Pride 8
『失礼します!!』
『おお、ダコスタ。それで、先ほど結果は聞いたがどうだったかね。直接聞かないことにはどうにも安心できなくてね』
『は! ご指示の通り、アスラン・ザラの死亡を確認いたしました!!』
『そ、そうか!! よくやった! これでナチュラルを敵視し、隙あらば争おうとするあやつらの手に入れる情報が減る』
平和的にナチュラルと手と手を取れる世界が一歩近づいた!
『はい!!』
うれしそうな声。誰のものなど言う必要はない。
片方はマーチン・ダコスタだが、もう片方はつい最近……父が最高評議会議長に就任する前まで、テレビでよく流れていた声だ。
――――シーゲル・クライン。
穏健派と呼ばれた彼。その彼が、人が……しかも十四歳の、最高評議会議員の子息の死亡を喜んでいる。
これを聞いたコーディネーターの中で、ショックを受けない人はいるのだろうか?
ああ、でもアスランが“急進派の手足”となって働いていたと取れる言葉を口にしていたから、まだ“平和のため”と容認する人間はいるかもしれない。
そんなこと、ありえないのだけれど。
『お父様』
『おお、ラクス』
『どうかなさったのですか? うれしそうなお声が……お仕事はよろしいんですか?』
『ああ、ようやく時間が出来て戻ってきたところだったんだよ。ところでラクス』
『はい』
『あの計画が成功した』
『まあ! ……では、アスランは』
『ああ、なくなったよ』
『そうですの……でも、仕方がありませんわね』
『そうだな。これでコーディネーターとナチュラルが争わせようなどという馬鹿な計画の可能性を一つ消せたんだから』
『わかっておりますわ。……ところで、そうしますと私はどうすればよろしいのでしょう?』
『うん?』
『私とアスランは婚約していましたから』
『ああ、そのことかい。そうだね、どう思うか尋ねられたら泣いていればいい。そうすれば同情されて、言葉は求められないから』
『わかりましたわ』
その後は、『もう行かなければいけない』とか、そんな言葉ばかりが聞こえてきたために、再生を止める。
そして顔を上げれば青い顔をした裁判官。横目に見える人間全員がそんな顔色だ。
それでも、まだ希望を持とうとしている。
“歌姫”に対する、希望。
けれどそんなものはじめからないのだ。
そんなにすがりつきたいだろう“歌姫”への“希望”は、今、ここで、私が砕いてやる。
「そして、これが“アスラン・ザラ”が調べていたことです。――――ナチュラルを敵視し、市民感情から争わせるための情報ではなく、シーゲル・クラインの行ってきたことを調べていたのです」
同朋(コーディネーター)を傷つける行為。
モニターに映し出されたのはシーゲル・クラインが権力を得るために行ってきたこと。
自身を有利にするための金、情報、人間――――それらを使った暗殺。
少しずつ。
少しずつ減っていくザラ派の政治家。
そして増えていくクライン派。
それは純粋にそう言う意思を持ってのものであることもあるが、そうでないもの……人質をとられている場合もある。
その証拠がモニターにはあふれていた。
「ね、捏造ですわ!! 何故このようなものを!!!」
自身の立場が最悪なほうへ転がっていることにようやく気付いたのだろう。
ラクスはそう叫びながら立ち上がった。けれど、すぐに横から叱責される。
「お静かに! 今は被告人の証言の時間です」
「っ……」
ぴしゃりとしたその言葉に、ラクスが息をのんで「信じられない」と言う表情をするが、裁判長の言った言葉は正しい。今は黙っているしかないんだ。
「捏造、との指摘でしたが、それは違います。これらは本物であり、真実です」
「証拠は?」
「それはこれから調べればよいのではありませんか? 必死になってお調べになるのでしょう?」
「…………」
「映像に関しては、該当監視カメラ特有の信号が含まれています。音声に関しては声紋鑑定を行えばいい。シーゲル・クラインの声紋など、いくらでも……地球のメディアにも存在するでしょう? 他の二人に関しては、今なお生きているのですから簡単です。そして“アスラン・ザラ”の調べた情報は――――戦後、ディセンベルのザラ邸に踏み入ったザフト――――いいえ、クライン派に奪われていれば、あるかどうかわかりませんね。ですが、どこかに証拠はあるのではないですか? 必死になって探せばいい。たとえ“アスラン”が調べていたデータが捏造だとしても、話し合いに持っていかずに“殺す”ことで解決したことには変わりない。――――十四歳の少年の命を奪ったことには変わりない!!!」
私の声が、室内に響く。
誰も、隣に座る人間と顔を見合わせようともしなかった。
全員が私を見ていた。
私の言葉を信じているのか、信じていないのかで言えば、どちらでもないだろう。
信じたくはないが、信じざるを得ないと、そう思っているのではないだろうか。
私の態度とラクス・クライン、それからマーチン・ダコスタの態度から……。
「これが、私がラクス・クラインの側に付かず、助けもしなかった理由です。大切な“アスラン”の仇の味方になど、なれるはずがない」
私の出したものがすべて真実だとして、これでも何故ラクスに付かなかったのかと問う馬鹿はいないだろう。
◇◆◇
「では、あなたと“アスラン・ザラ”との関係は?」
おそらくこの中では一番冷静な裁判長が問う。
「見たまま……双子の兄妹です」
「それでは、あなたの本名は?」
二年前に“死んだ”とされた、少女の名ですよ。
“アスラン・ザラ”だと答えようとした私に、裁判長が先回りをする。よく気付いたと思う。今は性別がどうあれ生きているのは“アスラン・ザラ”なのだ。そう言う考えが、伝わったのだろうか?
「…………アジュール・ゼイレンです」
一度目をつぶり、小さく息を吐いた。
そして久しぶりに……本当に久しぶりに名前を口にした。
「“ザラ”ではないのですか?」
「父の立場は、とても危険ものでした。ブルーコスモスのテロにもあい、生命を落としかけたこともあります。そのため“アスラン”は母と共に身分を隠し月へ留学し、私は“ザラ”家とは関係がない“ゼイレン”家の養子となり、寄宿学校へ入りました」
ですから、私の本名は――二年前にあの爆発に巻き込まれ、死んだ――“アジュール・ゼイレン”なのです。
「偽証は罪になることは理解していますね?」
「はい」
「それでは何故、今までずっと自分は“アスラン・ザラ”だと名乗っていたのです」
「“アジュール・ゼイレン”は二年前に死亡しています。あの場で、生き残ったのは“アスラン・ザラ”です。あの瞬間アスランはアジュールになり、アジュールはアスランになったのです。そう、思って生きてきました。そう思っていなければ生きて来れませんでした」
だから私はあの映像を出すまで“アスラン・ザラ”だったんです。
言い訳にすらならないことはよくわかっていた。けれど、そう言うしかなかった。別に、偽証罪なんて怖くなかった。どの道私は裁かれる。どの道私は処刑される。それなら、今更罪の一つ増えたところで変わらない。そう思った。
けれどそんな感情は口にせず、一気に言った私に裁判長は頷いた。
頷いて、質問者として立っていた、クライン派の男に視線を向ける。
「被告に他に問うことはありますか」
「え、はい……あ、いや…………」
「なければないでかまいません。それでは被告人、何か言いたいことはありますか」
「いいえ、ありません」
「では、本日はこれにて閉廷します」
裁判長の、問答無用の声が響いた。
– CONTINUE –