Pride 10
二回目の裁判は、それから一月も後に行われた。
それだけあの事実が混乱を招いたのだろうけれど……あれから一度も取り調べも何もなかったところを見ると、一度目の裁判で出したあのデータだけでどうにかなったのだろう。
手に入れた経緯とか、どうして“アスラン・ザラ”があんなことをしていたのかとか、いろいろ聞かれると思っていたのにそれすらなくて拍子抜けした。
けれど、必要がないのならそれでもかまわない。あいつらが裁かれれば、それでよかった。
そう、裁かれるのだ。
私は再び独房に入れられていたけれど、それでも第一回法廷の前よりも待遇はよかった。
頼めば本や、新聞は持ってきてくれた。
それは誰の指示かは知らないけれど……多分、カナーバ様かと思う。
イザークたちにはまだ無理だと思うし。
それなら今そんなことが出来るのは彼女しかいない。
そう考え、心の中で感謝の言葉を浮かべて、戦後の情報収集に励んでいた。
とは言え、新聞だけではすべてを正確に把握するのは難しい。大体において私はさまざまなメディアから――時にはザフトでしかわからないところから情報を仕入れ、それを総合的に判断していたから、少し物足りなかった。
それでも被告人としては良すぎる状況に、文句を言うことはなかったけれど。
そしてそこで私はラクス・クライン、マーチン・ダコスタ、および犯罪に手を染めていたクライン派の人間が逮捕、裁判にかけられることを知った。
キラ・ヤマトに関しては国籍がオーブにあり、プラントに住んだこともなかったため、オーブに引き渡された。
本当ならプラントでどうにかしたかったのだろうけれど、裁判にかけるといっても“軍人”としてしたことだったため、プラントがどうにかできるものではなかった。“フリーダム”は“プラント市民”であるラクス・クラインが首謀者だから、まずそのことに関してはラクスをどうにかしなければならなかったし。
その代わりオーブ――今は地球連合に支配されている――に強制的に戻された。“フリーダム”はプラントに――エターナル内に置いたまま。
この後キラ・ヤマトがどうなるかはわからない。興味もはっきり言ってない。まともなことにならないことは、わかりきっていたけれど。
そんな風に世の中が動いていく。
そして今日、私の二回目の裁判が始まる。
ただ、裁判が始まる前の手続きである程度のことは認めていたため、そう時間はかからないと思う。
私が黙秘を通したのは“ホワイト・シンフォニー”でのラクス・クライン暗殺未遂に関してだけ。
あれだけがあれば、“アスラン”のことを追求できることはわかっていたから。
だから一番知りたいであろうことを教える代わりにすべてをぶちまけた。
私はそれで満足だった。
目的さえ達すれば、自分がどうなってもかまわなかった。
だからきっと、今日判決が下るだろう。
それでいい。
私が残っていたって、いいことなんてないから。
◇◆◇
そう思いながら足を踏み入れた法廷には、前回と同じ裁判長。その他の裁判官は数人が入れ替わっているところを見ると、代えられたメンバーはクライン派だったんだろう。
そして傍聴している人間の中に、狂信的なクライン派は少なかった。それはそうだろう、ラクス・クラインが逮捕され、犯罪に関わっていたものたちも根こそぎ捕らえられたと新聞には書いてあった。
もしかしたらまだ別にクライン派にとってはまずいことがあって、その証拠を私が握っていると思っているのかもしれない。それが暴露される前に逃げたのかもしれない。
だから今日、私の裁判を見るのはプラント、地球の両メディアと、クライン派の犯罪とかかわりのない政治家等なのだろう。
そんなことをつらつら考えながら証言台の前に立つと、裁判を始める旨を裁判長が言った後に、名前聞かれ、そして偽証しないことを誓うように言われた。
「私の名前はアジュール・ゼイレンです」
今日は、本当の名前を言う。
それはこの一ヶ月の間に、DNA鑑定が行われ、私がアジュール・ゼイレンであり、アスラン・ザラでないことが証明され、さらに残っていたアスランの頭部から、アスラン・ザラが死亡していることが法律的に認められたからだ。そして同時に私のIDも復活された。
だから、今の私は法律的にもアジュール・ゼイレンである。
答え、宣誓した私に満足そうに裁判長は頷いた。
その後、質問されたことは前回の確認だった。
今日はラクス・クラインはいなかったから、冷静に話すことができたと思う。
さすがにあの状況では冷静ではいられなかったのだ。
「では、あのデータはどうやって手に入れたのですか?」
この一ヶ月の間で取り調べで聞かれるかと思っていたことをここで尋ねられた。
まあ、説明する気ではあったから、戸惑うことはない。
「監視カメラの映像は、あの爆発の調査で使われたものを、父が手を回して回収したそうです」
それは、いいことなのか悪いことなのかわからない。
けれど、今回は説明に使うためだから、許容範囲だと思う。
そのまま、何も言われないから続けた。
「音声については、何時、何があるかはわからないので常に長距離通信が可能な小型マイクを常時持っていました。それを爆発の中そばに来た人間のブーツに取り付け、音声が自動でアスランの部屋にある端末に記録されていました。資料は同じくアスランの端末に入っていました。――――それを、私がすべて回収し……映像は父から持っているように言われました。そしてメモリーに入れ、肩のところに埋め込んだんです」
「わかりました」
そう言って、周りの裁判官に確認し、一時休廷を決めた。
昼を含めて四時間後、再開した時には判決だと言われた。
(ああ、もう決めていたんだ)
そう思った。
今日は最終確認で、前回との相違がなければすぐにでも判決を出すと事前に決められていたのだろう。そもそもが最後の戦犯なのだから、早く決めてしまいたいはずだ。
そうすれば連合との関係も、少しはマシになるはず……。
ならなくても連合にプラントを脅せるほどの戦力はない。
“ジャスティス”は既にないけれど、“フリーダム”はこちらにある。あれはかなり特殊な機体だけれど、“ジャスティス”を扱えたディアッカほどの力があれば動かせる……つまり、イザークにも動かせると言うことが言える。
今のザフトには、プラントには十分な戦力だ。
そんなことをつらつらと考えて……これ以上考えることもなくなって私は改めて裁判長を見る。
裁判の間中、一貫して――“あの時”の映像や音声、資料や私が暴露している間は何かをこらえるような、そんな表情をしていたけれど、それでも一貫して彼は平等だった。
……いや、どちらかと言うと、私のほうが彼には印象が良かったのだろうか。そんな風に感じてしまうほど良くしてくれたように感じる。ラクス・クラインにはぴしゃりと注意していたけれど、私に対しては言いたいことを言わせてくれた。
まあ、私の裁判であってラクス・クラインの裁判ではなかったからかもしれないけれど。
そう言えば、こんな異例中の異例の裁判、よく認めたと思う。
プラント国内だけではなく、他国のメディアも入れて、しかも生放送。傍聴者も多くて……これが、戦後の軍人の裁判か? とも思ったんじゃないだろうか。
私が望んだこととは言え……本当に驚いてしまう。
心が広いのか、それとも気にしていないだけか。他にも理由があるのか。
何故今不思議に思っているんだろうということを考えながら、私は裁判長が口を開くのを待った。
「被告人、アジュール・ゼイレンに対し、判決を言い渡す」
「はい」
ついに来た、と思った。
これで終わるんだと思った。
別に後悔も未練もない。
私には何も残っていないのだから、未練なんてあるはずがなかった。
ただ、これで両親やアスランの元へ行けるんだと思った。――――それとも、これだけ手を血で染めた私には、無理なのだろうか? それは嫌だな、と考えている私に向かって、裁判長の声が落ちてきた。
「被告人、アジュール・ゼイレンを――――」
– CONTINUE –