Still 8

「…………強い」
 
 レギュラー全員が試合を終えた後の感想は大体がこんな感じだった。
 誰もが勝てず、ポイントは取れるが一ゲームも取れず。
 その状態でレギュラーは真剣な表情で自分以外の試合を見ていた。
 彼らの動き、試合展開。
 基本に忠実のようでそうでない試合。
 シングルスの試合を見れば個性が強そうで決してダブルス向きではないと思わせるのに、そのダブルスになると見事なコンビネーションを見せる。
 その鮮やかさにもレギュラーはそれぞれが成長しようと必死だった。
 試合の最中も乾からもたらされる彼らの中学時代の情報。それをさらに詳しくした彼ら自身からもたらされる情報。
 乾の情報には最年長の由里香のものはなかったので、知らせたのは由里絵たちだったけれど。
 
「それじゃあ、練習始めるよ!」
 
 動きを止めていた部員を動かしたのは竜崎だった。
「各自準備してレギュラーはAコートへ集合」
「その他はE、Fコートで練習開始!」
 顧問たちの指示にしたがって動き出す。
 テニスコートが多いので、レギュラー以外はぞろぞろと移動することになる。
 多くがレギュラー以外なのだが……この合宿のメインはレギュラーなのでいいのだろう。文句を言うものは一人もいない。
「それで……そっちはどうわかれる?」
「じゃあ、私と悠樹が向こうに行きます」
「「「えっ!!」」」
「どうかした?」
 竜崎の質問にすぐに答えた由里香の、その答えに由里絵、舞子、由里菜が声を上げる。
 首をかしげながら三人を不思議そうに見る由里香に、由里絵たちは言い募る。
「せっかく久しぶりに由里香姉さんに練習相手になってもらえると思ってたのに」
「中学と高校で全国三連覇したでしょう? そういう由里香姉さんの指導、受けたいと思ってるよ、みんな」
「それに男テニも、悠樹さんに教えてもらったほうがよくない? 高等部部長でシングルスで全国ナンバーワンなんだから」
 出てくるタイトルのすごさに周囲はめまいを覚えながらも、実際彼女たちの言うとおりなので黙って見守る。
 けれどそんなことは関係ないのか、由里香は表情を変えることなく言い切る。
「合宿は今日だけじゃないでしょう。まだ日にちはあるんだから、私は別の日でもいいでしょう。それに、由里子もシングルス優勝者よ。違いがあるとは思えないし、真琴もダブルス優勝者で、しかも指導はうまいでしょう? あと、男テニに関してはシングルスよりダブルスを強化したほうがいいんじゃない? みんな個性が強すぎよ。しかもダブルスだと相手に合わせる気があるのは私が相手した二人だけじゃない」
「「「…………」」」
「由里絵、舞子、由里菜。お前たちの負けだよ」
 くくく、と笑いをかみ殺しながら竜崎が言う。
 それにがっくりと肩を落としながら……三人そろってつぶやいた。
 
「「「由里香姉さんに口で勝てるわけないじゃないですか……」」」
 
 
 
「それじゃあ悠樹、移動しよう」
「はい」
 頷いた悠樹は、由里香とともに一般部員が移動したE、Fコートに行く。
 それを見送る由里絵たちの表情からは彼女たちがまだあきらめきれないことを見てとれたが、後ろに近づく由里子と真琴にどうなるのかと周囲は見守るしかなかった。
「さて、それじゃあこっちはこっちでやろうか」
 ぽんと、三人の肩に手が置かれると、その肩がゆれるのがはっきり見て取れる。
「私たちでもよかったって思えるように、びしばしいくから安心しなさい」
「ちゃんと教えてあげれるから安心して。由里香姉さんのお墨付きを貰えたんだからね」
 由里子と真琴、二人は笑っているが、なぜか怖い。
 二人の言葉に固まってしまった三人の内二人――由里絵と舞子――を引きずって、由里子たちはそれぞれCコートとDコートに入る。
 残された由里菜は大きくため息をついて、ほっとした表情を浮かべる。
「あの二人を怒らせるから…………」
「自業自得だ」
 千尋に昌一、二人の言葉に由里菜は肩を落としたままC、Dコート側の端に向かう。
 その後に、戸惑ったままの他の女テニレギュラーが続く。
「あーあ。かわいそうに」
「そう思うなら、説明すればいいのに」
「由里菜がすればいいだろ」
「まあ、ね……」
「それよりこっちもさっさと始めよう」
 残った男テニレギュラーのほうを見てから昌一が言う。
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
 全員がそろって返事をすると、ひとつ頷いて千尋が指示を出す。
「それじゃあまずは二つに分かれてそれぞれA、Bコートで順に軽く打とう」
 どうわかれるかは任せるよ。
 そう言い置いて千尋はBコート、昌一がAコートへ入る。
 その後、自然とわかれて男テニレギュラーのOBを指導役にした練習が始まった。
 
 
 
「その体勢じゃ次に行けないぞ!!」
「踏み出しが遅い!!」
「そこ! だれるな!」
 
「…………絶対これ、軽くねえ」
 誰からともなく漏れた声は、女テニレギュラーのいるコートからの声にかき消された。
 
「由里絵! 打ったときの体勢がまだ悪い!!」
「舞子! もっと早く走りなさい!!」
「由里菜!! 相手の打ちやすい球打ってどうするの!!」
 
「…………」
 速い球を打ち、しかも隅から隅まで走らせながらそれでも指摘されることをクリアしようとしていたら、自然と全員の息が上がってくる。
 それでもなお打ち込まれるボールは重い。
 由里絵たち三人を除いたレギュラー陣は、これがあるから一般部員の元へ行った由里香たちがいいと言ったのだろうな、と、そんなことを思っていた。
 
 
 それが大きな間違いとも知らずに。

– CONTINUE –

注:五嶋はテニスをやったことがありません(汗)。
絶対間違いたくさんあるよ……。

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子