Chapter 1-2
『新入生代表、1年1組遠山香奈子(とうやま かなこ)』
代表者の名前が読み上げられた時、体育館中がざわついた。
もちろん俺もびっくりして上がりそうになる声を抑えたひとりだ。
絶対に手塚が呼ばれるんだと思って、ここくらいちゃんと聞こうと思っていたのに、出てきたのは黒い髪をボブカットにした女の子だった。チラッと見えた横顔はまっすぐに正面を見ていた。
(可愛い、とは思うけど……)
ちょっときついかもしれない。性格が。
第一印象はそれだった。
だってさ、たくさんの視線がわかっているはずなのにちっとも緊張しているようには見えないし、その目がキッと前を見ていたから。普段はそれだけで、そんな風には思ったりしないんだけどなあ……何故かあの子にはそんな印象を持ってしまった。
人を見かけで判断しちゃいけないのになあ。
そうして始まった代表の挨拶は、完璧だった。
いやー、あんなのは今まで中学の卒業式でしか聞いたことがないよ。
それ位すごかった。
とちることもなく、けれど視線を手にした紙に一度も落とすことなく言い切っていた。
その堂々とした態度は称賛に値するね。
まさかここで手塚の様なことが出来る女の子がいるとは思わなかった。
きっとみんなこれから先の式なんて覚えてないだろうし、教室に戻ったら真っ先に話すネタだろうな。
(それにしても……あの子、外部入学組だよね)
まったくいないわけじゃないけど、どうしても内部進学で入ったほうが青学内では有名になる。
それにこだわることはないけど、でもどうしても外部入学組は上に内部入学組がいる。
勉強とか、部活とか。
どうしてだろうなと、俺なんかは思っちゃうんだけど。
大石に聞けば答えてくれるかな?
……でも、大石とクラス違うんだよね。
って言うか、誰とも一緒にならなかったし。一番近くて隣のクラスに手塚だし……そう言えば、新入生代表の子も手塚と同じだ。それから乾が4組で、大石に不二、タカさんが8組。
うーっと考えなくても手塚には聞き辛い。
それならたまたま会うか、部活のときか……。
(ま、どうせすぐ入部するからいいか)
タカさん以外はみんな入部するはずだ。
だからまあ、そのときにでも聞けばいいか。
そんな風に納得したときにはもう新入生代表の挨拶は終わっていて、新入生全員が立つように指示されて、あわてて俺は立ち上がった。
教室に戻ったら、案の定クラスメイトの話題は新入生代表の挨拶をした子のことだった。
……って言っても、俺も同じようにその話題に乗っているんだけど。
教室を見渡すと、外部入学組はいないみたいだ。
中等部にいた全員を知っているわけじゃないけど、ある程度のことは分かる。
だってさ、みんな誰かしらと親しく話してるから。
ほとんど知ってる人がいない外部入学組は、いくら人懐っこくても俺の目に映る親しさを出すのは無理だと思う。
ま、もしいても話しかけるだけだけどさ。
– CONTINUE –