Still 11

「おはよう」
「おはよう、乾」
「おはよう」
 朝、乾が食堂へ行くと、不二と大石がいた。
 すでに二人は着替えを済ませている。
「やっぱり君たちは早いね」
 予想通りだ。
 ノートに何か書き込みながら言う乾に、不二は笑みを浮かべ、大石は困ったような表情をする。
「そんなことまで書いているのか……」
「ああ。本当は手塚もいるだろうと踏んでいたんだけどね。いないとは――――」
 寝坊するとは考えられないんだが。
 そんなことをつぶやきながら、ペンをとっている。
「そう言えばそうだね」
 言われてみれば、と思う。
 手塚が寝坊なんて考えられない。
 首をかしげた不二に対し、手塚と同室の大石は別の意味で首をかしげる。
「あれ? でも俺が起きたときには部屋にいなかったけど」
 見なかったから、とはっきり言う大石。
「ふむ。それじゃあ走っているのかな?」
 考えられることと言えばそれしかないかなと乾はつぶやく。
 手塚の自宅は学校から遠い。少なくとも男テニの中では一番遠い。
 そのため普段であれば朝走っている暇はないだろう。
 今日のように朝練のない日には走っているのかもしれない。
 新たな情報を得たと思う乾に大石たちは苦笑する。
 何を考えているかなんて分かりきったことだから。
 
「おや、早いね」
 
「あ、おはようございます」
「「おはようございます」」
「おはよう」
 食堂に顔を見せたのは竜崎だ。
 広い食堂の中に三人だけいる状況に、竜崎は内心で苦笑している。
「しっかり眠れたかい?」
「はい」
「大丈夫です」
「そうかい。昨日は相当鍛えられたみたいだからね」
 今日は寝坊が多いかもしれないと言ってたけど……少なくともお前たちは大丈夫だったね。
「大半はまだ眠ってるだろうけどね」
「あー、英二と桃は寝てました」
「タカさんたちも僕が起きたときは熟睡してましたね」
「他も寝ている雰囲気でしたよ」
「体力が有り余ってる桃城たちが寝てるんなら他は起きれないだろうね」
 女テニもどうやらその傾向があるようで、誰一人としてここへは来ていない。
 ただし、女子は準備に時間がかかる上に部屋にいる可能性も否定できないが。
「手塚がいませんけどね」
「うん? ……ああ、手塚か」
 乾の言葉に一瞬首をかしげた竜崎だったが、すぐに思い出したかのように頷く。
「手塚なら外にいるよ」
「走っているんですか?」
「いいや。……まあ、走っていると言えば走っているけどね」
「???」
 否定しながら同意する竜崎に、三人は首をかしげる。
 意味が分からないといっているそれに、竜崎は笑いながら「行ってみるかい?」と問う。
「……はい」
 何がなんだか分からないまでも、竜崎は手塚が何をしているのか分かっていると言うことは理解できた三人。
 不思議そうな表情をしながらも竜崎の後について食堂を出た。
 
 
 
 竜崎が向かったのは大石たちが昨日散々OB・OGからしごかれたテニスコート。
 向かう途中から、かすかにボールを打つ音が聞こえてきて、三人はまさかと顔を見合わせる。
 こんな朝早くから?
 けれど実際そうなのだろう。ボールの音とともに複数の声がだんだん聞こえてくる。
 そして思った通りというか、考えていなかったメンバーもいたが、大方予想通りの光景が広がっていた。
 
「おはようございます!」
「おはよう」
 四人に気づいた舞子が挨拶をしてくる。
「「「おはよう」」」
「おはよう。早いね」
「……いや、それは江夏さんのほうだろ」
「まあ……そうかもしれないね」
 笑みを浮かべながら言う舞子に、大石は問う。
「いつもこんなに早く練習しているのかい?」
「ううん。朝早くないときだけ」
 大石が指す先にはOB・OGの六人と、由里絵、由里菜。そして手塚。
 由里絵や由里菜がいる理由はわかる。
 けれど手塚がいる理由が分からないまま、とりあえず最初に疑問に思ったことを問う。
「朝早く……?」
「朝練があると、早く起きてもすぐに出なきゃいけないから、姉さんたちと練習している暇がないのよね」
 学校までが遠いからね。
「……どこに住んでいるんだっけ?」
 同じクラスだけれど、一、二年のときは別のクラスだった大石。不二や乾は一度も同じクラスにはなっていない。乾は情報としても持っていなかったので、黙って聞いている。
 そして舞子の口から告げられた地名に目を見張った。
「月ヶ丘」
「え……月ヶ丘!?」
 聞いた大石だけでなく、不二と乾も目を見張る。
 舞子の言った月ヶ丘とは、青学中等部から相当距離のある街の名前だ。
 そこからの通学者がまったくいないわけではないが、青学内では少ないだろうと思われる。
 なにせ、近くには氷帝学園がある。
 その近辺に住む小学生なら青学より氷帝を選ぶだろう。
「江夏は氷帝に行こうとは思わなかったのかい?」
「へ?」
 乾のさらりとした問いに、ぽかんとした表情を見せた舞子。けれどそれも一瞬のことだ。すぐに意味を悟り、首を横に振る。
「ううん。青学が第一志望だったから。……というより、青学以外の私立は受けてないから」
「……すごいな」
「何が?」
「滑り止めを受けなかったことが」
「だって、青学以外に行く気がなかったから」
 それなら受けるだけ無駄だと言い切る舞子に、乾は何を考えているのか分からない表情で頷く。
「江夏は自信家だったんだな」
「は? ……どうして?」
「滑り止めを受けず、なおかつ青学以外には行く気がなかったんだろう? だからだよ」
「……そんなこと言ったって、由里絵と由里菜も青学以外受けてないよ?」
 あ、あと手塚も。
 さらりと出てきた名前に、乾は首をかしげる。
「手塚とは小学校一緒かい?」
 乾の言ったことから表すように、手塚も月ヶ丘在住だ。
「一緒だけど……って言うより、家が隣だし」
 
 …………
 
「「「は?」」」

– CONTINUE –

2018年12月14日

Posted by 五嶋藤子