、なんになるんですか?」
「アスラン……」
「私が女だから衝撃が大きいと言われても、私にはどうすることも出来ません。性別を変えることなどできないのですから」
「それはそうだが――――しかし、アスランは……」
その言葉と瞳。
それだけで知っているのだと理解した。そう……アイリーン・カナーバ様は知っているのだ。
私の知らないところで“会っていた”としても不思議ではない。
カナーバ様は穏健派。そして、父は急進派。
けれど、どちらも思想を異なるからと言って互いを嫌悪することはない――――ちゃんと意見を戦わせようとする人たちだ。
「ご存知だったんですね、“アスラン・ザラ”が“男”だと言うことに――――」
「…………ア」
「私はカナーバ様がご存知のアスランでは“ありません”」
お分かりでしょう?
ふっと笑みを向ければ、カナーバ様は理解していると言う色を瞳に浮かべている。
どこか悲しそうなその色。
ああ、そこまで気付いているのかと思ってしまう。
ほんの少しだけ、カナーバ様となら悲しみを理解しあえるかもしれないと思った。
ほんの一瞬。瞬きにも足りない一瞬のことだ。
けれど私はそれをしなかった。
それは私の中にある“今更”と言う気持ちが、言いたい気持ちを凌駕した。
それだけだった。
「だから、どうすることも出来ないんですよ」
ザフトを納得させられるものを、“私”は持ち合わせていません。
「私の言葉で話しても、『何故』としか言われないことを理解しています」
だから、どうすることも出来ないんですよ。
そちらが動いてくださらなければ、どうにもならないんです。
そう口にすれば、カナーバ様はため息をついた。
「本当に、パトリックの子供は――――」
と、“私”と“アスラン”を同じように見る。けれど、実際はそうではない。
「私とアスランは似てませんよ。アスランのほうが優秀で、私は何も持っていない。何の力もない」
「…………」
「アカデミーでは、他人の何倍も努力しました。努力を怠れば、すぐにでも追い抜かれていた。――――“アスラン・ザラ”でいるには、そうするしかありませんでした」
「…………本当に、あの子も、あなたみたいに自身のことを本心からそんな風に言えればいいのだけれど」
「はい?」
急に変わった方向へ行こうとする話しに、私は首をかしげる。
そんな私に、カナーバ様は持っていた携帯端末の画面を向ける――――そこに映し出されたのは、今まで着ていた物とは異なる動きやすい服装をした“歌姫”。
「彼女は、あなたのようなことを口にしながら、プラントへ戻っても力を保持し続けている――――決して、返そうとはしない。そして、その状態で“わたくしにはそのような力はありません”と、評議会入りを拒否しながら、いつでも評議会に武力介入出来るように、未だにエターナルで暮らしている」
映像の中でラクス・クラインは『わたくしのような若輩者より、もっとふさわしい方がいらっしゃいます』と、笑顔で評議会入りを拒んでいる。
“若輩者”とは言っているけれど、半年ほど早く生まれたイザーク・ジュールは臨時最高評議会に入っている。
私からすれば、年齢が問題なのではなくて、その思考がふさわしくはないと思う――――ラクス・クラインがどう思っているか知らないが。彼女は確実にイザークほどの広い見識を持ってはいない。
ただ、こうしておけば“歌姫”はなんて慎み深いんだろう、そんなことを市民が思うことを願っているのかもしれない。慎み深さ、大人しさ、姫君、と言うのは彼女のイメージだったから。
『わたくしは現在の評議会を支持しております。わたくしがいる必要はありません。議員の皆様はプラントの、平和のためにがんばっていらっしゃいます。そんな方々の決定を、わたくしは喜んで支持するでしょう』
プラントを一番に思って、自身の力を過小評価している子。
そんな印象を植え付けているとしか思えない。
狡猾だ、そんな印象しか私にはもたらさない“歌姫”の言葉。
『わたくしは平和を願っています。戦に寄らない平和を。そのためには、戦艦に乗ってしまったわたくしより、プラントにとどまられたカナーバ様こそ、議長にふさわしいと思います』
まあ、そう言ったおかげで今のプラントの安定があるのだろうけれど。
ラクス・クラインに言われるまでもなく、カナーバ様は優秀だ。
しっかりとプラントのために働いてくださるだろう。
それを市民はわかっていると思う。ラクス・クラインの言葉がなくてもカナーバ様の政権は支持されている。
そしてこれなら……そう、これなら私が動いても政権が揺らぐことはないだろう。もしかしたらそうではないかもしれないけれど。
そんなことを考えながら、私はカナーバ様に話しを持ちかける。
そうしたら、思っても見なかったことに笑顔で受け入れられた。
いいのだろうかと、そう思うけれど、カナーバ様にはカナーバ様の考えがあるようだった。
それなら、と、取引は成立した。
“最後の戦犯(わたし)”の裁判を行うことに協力することと引き換えに――――私の望む舞台を。
– CONTINUE –