key of the twilight
会いたがっている人がいる。
戦後、『自宅軟禁』の刑に服していた私に、“自宅”を提供してくださっているルイーズ・ライトナー様が困ったような表情で、仕事から帰ってきてすぐにおっしゃった。
「はい?」
「だからね、デュランダル最高評議会議長が貴女に会いたいと言っているの。貴女は軟禁中だけれど、国……最高評議会議長の承認があれば短時間の外部との接触及び外出は認められているから、その点は問題が無いし――――」
どうかしら、アジュール。
そう尋ねるルイーズ様も、先の大戦後は戦犯として裁かれた。
ただ、他のザラ派議員と違ったのは、その後いくらもしないうちに最高評議会議員として復帰出来たこと。
単に、ユニウス市代表であり、彼女以上の能力を持ち、彼女に取って代わろうとする人間がユニウス市にはおらず、さらに彼女は戦前、戦中、戦後を通してユニウス市民からの信頼が揺らぐことがなかったためだ。
「どうかしらと言われましても……」
そして私の母レノア・ザラの親友であり、血のバレンタイン以前は穏健派だったルイーズ様に私は預けられた。
…………母は、中立派だったと言うのもあるし、何より――――
「最高評議会議長の希望だから、議会のほうは大丈夫よ。ただ――――」
「クライン派が、問題」
「そう」
私からすれば、そもそも戦犯に――しかもまだ刑を終えていない戦犯に現議長が会いたいと考えることは問題だと思うが、ルイーズ様がおっしゃったような抜け道があるからその部分で公的には問題ほぼない。問題は他にあって、それをルイーズ様も心配しているようだ。
「確かに、デュランダル議長はクライン派でしたし、一応」
その名前も今はないに等しい。
何故なら戦後、ラクス・クラインが捕らえられたからだ。
原因は私。
私がぶちまけたシーゲル・クラインの行動が市民からシーゲル・クラインおよびラクス・クラインへの信仰をなくさせた。ついでに多くのクライン派の人間が犯罪を犯しており、逮捕された。
それでもなお、クライン派を名乗るものはいる。
ほとんどがただクラインを信じていただけで、犯罪に関わるような立場ではなかった人間ばかりだけれど。
確か、デュランダル議長は“穏健派”だと聞いた。プラントではクライン派イコール穏健派、ということになっている。私が現議長を“一応”クライン派と評した理由はそこだ。
(穏健な人間があんなことするわけないし)
というのが主な理由で、一応をつける。
「でも、だいぶ落ち着いて来たとは思いますし、何より議長には護衛が付くでしょうから……」
「その中に紛れ込まれでもしたらどうするの」
真剣な表情でルイーズ様はおっしゃる。
それに対して私はああ、そこが気になるのか……と、暢気なものだ。
「それはそうですが。しかし、そんなことをすれば大人しく刑に服している人間を暗殺した、と言うことになります。――――幸いにも私には気にかけてくれる元同僚もいますし……彼らならそんなことを暗殺者が隠蔽しようとしても、探り出して公表しますよ」
何せ元ザフトレッドですから。
「それに、ルイーズ様も黙ってはいらっしゃらないでしょう?」
ありがたいことだと思う。
母が血のバレンタインで命を失って、そのために急進派に転向したルイーズ様。
私は会った記憶がない。そもそも、“私”の存在が知られていなかった時点で、ルイーズ様にも隠していた可能性がある。
だから私とルイーズ様の間には母がいるだけ。
それだけで私の軟禁場所を提供してくださっている。そしてわかったのは、その優しさ。
私の言った言葉通りのことをなさると予想できるくらいには、知ることが出来た。
そう言う思いで言えば、ルイーズ様は当然だと頷いた。
◇◆◇
「はじめまして、会ってくれてうれしいよ」
そう言って差し出された手を私は握った。
「お会いできて光栄です」
そういった私に向ける笑みは……意味深なものだったけれど。
「何故、私に会いたいと思われたのですか?」
取り留めのない会話の後、護衛を二人だけ残して他は退出させた議長。
“護衛二人”はザフトに復帰したイザークとディアッカだ。――――ここで、私が遠慮する理由はなくなっていた。そして議長もそれを望んでいるようで、コーヒーの入ったカップを口元に持っていきながら笑みを浮かべる。
この笑みで更に“喰えない”人間であることが私の中で決定事項となった。
「特に理由はないのだよ。ただ、君に会ってみたかっただけで」
アジュール・ゼイレンに。
そう言った議長の目には“アスラン・ザラ”も“パトリック・ザラ”もいなかった。
ただ私だけだった。
「戦犯に会いたいなんて……現議長が思っていいことではないと思いますが?」
「そうかな?」
「ええ――――」
私の言葉に議長は面白そうに首を傾げたけれど、その後ろのイザークとディアッカの表情は――怒りを含んでいた。
それは議長に対してではなく、私に対してだけど……事実だからこれ以外に表現の仕様がない。
「けれど、私はそうは思わない。君はプラントを守るために戦場に身を置いたに過ぎない。――そこに、どんな思いがあろうとも、“プラントを守る”という思いは純粋なものだったはずだ」
それに、と後ろの二人を示してから続ける。
「彼らもまた、戦犯として裁かれた。けれど今は再びザフトでプラントを守ってくれている」
「私と彼らではその意味が違います」
けれど私はそれを否定する。
だって、ありえないじゃない。
「彼らは本当にプラントを救った。――“英雄”等といったら怒ると思いますが、それでも“英雄”です。対して私はただ当時の議長の言葉に従っていて“何もしていない”のです」
イザークもディアッカも、私が自宅軟禁に入った後――正確にはユニウス条約締結後に臨時最高評議会が解散して、二人がザフトに復帰した後に裁判を受けている。イザークは民間人殺し。ディアッカはザフト離反で。
何故その時期にそんなことになったのか疑問に思うけれど、罪状は確かに裁判を受けなければいけないことだったし、その罪はとても重いものだ。
けれど、デュランダル議長の取り成しで、銃殺刑は免れた。刑そのものも受けずに済んだけれど、それは二人の“功績”によるものだと思っている。これが私であれば、どんなに議長が尽力してくださっても銃殺刑は免れなかったはずだ。
だからこそ、“私”に会おうなどと思ってはいけないのだ。少なくとも――完璧に刑期が終わるまでは。
「議長のおっしゃるとおり、プラントを守りたいという思いに偽りはありません。――――私は守りたかった。一番大切な人たちを守れなかったから。だから他の大切な人たちを守りたかった。だからザフトに志願しました」
けれど、それでも。
「したことは、罪に値することです。ザフトの軍規に照らし合わせれば」
そして許されるほどのこともしていない。
「許されることではないでしょう?」
「それでも君の“罪”は二つだけだ」
「ですが、」
「君が気にしているのは“罪”ではない気がするのだけれどね」
私の言葉をさえぎって、議長はかすかに笑みを浮かべて言う。
「ライトナー議員に頼んだ時も気になったのだが、君には議員と同じ考えを持っているのではないかと考えるのだけれどね」
そう言って議長が口にした言葉は――――
「君は、“クライン派”を気にしているのではないかね? かの人物の罪を公表した君を恨んでいる人間は“クライン派”には多いだろうと、そんなことを考えているのではないかね。
そして、命を狙われるという可能性を考えている。
ライトナー議員は君自身を心配しているように感じたが、君は違う。君は君の周囲にいる人間が心配なんじゃないか、と、そう思うのだけれど」
違うかね?
そう尋ねる議長に対し、私は息を飲むことでその考えを知られてしまう。
図星だと、教えてしまう。
私の視線の先には微笑む議長と呆れた表情のイザークとディアッカ。
ああ、どうしよう。
そんなことを考えている私に議長は言った。
一切雰囲気を変えずに、胡散臭い笑みを浮かべ――――それでも何故だか大丈夫だという表情で。
「そんなことは気にする必要はない。君の周囲は守られているし、それに付随してライトナー議員を初めとする今の君に近い人物、接する人間も守られる」
君は犯罪者であると同時に我々が守らなければならない市民なのだよ。
そう言った議長と、後ろに控えていたイザークたちは、私を元ザフトの軍人とも、戦犯とも見ておらず……ただ、“プラント市民”として見ている事がわかった。
その表情は、議長として、ザフトの軍人として、とても相応しいもののように私には見えた。
後で聞いた話によると、私の“自宅軟禁”場所であるライトナー別邸は常時“優秀な”、“イザーク・ジュールとディアッカ・エルスマンが認めた”ザフトの軍人が守っていると言う。
ルイーズ様曰く、「ここがプラントで一番安全な場所よ」とのこと。
……ルイーズ様が心配したのは私と議長が会うことでクライン派を刺激するのではないか、と言うことではなく、私を“自宅”から出すことによって私を守るにあたり“隙”が出来るのではないか、とか、そんなことだったらしい。
それを聞いた私が……自分と周囲の考えの違いに肩を落としたのは当然だと思う。
– END –
タイトル:「key of the twilight」/FictionJunction