Pride 6

 私が法廷へ一歩足を踏み入れると、四方から視線が向けられる。
 それはほとんどが厳しいものだったけれど、中には悲しいもの、無感情なものも含まれていた。どれも私の感情を動かすものはなかったけれど――――視界の隅に、イザークとディアッカを見つけると、何とも言えないものがこみ上げてきた。
 彼らは無表情だ。思ったとおりのそれに、内心でうれしくなる。
 そう、感情を動かしてはだめだ。彼らは元ザフト・レッドなのだから。
 そして……何故かイザークたちよりも裁判官に近い位置にラクス・クラインが座っている。その後ろにはキラ・ヤマト……何のつもりだろう。自分が裁判官にでもなったつもりなのだろうか。
 確かに私は裁判にラクス・クラインを出席させるようにカナーバ様には頼んだけれど……それは後ろの傍聴席で、と伝えていた。カナーバ様が彼女をあんなところに座らせるはずはないから、彼女自身が望んだのだろう……何を考えているのか。
 まあ、まだ近いといってもイザークたちに比べればの話で、まっすぐ前を向ければ視界の隅に入るかはいらないかの位置だけれど。
 
 そんなことを考えながら歩みを進め、裁判官の前――――証言台の前に立つ。
 
 
 これから、大戦の戦犯のなかで、最後の人間の裁判が始まる。

◇◆◇

 明らかに、彼らは私を処刑したがっていた。
 当然だ。いかに私が“女”でも、“アスラン・ザラ”を名乗っている限り、ザラ派の勢いをそぐことは出来ない。クライン派は地下にもぐって活動するのが得意だったけれど、ザラ派とて負けてはいない。今でもどれだけの人間がいるかわからないのだから。
 力を、反抗する意志をなくすためには“ザラ”の名前が消えればいい。
 そして、“ザラ”の名を――いいや、血を持つのは今ではただ一人……私だけ。
 そんな考えがあっても、これがメディアにリアルタイムで流されている以上、それを表立って口にすることは出来ない。
 たとえ市民がそれを望んでいたとしても……他国にまで流れている裁判では、公平さを失うわけにはいかないのだ。
 そんなことになれば、他国からの介入があるのは明らかだから……。
 だから公平に裁判を進めるしかない。私の証言時間もきっちりとるしかない。
 さらに……何があっても映像を切るわけにはいかないのだ。
 
 そしてこれが私の狙いでもある。
 
 気付いているものはいるだろうか?
 自分の首がだんだんと絞まってきていることに、気付いているものはいるだろうか?
 少なくとも、今ホワイト・シンフォニーで当時民間人であるラクス・クラインの暗殺――あれだけ派手にやっていた暗殺も何もないだろうに――に、手を貸すわけでもなく、だからと言って助けもしなかったザフトの軍人アスラン・ザラのその行動の理由を問うてくるラクス・クラインのシンパの人間は、大切な“歌姫”の首が絞まっていっていることに気付いているだろうか?
 当の本人が気付いていないのだから、わからないだろう。
 笑いがこみ上げてくる。
 もちろん表には出さないけれど。
 それでも――――――ああ、面白い。
 これから地獄に落ちるとも知らないで。
 お前が忘れてしまっていても、私は一瞬でも忘れはしなかったのに。
 ――――どれだけ、お前を殺したいと思っていたか、知ってる?
 
 ねえ、ラクス・クライン?
 
「何故、私と共に来てくださらなかったのですか?」
 答えない私の口を割らそうと、今度はラクス本人が聞いてくる。
 これでようやく答えるだろうと――――プラント市民の愛される歌姫の言葉であれば、答えると……そう、思っているのだろうか?
「そうすれば……あなたが力を貸してくだされば、もっと早く戦争が終わったとは思いませんか? あなたの言葉になら、パトリック・ザラ元議長も聞いてくださったかもしれません」
 知ったような口を利くラクス・クライン。
 何も知らないからそんなことがいえるんだ。
 父が、私の言うことなど聞くはずがない。
 それを知ってか知らずか――――まあ、知らないだろう。そんな表情を浮かべて、ラクス・クラインは歌うように問う。
 その姿を見ていたくなくて、“歌声”を聞きたくなくて、私は目的を達成させる一歩を踏み出す。
 
 
「それを私に聞くのですか? “クライン”である、あなたが」
 
 
「あす……らん? 何を言って――――」
「“あの”シーゲル・クラインの娘であるあなたが、私に、そんなことを要求するの!? 自分の仲間になれと!? 奪ったくせに……私と父から奪っていったくせに!!!」
「アスラン!!??」
 私の叫びに、ラクスはもとより裁判官をはじめとする周囲も目を見張ったまま――――言葉が出てこないようだ。ただ一人、アイリーン・カナーバ様だけが知っていたために平然としている。
 
「知っているのでしょう? “アスラン・ザラ”が既に――――“血のバレンタイン”の時点で死んでいることに……私が“アスラン・ザラ”ではないことに!!!!」
 
「なっ――――」
「どういうことだ!?」
「何を言って!!」
 私の言葉にラクスは絶句し、周囲は騒ぎ出した。
 裁判とは思えないほどの騒々しさ。それを私が引き起こしたことはわかっているから、どうと言うことはないのだけれど。
 けれどさすがに職務を思い出したのか、裁判長が「静粛に」と声を上げる。……これは普通、傍聴している人間にむけて言う言葉ではないはずだけど……。
 それでも何とか再び静かになった室内。けれどラクスは目を見張ったまま……もしかしたら、思い出したのかもしれない。肩がかすかに震えていることがわかる。
「アスラン・ザラ、もう少し冷静に。そして――――あなたの発言の説明を」
 静かに、感情を押し殺した声の裁判長に「わかりました」と返して……けれど、きっと冷静になんていられないだろう。
 
「まず、私が三隻同盟に加わらなかった理由ですが――――――それはラクス・クライン嬢がいたためです」
 
 この言葉が示す意味は、私がラクス・クラインを“嫌っている”と言うこと。
 この室内だけでなく、きっとこの裁判を見ている全員が息をのんだことだろう。驚いたことだろう。
 何せ、ラクス・クラインは“平和の歌姫”であり、“アスラン・ザラ”の婚約者なのだから。
 けれど、私はそれを認めはしない。
 何より私は“アスラン・ザラ”ではない――――
 
「そして……私がそう考えた理由がこれです」
 
 そういって私は手を肩に伸ばす――――そこはアカデミーに入学することが決まった日、最初で最後、父に“生きろ”と言われてつかまれた場所だった。――もしかしたら、父はここに“ある”ことを知っていたのかもしれない。
 そんな、今更考えても仕方がないことを思う。そんなことを考えたって、父に聞くことはもう出来ないのだから……もし、私がこのことを父に言っていれば、もしかしたらラクス・クラインはこんなところにいなかったのかもしれないのに――――。
 そんなことをつらつら考えることで痛みに気をとられないようにする。
 立てた爪は、アカデミーの鍛錬で身に着けた力で肌を破る……血が出ても、関係なく進めた先に目的のものが触れた。
「っ……」
 それでも、長年埋められていたそれはなかなか出てきてはくれない。そんなに深く埋めたつもりはなかったけれど……。
「あ、あす……」
 それでもようやく取り出したそれは、血にまみれていた。そしてそれを見たラクスは顔を真っ青にしている。それは、これの血にまみれた様子にか。それともこれの中にあるもののためか……どちらでもかまわないと私は思う。
 そう、ラクス・クラインの反応など、“あれ”を出したときにその顔がゆがめば私は満足するのだ。
 手にしたそれを、血をぬぐい、薄い膜で保護していたそれを引き剥がし、カナーバ様に用意してもらっていた端末に放り込む。
 さすがは臨時とはいえ最高評議会議長の用意したものだけあり、それは私の望む機能を備えていた。
 そして呼び出す私たちの過去。
 ラクス・クラインの……いいえ、シーゲル・クラインの闇。
 それがこの端末がつながっているモニター……裁判官の背後にある大きなモニターや、この部屋の各所に設置してあるモニター、裁判官たちの手元にあるモニター……それから、各国メディアの一部モニターにも映される。

– CONTINUE –

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子