Still 7

「それじゃ、早速で悪いんだけどコートに入ってもらえるかい」
「はい」
「……準備体操は当然しているよね」
「もちろんです」
 竜崎の言葉に頷き、佐々木の言葉に笑顔を見せたその人物は、ラケットを持ってコートに入る。
「そう言えば……自己紹介はいいんですか?」
 OGなだけあって、何をしたほうがいいのかは分かっているのだろう。自分の名前を知らないままでは困るのでは、と言う。
「あー……後でいいよ」
 それよりもひとまず終わらせてしまおうと言うことになった。
「それじゃあ、大石、菊丸、入んな」
「「は、はい!」」
 相手が女性なので、次は順番を変えて女テニなのかと思っていた大石と菊丸は、急に呼ばれてあわててコートに入る。
「それから悠樹、入って」
「はい」
 そして残った相手側には最初に手塚を倒し、その後不二まで倒した笹山悠樹が入る。
 そんな二人に向かい合った菊丸は、内心でほんとに似てるなあと思っていた。
 女性のほうが由里絵、由里菜、由里子、そして昌一にまで似ているし、悠樹のほうは自身が苦手な舞子にかすかに重なる部分がある。あくまで見た目が、だけれど。
 血は繋がってるんだろうなと思いつつ、サーブに備える。
 サーブするのは名前の分からないほう。
 けれど、今までの試合から考えて強いんだろうと簡単に予想がつく。
 どれくらい強いのかは分からないけれど――――
 
 
 
「ゲームセット。ウォンバイ辰巳由里香、笹山悠樹ペア。6-0」
 
 ああ、あの人は辰巳由里香と言うのか、と息を切らしながら菊丸は思った。
 そして向こうは一切息を切らしていないのはおかしいだろうと思う。
「大石ぃ……」
「なんだい、英二」
「オレらってそんなに弱いのかなあ……」
「…………どうだろうな」
 同じく息を切らしている大石は、首をかしげながら答える。
 ダブルス1を譲らない、黄金ペアを自他共に認めるコンビのはずだ。それなのになぜ男女ペアに一ポイントも取れなかったんだろうと思う。
「そうじゃなくて、向こうが強いのよ。昔からよく組んでいたから」
「はあ……」
 コートを出ながら思った疑問に答えたのは、何故かタオルを差し出してくれる由里子だった。
「あのペアが私たちの中で一番ダブルス強いのよ」
「そうなんですか!?」
「そうよ」
 驚く菊丸に、びっくりするよね~と言いながら由里子は肯定する。
「普通、男女ペア対男二人のペアじゃ、男二人のほうが強いと思うよねー」
 昌一と千尋は全国優勝もしてるし。
「「え゛…………」」
「え? …………あ、高等部のことなんて知る分けないよね。あの二人はね、去年の全国大会ダブルスでの優勝ペアなの」
「「…………」」
「由里子姉さん!」
「なに?」
 由里子の話した内容にショックを受けたのか、黙ってしまった二人に由里子は首を傾げつつ、由里絵が自分を呼ぶほうへ顔を向ける。
「審判やって!」
「えー」
「…………姉さんだけしてないんだからね」
 駆け寄ってきた由里絵はじっと由里子を見る。
「……なんで中等部でまわさないのよ」
「それじゃあ試合をちゃんと見れないじゃない」
「…………」
「しかも次、由里香姉さん続けてするから誰もやりたがらないし」
「何で私なの!?」
 私も見たい! と言う由里子にしかし、由里絵は何を当たり前のことをという表情だ。
「だから、唯一審判してないのが由里子姉さんなの。だったら姉さんがしなきゃ」
「えー……」
 いやだいやだと言う感情を隠しもしない由里子。
 何と言われようと譲らない由里絵。
 どうなるんだろうとはらはらしながら見ていた大石は、少しはなれたところからかかった声にほっとする。
「由里子、審判」
「…………はーい」
 しぶしぶであったが、それでもすぐコートに移動する由里子。
 あれだけ渋っていたのにこの変わりよう。
 周囲が目を見張る中で由里絵はため息をつく。
「私が言ったときに聞いてれば姉さんに言われずにすんだのに……」
 
 
 
 そうして行われた試合。
 
「ゲームセット、ウォンバイ辰巳由里香、笹山真琴ペア! 6-0!」

– CONTINUE –

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子