Still 5

「それじゃあ、自己紹介を頼むよ」
「はーい……」
 高等部男子テニス部のレギュラージャージを着たのが三人、女子テニス部のレギュラーユニフォームを着ているのが二人。
 そのうち二人が男女ながら似ていて、残りの三人もそれぞれ似ているなと河村は思った。
 それが当たっていたことにすぐに気づくことになる。
 
「私は辰巳由里子。高等部女テニで部長をしています」
 竜崎の促しに、向かって一番左に立っていた女生徒が口を開く。先ほど一番にコートへやってきた人物だ。
「主にシングルスをしています。――――よろしく」
 言った後にぺこりと頭を下げた由里子に、周囲から「よろしくお願いします!」といっせいに声が上がる。
 毎年の光景なので言われた由里子自身驚いた表情もなく隣を促す。
「高等部女テニで副部長をしています、笹山真琴です。私はダブルスをしています」
「男テニ副部長の辰巳昌一(しょういち)、ダブルスです」
「隣の昌一とダブルスを組んでいる笹山千尋です」
「男子テニス部部長をしている笹山悠樹、シングルスです」
 順番に自己紹介が進み、そのたびに全員で挨拶をする。
 ただ、出てきた苗字が二種類しかなかったので……兄弟、もしくは従兄弟同士なのだろうと思う。そう思うくらい同じ苗字同士では似ていた。
 そんな風に誰もが思っていると、ふと気づいたように佐々木が口を開いた。
「そう言えば……由里絵さん」
「はい」
 中等部部員の中では前のほうにいた由里絵に、首を傾げつつ佐々木は尋ねる。
「呼んだのはこの五人だけ?」
 その言葉に、少なくとも佐々木は他にも呼ぶことを予定していたのだと分かる。
 他にも呼べるんだ……と、いつもよりも多いメンバーを見ながら河村は思う。
 ここまで呼べただけでもすごいと思うのに、と。
 けれど河村が思っていたよりも由里絵はすごかったようだ。
「いいえ、もう一人います」
 そう言ってから首をかしげながら前に並ぶ高等部メンバーに視線を移す。
 その中で真琴が答えた。
「今昼食と着替えをしています」
 ここまで休まずに来たので。
「? ……どうやって来たの? 電車じゃなかったの?」
 佐々木はもとより竜崎や由里絵たち……高等部メンバーを知っている全員が首をかしげる。
 それに肩をすくめながら真琴は、
「車です」
 と答える。
「…………運転できたのね」
「出来たみたいですね」
 少し不安そうな表情を浮かべた佐々木に対し、高等部メンバー全員が苦笑する。
 知らないものには一切分からない会話を繰り広げる人たちに、戸惑うばかりだ。
 そんな部員に気づいた佐々木は「無事ならいいんだけどね」と物騒なことを言ってから、残りのOBかOGは置いて先に始めることになった。
 
 
 
「河村君」
「はい?」
 名前を呼ばれた河村が声のしたほうを向けば、舞子が手招きをしていた。
「なに?」
 駆け足で行けば、高等部メンバーも河村を見ていた。
 それに気づいて顔が引きつったけれど、舞子はそれに気づかずに高等部メンバーに河村を紹介する。
「で、残り一人の男テニレギュラーの河村隆君」
 その言葉に河村は各レギュラーが呼ばれ、紹介されていたことに気づく。すでに彼らの側には他のレギュラーがいたからだ。
 河村が最後だったのは、彼らから一番遠くにいたためのようだ。
「と言うことで、覚えてください」
「えー……」
 舞子が言いながら見たのも、声を上げたのも同じ人物だった。
 笹山千尋と名乗ったメンバー。
「…………」
 舞子はおろか、その場にいる全員の視線を受けてしぶしぶ「努力するよ」とは言っていた。
「それじゃあ最初に実力を見ることにしようかね」
 生徒たちの紹介が終わったのを確認した竜崎がそう言ったことで中等部レギュラー対高等部レギュラーの練習試合をすることになった。
 
 とは言っても、高等部側は人数が足りない。
 どうするのだろうと思っていると、「大丈夫だよ」と竜崎は言う。
「それだけの体力はあるだろう?」
 そう言われた高等部メンバーは……げんなりとするもの、表情を変えないものなど、さまざま。
「それでも連続は無理ですよ、きっと」
 口にするのは真琴。他にも頷くものがほとんどだが、そんな彼らに竜崎は「当たり前だよ」と言う。
「全員に見せたほうが勉強になるしね。間に時間はちゃんととるよ」
「それならいいですけど」
 納得した声音に、「それじゃあ最初は手塚、いこうか」と言うので、それを聞いた中等部全員が誰とするのか興味津々と言う表情を浮かべる。
「はい」
 そういってコートに入る手塚。
 それで相手は? と竜崎を見る視線に、苦笑を浮かべる。
 最初に男テニナンバーワンを持ってくればこうなるか、と思いつつ、竜崎は側にいた高等部メンバーの中で一番身長の高い男を見る。
「悠樹、相手してくれるかい」
「分かりました」
 それは高等部男子テニス部の部長、笹山悠樹だった。

– CONTINUE –

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子