Chapter 1-4

「あれは……」
「どうしたの? 不二」
 ふと窓の外に目を向けた僕は、視線の先にある光景に無意識のうちに声を上げていた。
 それに不思議そうに声をかけてくるのはタカさん。
 大石も帰らないのかと声をかけてくる。
「あれは手塚と……だれ?」
「手塚が女の子と帰るなんて珍しいな」
 珍しいと言うより、あるとは思わなかったことだよと言えば、二人は笑う。
「確かにね」
 だからと言ってこの状況は歓迎すべきことだと思う。
 あの二人がどういう関係かは知らないけれど。
 テニスと勉強しか興味のないような中学時代のように、高等部に入ってもそれが続くのかと思っていた。
 けれど少しは別のことに目を向けてもいいと思う。
 別に恋でなくとも、一緒に帰る女の子がいてもいいと思う。
「けど、あの子は誰かな?」
 タカさんと同じ疑問を口にする大石に、僕は首を傾げるしかない。
「さあ……誰だろうね」
 この距離では顔が見えない。だから誰かなんて特定することは出来ない。
「乾なら分かるかもしれないけど」
 手塚と比べると低いとしか分からない身長。
 髪は肩上でそろえられるということが分かるくらいだ。
 それだけしか分からなければ、中等部にいた子達と比べることは出来ない。
 そもそも内部進学組ではないかもしれない。
「外部入学の子達とすぐに仲良くなれるとは思わないけどね」
 手塚の性格を考えると。
 タカさんの言葉に僕と大石は頷いた。
 中等部のころもクラス内で打ち解けるには時間のかかった男だ。
 高校生になったからすぐに出来るものでもない。
「それに手塚のクラスの外部入学組は――――――」
 そこまで言って、大石は口を閉じた。
 そう言えば、と言うところだ。
「そう言えば、手塚のクラスにいたね、一人」
「……しかも新入生代表」
「あ、そう言えば、あの子もあれくらいの髪の長さだったね」
 すでに二人は見えなくなっている。
 けれど思い起こすことは簡単だ。
 ――――さっきまで見ていたんだから。
「身長も、あれくらいだったと思うよ」
 そう言えば、大石は肩をすくめた。
「ま、決定じゃないけどね。まだ似てるってだけだから」
「そうだね」
「……何はともあれよかったんじゃない? もし女の子たちに見られてたら後が大変そうだけど」
「確かに」
 三人で笑いながら窓辺を離れる。
 もうそこにいる理由もないし、今日は入学式以外は何もない。
 部活に顔を出そうと思えば出来たけれど、手塚が行かないのであれば、あまり必要もないだろう。
 何せ手塚のクラス担任は男子テニス部の監督だし。
「帰ろうか」
「そうだね」
 タカさんはテニス部に入らない。
 それならめったに一緒に帰ることは出来なくなる。
 幸い、同じクラスにはなれたけど……それだけだ。
 一緒にテニスが出来るわけじゃない。
 
(ま、それは機会を見つけよう)
 
 絶対にないわけじゃないと思いながら教室を出ると、二組の英二と四組の乾がいた。
「やっほー」
 手を振りながら走ってくる英二に、僕達は首をかしげる。
「どうしたんだい? 二人そろって」
「一緒に途中で寄り道しようと思って」
 誘いに来たんだ。
 そう言った英二の表情はうれしそうだ。
 どうしてそんな表情なんだろうと思っていると、
「手塚は既に帰ったみたいでね」
 英二が一組へ行った時には、すでに誰もいなかったそうだ。
「せっかく時間があるのに~」
 どうも英二の考えていることは僕と同じかもしれない。
 手塚が女の子と一緒に帰ったことを言うべきか迷ったけれど、大石たちを見れば二人とも悩む様子を見せる。
「それじゃあ、その時間を無駄にしないように行こうか」
 とりあえず、今は言わなくてもいいだろう。
 廊下にはまだクラスメイトや隣のクラスの子もいる。
 ここで口にすれば、すぐに話は伝わってしまう。
 乾はそんな僕たちの様子に感じるものがあったようだけど、今は口を閉じてくれている。
 後で聞かれるだろうけど……まあそのときは答えてもいいだろう。
 
 
 とりあえず、おなかもすいたことだし、と何を食べるか相談しながら僕達は学校を後にした。

– CONTINUE –

2020年10月25日

Posted by 五嶋藤子