Chapter 2-2
「開けるぞー」
言うと同時に扉を開ければ、「ノックをしなさいよ」と見慣れた顔が文句を言ってきた。
「それに、開けてる時に断られてもねえ」
「いいじゃねえか、仕事持ってきてやったんだから」
「…………とうとう起こったのね」
視線の先には俺に抱えられた遠山加奈子の姿。
「話が早くて助かるよ」
「ここ、座らせて」
保険医――――夏見まどかの一番近くにあったベッドに香奈子を座らせると、夏見はその左足に手を伸ばした。見ただけでどこにけがをしているのかが分かるのはさすがだ。
「っつ……!!」
「捻挫ね。まあ、軽いほうだけど……とりあえず、治るまで体重をかけないようにね」
「……無理です」
「だめよ。早く治したいんなら言うこと聞いてね。テーピングして、冷やしておくから……午後の授業は欠席。部活もよ」
最後のほうは俺に向けられていた。
「わかってるさ」
「それならいいけどね。―――まあ、これだけで済んだのはよかったわね。もっとひどければどうなっていたことか」
「まあ、なあ……」
夏見の言うことはもっともで、男子テニス部とそれに関わる状況を正確に把握している教師は皆危惧していた……生徒たちを信用してはいても、どこか信じられない部分もあった。
今回はその信じられなかった部分が、実際に起こってしまったのだ。
その結果が、香奈子の軽度とは言え捻挫――――怪我をしてしまった。いや、怪我をしなければいいというわけではない。
そして、この原因を隠すことはできない。
男子テニス部のマネージャーとして注目されていた香奈子の怪我。ついうっかり、と言う言い訳は目撃した手塚と乾がいるために……そして何より、自分もそれに気付いた時点で、不可。
荒れるだろう、と言うのが俺の予想だ。――きっと、夏見も同じ考えだろう。
「問題は、誰がしたかってことだ」
「――――実行した生徒が見つかったとしても、同じ思いを抱いている生徒はほかにもいるんじゃない?」
最悪、もっと巧妙になるだけよ。
「そうなったらもう、どうしようもない」
「わかってるさ……だから悩んでるんじゃないか」
手を動かしている夏見を見ながら、頭を抱えたくなった。
ああ、本当にどうしてこんなことをしたんだ。
「これは、私が勝手に階段から落ちただけです」
そんな中、ぽつりと香奈子が口を開いた。
「まだそんなことを……」
「私が、勝手に階段を踏み外しただけです。それ以外に原因はありません」
「――――――こっちも、予想はついたけどね」
何を言ってもそれ以外言いそうにない香奈子に、別の意味で頭を抱える。
ああ、そうだよ。昔からこんな奴だよ。ついでに言えば国光もな!!
その、香奈子と国光と言う幼馴染み二人組は、いわゆる頑固者だ。
こういうところに関しては、二人とも同じ反応を見せる。
過去の国光のこともそうだった。
だからこそ、俺はこの件をうやむやにはしたくないんだ――――。
「私が、注意力が散漫になっていて、足を踏み外したんです」
俺の考えをよくわかっているはずだが、それでも香奈子は自分の意思を曲げなかった。
そして俺もまた、そのことをよくわかっている。
– CONTINUE –