Still 2

 結局、二人の言った通り大石が手伝う機会は訪れず、合同合宿当日になった。
 学校からかなり離れた合宿所までバスでの移動だ。
 最初のうちは騒いでいた者も、朝の早い時間の集合だったためそのうち船を漕ぎだす。
 
 
「あっという間ね」
 もしかしたら騒いで女子に迷惑をかけるのでは、と心配していた大石の隣りに座っている辰巳由里菜が言う。
 それに頷きながら大石は内心ホッとしていた。
 バスは数台にわかれての移動だ。各バスの責任者は部長・副部長。そのためこのバスには手塚たちは乗っていない。厳しい男テニ部長がいなくてどこまでおとなしくしていられるか……ハッキリ言って不安だった。監督もバスに乗ってはいるが、別のバスだったから余計に。幸い、注意する前に静かになってくれたが。
「すまない。うるさかっただろう?」
 大石たちの乗っているバスは人数が合わず、男子と女子のうち一人ずつが隣り合わなければいけなくなった。
 事前に席を決めていなかったため、バスに乗る前に散々意見が飛び交ったが、結局女テニ部長の由里絵の一言で大石と由里菜が隣り合うことで治まった。
 全校生徒の中で人気を二分……いや、三分する女テニ部員の一人である由里菜の隣りと言うことで、方々から――主に由里菜と同じクラスの菊丸から文句とも羨みとも取れる声が上がったが、大半はその生徒が乗るバスの責任者ににらまれて終わった。大石の乗るバスの生徒は手塚と由里絵によって。
 菊丸も「じゃあ、菊丸君は私の隣りに座ろうか」と乗るバスの責任者である舞子――何故か菊丸は舞子が苦手だ――に言われ、慌てて謝っていた。
 そんな中、由里菜は「私は別にいいよ」としか言わなかったので、内心では嫌なのでは? と大石は思ったのだが、それに気付いた舞子があれで本気だから大丈夫だとこっそり教えてくれた。
 大石は由里菜と同じクラスになったことがなく、由里菜のことはほとんど知らなかったので、由里菜の幼馴染みである舞子の言葉にホッとした。
 
「そんなことないよ。こっちのほうがうるさかったでしょう?」
「そうかな?」
「ええ。男子の様に元気に騒ぐわけじゃないけど、ずっと喋っててうるさくなかったかなって」
 ちょっと心配だったのよね、迷惑かけないか。
「特におしゃべりな子が多いしね、ここに乗ってる女子は」
 
 何考えてこんな班構成にしたのか疑問。
 
 そんなことを言う由里菜に少し驚きながら大石は尋ねる。
「辰巳さんも手伝ったんじゃないのかい?」
「いいえ。だって私、部長でも副部長でもないもの」
 さらりと、どうしてそう思うのかと由里菜は首を傾げる。
「や、辰巳さんと姉妹だろう?」
 どう区別して言おうか。そんなことを一瞬考えたが、通じるだろうと普段の呼び方で由里絵を呼ぶ。
「そうだけど、頼まれなければ手伝わないし、今回の合宿のことはまったく関わってないのよ、私」
「まったく?」
「ええ、まったく……ひとつもね」
「それじゃあ、OB・OGの誰が来るのかは分からないか」
「うーん、どうして?」
 大石の呟きに、由里菜は考える様に言った。それは本当に知らないのか、それとも知っているのかの判断がつけにくいものだった。
「や、手伝えることがあれば手伝うと言ってたんだけど、何も言われなかったからさ。それに、今年は誰が来るんだろうって言う興味も少し」
「あれ? 大石君は知らないの?」
「ああ、誰も教えてくれなかった」
「そうなの?」
 由里菜は驚いた表情をする。
「そっちの部長は知ってるのに」
「え、手塚も知ってるのか!?」
「ええ」
 これには驚きを隠せない大石。
 竜崎たちは由里絵たちに任せると言っていたので、当然知らないと思っていた。手塚なら由里絵に尋ねるだろうが、大石自身は舞子に尋ねて「当日のお楽しみ」とはぐらかされ、由里絵も同じように返したと思っていたのだ。
 そのことを言えば、
「あ、いや、……手塚君は元々由里絵たちが誰に頼めるか知ってただけだから」
「……それじゃあ辰巳さんも?」
「もちろん知ってるよ」
 当然とばかりに由里菜は言う。
「………………」
「私も聞いたわけじゃないけど、由里絵たちが簡単に呼べるOBなんて、OGほどいないもの」
「――――誰か聞いていい?」
 大石が知らなかったとは思っていなかった由里菜なら、もしかしたら答えてくれるかもしれないと大石は期待を持った。
 
「それは会ってからのお楽しみ」
 
 けれど返って来たのは舞子と変わらない言葉。
 
「由里絵たちが言ってないのに私が言うわけにはいかないでしょう?」

– CONTINUE –

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子