orae luminis

「アカデミーのお前の成績、“アジュール・ゼイレン”の名前に修正された」
「は?」
 
 恩赦により刑期が短縮され、寄宿学校時代の親友たちにも会った。けれど私はどこかで職を得ることができるほど無名ではなかったし、受け入れ側もなかった。だからと言うわけではないけれど、周囲の――特にライトナー家の人々の勧めでそのままアプリリウスのライトナー家別邸に居候している。
 仕事はしていないからおんぶにだっこ状態なんだけど、一応母とアスランの遺産と自分の預貯金――父の遺産は戦後政府に没収された――があるから何とか……。
 そんな日々の中、休暇だと言ってイザークが訪ねてきた。ちなみにディアッカは留守番――と言うより、仕事だそうだ。
 そしてコーヒーを出して一息ついた後、口を開いたイザークの言葉がそれ……
 
「今更だがな」
「…………話が見えないんだけど」
 前置きなく言われてはわからない。
 そう言えば、イザークは表情をそのままにカップをソーサーに置いた。
「アカデミーのお前の成績……アカデミー歴代一位の成績保持者の名前は今までずっと“アスラン・ザラ”だった。――――それがつい最近、ようやくお前の名前“アジュール・ゼイレン”に修正された」
 ああ、とイザークの言葉にうなづいた。
「そういえば今までアスランだったね……でも、それが何? 別に関係ないでしょう?」
 今更。
 何故それを今更変更したのか。今の私には関係ないことだし、それはアカデミーでも軍でも同じことだ。
 そしてそれがわかっているはずのイザークがわざわざ伝えてきた理由もわからない。
 けれど、
「本当にわからないか?」
 イザークの無表情に眉をしかめる。
 表情からは何もわからない――――いや、“歓迎しないこと”であるのはわかる。
 思い返せば最近、議会から帰ってくるルイーズ様の表情が厳しいものであった。疲れて、困って、そして悩んでいるようでもあった。そして私と顔を合わせれば、そんなことなかったような振る舞いをしていた。
 心配をかけないためだと言われればそれまでだが、何か感じるところはあった。
 そして今のイザークの言葉。
 何もない可能性など……ない。
 
「政府と軍は、お前のアカデミー歴代一位と言う事実を前面に押し出してくるぞ。――――お前をザフトに戻すために」
 
「無茶よ」
 できるわけがない。
「どんな工作をしようとも、私が犯罪者であることには変わりがない」
「“元”犯罪者、だ」
「元が付こうと付くまいと、その事実が変わることはないでしょう!」
 何を考えているのよ!
 けれど私の叫びにもイザークの表情は相変わらずの無表情。
 そのことが、どうすることもできないところまで来ていることを物語っていた。
「…………」
「たとえどんな事実があれ、お前ほどの能力を持つものを放っておくことはできないということだ――――お前がプラントのために動くことは、すでに知られている」
「…………“あれ”は、プラントのためになったと言い切れるの?」
 あえて“あれ”と言う。それだけで……私がそういうだけで周りには通じるからそうするのだ。
 
 欲しかった答えは“No”。
 
「なっただろう」
 
 返ってきた答えは“Yes”。
 
 ありえない、と言う言葉はイザークに視線で止められた。
「ラクス・クラインら、クライン派の行ってきたことすべてが明るみに出た。それは知らなければよかったと言えるレベルではない、立派な犯罪だ。そしてお前はそれを知らせるきっかけを作ったに過ぎない。お前が出した“アスラン・ザラ暗殺”のことはもしかしたら知らなければよかったと思う市民がいたかもしれないが、その後に出てきたもので消された」
 ひと一人の命が軽視されているわけではない。ただ、みな暗殺にある意味慣れていた。あんな時代だから仕方がないと言えばそれまでだが、どこかの国の施政者ほどの重要な地位ではなかったアスランだ。そう思ってしまうものがいても文句は言えない。
 けれど薄情だ、調子がいいと言われても、ザフトのものにまで手を出してしまってはザフトが、そして被害にあった軍人の遺族が黙ってはいない。
 アスランの遺族はあの時点でアジュールだけだが、軍人の遺族は大勢いた。
 まして、ストライクやフリーダムによって殺された軍人の遺族の怨嗟の声はすさまじかった。
 
「お前は英雄だ。戦後のな。それを政府や軍が見逃すはずがないだろう?」
 
 調子のいいことに。
 そう口には出さなかったけれど、イザークの表情がそういっていた。
 
 
 どうすることもできない、ただ諾々とそれを受け入れるしかないだろうとはイザークとディアッカの意見だ。
「いくら隊長になったとはいえ、俺にもできないことはある」
「…………」
 当然と言えば当然。いくら大戦の英雄といえども、と言うところだ。
「それに、現在の議長がな……」
 経験豊富な狸には勝てなかったということだ。
「今のままじゃ、ずっと勝てそうもないけど」
「お前もな」
 何せルイーズ様も言いくるめられたのだから。
 そのあたりのことはイザークのほうが詳しいだろう。ザフトにいるとはいえ、“外”とのつながりはイザークのほうが当然ながら強い。
 そのイザークが言うのだ、そしてルイーズ様の態度。
 
 
 どう考えても、私の行く末は決まったようなものだ。

– END –

タイトル訳:生者の世
お題配布元:戯曲

2018年12月16日

Posted by 五嶋藤子