Chapter 1-1
「瀬良(せら)先生」
「はい」
呼ばれて振り返ると、教頭が封筒を差し出していた。
「1年1組の名簿です」
「分かりました」
昔から……クラス担任をしていた頃から無駄口を叩かなかった教頭は、今も用件のみを言うと自分の席へと戻っていった。
それを横目で見ながら、受け取った名簿を早速取り出す。名簿のほかにも入試の成績や中学の調査書などが入っていたが、それは無視した。クラスの大半が中等部からの内部入学組で、問題児であれば噂は聞こえてくるし、そもそも俺の様なまだまだ若手に分類される教師のクラスに振り分けられることはない。他の中学からの外部入学組はクラスにいて数人。しかも青学高等部の入試レベルは高いから、そういう問題児が入学できるところではない。
そんなことを考えつつ、ざっと名簿を眺めていると半ばほどで見知った名前が目に飛び込んできた。
(うわっ……)
しかも出席番号が並んでいたので驚いてしまう。幸い、声を上げることはなかったが。
(まあ……ありえないわけじゃないけど……それでもなあ)
そもそも片方は外部入学組。中等部から可能性があったのならともかく、高等部でいきなり、しかも10クラス以上あるのにいきなり同じクラス。
(なんでまた)
そう思ったが、ふと思うところがあって入試の成績を引っ張り出してみれば、そこに答えが載っていた。
(ああ……入試で一番だったからか)
外部入学組が1組へ入る確率は低い。外部入学者は成績を考慮に入れた上でクラス分けがされる。1組へは入試で40番以内に入らなければ難しい。そもそも内部入学と外部入学では、内部入学のほうが有利だ。中等部と高等部で教師の移動はあるし、高等部入試でどんなところが大切なのか、どんな問題が出やすいのか予想が立てやすい。高等部入学可能レベルでなくても中等部の人間が高等部へ進めないということはない。けれど、あまりにレベルが低いと、それはそれで印象が悪い。主にその生徒を教えた教師が。そのために教師は必死になる。そして生徒は入試でいい成績を取る。すると、そんなことを経験できなかった外部入学組の入試成績は低くなりがちだ。
けれど今回はそれが覆されたようだ。
中等部の教師は悔しいだろう。
中等部トップ、全体では2番で入学して来る生徒は最近青学で最も注目を浴びている生徒だ。
(去年の中等部の生徒会長、男子テニス部部長。しかもそのテニス部は全国大会団体戦優勝だ)
まったくもって完璧だ。
自分の中学時代と比べて嫌になる。文武どちらも出来ていなかったわけではないが。
そんな男を抑えた外部入学者は女生徒。
大方の――内部入学者の予想を裏切って、入学式の新入生代表は彼女になった。
(さて、どんな反応があるか)
入試成績1位の生徒が代表になるのは大半の者が知っている。
過去にはこれが誰になるかでいざこざがあったと聞く。しかも内部入学者ではなく外部入学者が代表になると、中等部でトップクラスの成績を収めていた生徒達はその生徒を嫌ったとか、いじめの対象にしたとか――――。
(今回ばかりはありえないだろうけどな)
前後に並んだ名前を見ながら、俺は内心で笑う。
(――――何せこの二人は幼馴染同士だ)
– CONTINUE –